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「はい、どちら様でしょう?」


扉を開けて迎えに出ると、眼鏡をかけた色白な男子生徒がそこに立っていた。

名札のラインの色からすると、三年生のようだ。


「…ここって文化研究部で合ってる?」

「はい、合ってますよ」

「よかった。俺はベタ部の部長をしている張永はりながと言います」

「ベタ部」


何の部活かわからず繰り返すと、いつの間にか隣に立っていた賢琉くんが説明をしてくれた。


「ベタとは闘魚とも呼ばれる熱帯魚で、名前に“闘う”という字が付けられるだけあって、なかなかに気性が荒い。特にオス同士を同じ水槽に入れておくと喧嘩をしてしまうらしい。真実はベタを見た事はあるかい?」

「いえ、見た事ありません。熱帯魚と言ったらネオンテトラくらいしか…」

「あまり手間が掛からなくて初心者にも飼いやすい魚だね。ベタは美しい姿をしていて、観賞用にも人気なんだ」


熱帯魚と聞いて真っ先に思い浮かんだネオンテトラは、近所の病院の待合室で見た事があった。

小さい頃、風邪を引いて病院に行く度に水槽の前に立ち、母に呼ばれるまでずっと泳ぐ姿を見詰めていた。


「そのベタ部の部長さんが、うちにどのようなご用事ですか?」

「もし違っていたら申し訳ないんだけど、ここに相談すれば何でも解決してくれるって噂を聞いて。それで、事件って程ではないんだけど、うちの部で起きた話を聞いてほしいんだ」


そう。私たちだけでやっている文化研究部は、いつの間にかお悩み相談室として扱われるようになっていた。


きっかけは同じクラスの女子の些細な相談。

少しアドバイスをしたところ、賢琉くんの影響か、部の出来方が出来方だったからか、それともその両方なのかは不明だが、女子を中心に噂が広がり、創設して間もないにも関わらず、度々依頼人よろしく他の生徒が訪れるようになったのだ。


「…相談室を開設したつもりはないんですけど、私たちでよければお話聞かせてください」

「ありがとう。うちの部活は実際にベタの飼育も行っているんだけど、今日部室に行ったら」

「いなくなってたんですか」

「いや。増えていたんだ」


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