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「お線香の匂い…?」
仄かに甘さも感じられるその匂いは、廊下の先、奥の部屋から漂ってきているようだった。
「ああ、実は最近私の兄が亡くなってね。あの子、小さい頃からよく懐いていたから…。毎日朝と、帰ってきてからお線香をあげてるの」
「そうなんですか。きっと優しい方だったんでしょうね」
「そうね。でも自分が気になったものは、わりとすぐに手を出してみたりして、好奇心旺盛な子どもがそのまま大人になったような所もあって。だから年の離れた甥っ子とも仲良く出来たのかもしれないけど」
二人が遊んでいた光景を思い出したのか、微笑みながら話しつつ、リビングへと案内してくれた。
ダイニングキッチンも兼ねられていて、間仕切りがない分とても広々として感じられる。
「ところであなたたち、お腹空いてない?ちょうど今から食べるところだったんだけど、カレーでよければ一緒に食べていって」
「あ、いえお構いなく。私たちはすぐに帰りま「いいんですか?それはぜひご馳走になります。カレーの匂いを嗅いだらお腹空いてきちゃって」
「さすが食べ盛りね。永斗が来るまで座って待ってて」
断ろうとした私の言葉を遮り、賢琉くんが止める間もなく答えてしまう。
席へ促され、加濃くんの母親がキッチンへ向かうのを見届けてから、小声で賢琉くんに詰め寄った。
「ちょっと、何考えてるんですか!夕食までご馳走になるつもりはありませんでしたよ!」
「僕も最初からそんな図々しい事を考えていた訳じゃないさ。でもせっかくだし、この方がゆっくりといろいろな話を聞けるだろう?」
「あー、もう。これじゃあ私が付いて来た意味ないじゃないですか…。こうなったら仕方ありません。加濃くんと、先程出てきた伯父さんという方のお話を、出来るだけたくさん伺いましょう」
「真実のそういう切り替えの早いとこ、好きだよ」
「だからからかわないでくださいってば。私だから大丈夫ですけど、他の女の子に言ったら勘違いされちゃいますよ」
「ふふっ、そこは心配ない」
私が諦め…いや、腹を据えた所で、トレーにコップを並べた加濃くんの母親が戻ってきた。
「おまたせ。今、永斗も呼ぶからちょっと待っててね」
そう言うと、廊下から二階に向かって呼び掛ける。
すぐにドアが開く音がして、階段から降りた所で私たちに気付いた加濃くんの動きが一瞬止まった。
やはり急な訪問を不審に思うのだろう。
こちらの様子を窺うようにしながら、加濃くんも席に着いた。
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