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「突然お邪魔してしまってすみません。加濃くんともっとお話をしてみたくて、お家をお訪ねしてしまいました」
「…何か伝言があるって聞いたけど」
「えっと、それは」
「“またおいで”」
「え?」
「部長さんはそう言ってたよ」
私たちはそもそも伝言なんて預かっていない。
言葉に詰まった私の隣で、賢琉くんが滑らかに続きを引き継いだ。
そういえば帰り際、確かに部長さんはそんな事を言っていた。
伝言とは違うけれど、嘘は言っていない…よね。
「…それだけ?」
「うん。僕たちはクラスも違うし、伝えるなら会ったその日のうちの方がいいかなと思って」
「ふぅん」
加濃くんはまだ納得しきっている感じではなかったが、私たちを見る眼差しから警戒するような雰囲気が随分と和らいだのがわかる。
「ところで加濃くん。今日ベタ部に来ていたけど、今まで他に部活をしていなかったのかい?」
「部活は…特にやりたい事がなかったから」
「じゃあどうして急にベタ部に?」
「淡野が、何も部活に入ってないなら一緒にやらないかって。前から誘われてたんだけど、最近までちょっと、忙しくて…」
「それはもしかして伯父さん絡みで?」
「…っ」
ぼそぼそと俯き加減に話していた加濃くんが、弾かれたように顔を上げる。
せっかく少し近付いてくれたかと思ったのに、また一気に距離が開いてしまった。
「ごめんなさい。先程加濃くんが来る前に少しだけお話を聞いてしまったんです。仲が良かった伯父さんが亡くなってしまったと」
また下を向いてしまった加濃くんが話してくれるのを静かに待っていると、今度はカレーのお皿を持った加濃くん母がキッチンから現れた。
カレーの食欲を誘う香りに反応して、私のお腹が小さく鳴る。
「ほら、みんな食べて食べて。おかわりもまだあるから足りない時は言ってね」
「あ、準備お任せしてしまってすみません!ありがとうございます」
「ありがとうございます。いただきます」
腹が減っては何とやら。
カレーの登場に、話は一時中断となった。
「美味しいです、このカレー」
「こないだの調理実習のものとは香りも全然違うな」
「ちょっと賢琉くん、あの時間に追われて作ったものと比べないでください」
「ありがとう。調理実習か、懐かしいなあ。実はこのカレー、スパイスから作ってるの。料理は元々好きだったんだけど、最近はあまり手の掛からないものばかり作っていたから。久しぶりに手の込んだ料理を作りたくなって」
「スパイスからですか。すごいですね。うちはいつもルーで済ませちゃいますよ」
「ルーでも充分美味しいからね。私もいつもスパイスから作っている訳じゃないわよ」
思いの外、カレーで話が弾む中、加濃くんは会話に参加することなく、黙々とカレーを食べていた。
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