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張永さんを先頭にして、ベタ部へ向かう。
文化部の部室が集まる学校の一角にそれはあった。少人数の同好会など、二つで一つの教室を使っている所もあるが、ベタ部は教室一つを丸々割り当てられているらしい。
元倉庫だった私たちの部室とは大違いだ。
「これがベタですか。綺麗な色ですね」
部室に入ると、早速ベタを見せてもらった。
部屋の端々に小さめの水槽が置かれ、それぞれにベタが入れられている。
大きなヒレがゆらゆらと漂う姿も美しい。
この魚たちが喧嘩をするなんて、ちょっと想像が付かない。
「それで、増えたベタというのは?」
一緒に水槽を覗いていた賢琉くんが振り返って聞くと
「こっちにいるのがそうだよ」
張永さんが、少し間隔を開けて並ぶ四つの水槽を指し示した。
「なんだか大人しいですね」
「別に四六時中周りを威嚇している訳じゃないからね。今はみんな分けているんだけど、最初に見付けた時は四匹とも同じ水槽に入っていたんだ」
「四匹とも?でもベタって同じ水槽に入れちゃいけないんですよね?」
「そう。だからほら、喧嘩したみたいでこの子のヒレがちょっと傷付いちゃってるんだ」
言われてよく見れば、確かにヒレが少し欠けてしまっている。魚にも痛覚があるのかはわからないが、なんだか痛そうだ。
「今は繁殖に挑戦していて、このヒレの小さい子がメスなんだけど、この子とこっちのオスを同じ水槽に入れていたんだ。相性も悪くないみたいだったから様子を見ていたんだけど、今日見たらこの二匹のオスが増えていて…」
「それで
話をまとめるように賢琉くんが呟いた。
事のあらましはわかった。でも盗むんじゃなくて増えたというのはどういう事なんだろう。
「ただいま戻りました」
とそこへ、ドアを開いて二人の男子生徒が入ってきた。
先に入ってきた方は細い銀の縁取の眼鏡を掛けている。“ただいま”と言う所を見るとここの部員のようだ。
その後ろ、続けて入ってきた生徒は少し俯きがちで顔はよく見えない。
「おかえり。そちらが見学の?」
「はい!あれ、他にもお客さんが来ていたんですね」
「ああ、こちらは文化研究部の方たちだよ。増えたベタの事で来てもらったんだ」
「あのお悩み解決部の!」
そう言うと、眼鏡の男子生徒が後ろにいる生徒の腕を半ば引っ張りながら私たちの前まで来た。
「こんにちは。僕は1-Cの
「初めまして。私は文化研究部の清川真実です。こちらは」
「澄岸賢琉だ。1-A。加濃くんはベタを見に来たのかい?」
加濃くんは急に話を振られて驚いているようだったが、一度ちらりとこちらを向いてから答えてくれた。
「あ…うん。どんな魚なのか見てみたくて」
「私も今日初めて見たんです。綺麗な魚ですよね」
「うん。…あっちのベタも別々にしてるの?」
「ベタって同じ水槽で飼っちゃいけないそうですよ」
「そうなんだ。でも前に見た時は一緒に入ってたような気がしたけど…。そうやって飼ってるところもなかったっけ」
「ああそれはね」
私たちを手招きして件のベタの水槽の方へ移動しながら、淡野くんが説明してくれる。
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