~episode1~ 1


神様は不公平だ。

別に、本気で神様に文句がある訳でも、世の中の不平不満を訴えたい訳でもない。


それに、みんながみんな同じ世界だなんて、気持ち悪い上に面白味もない。

いろんな立場や性格の人がいてこそ世の中回っていると思う。

ただ―。


真実まこと、こっちに来て一緒にお茶でも飲まないか?」


…もうちょっと平等に近付ける努力はしてくれても良かったんじゃないかと思う。


午後の柔らかな日差しを受けて艶やかに煌めく茶色がかった髪。

腰掛けた椅子からしなやかに伸びる脚。

細長くて綺麗な指先でティーカップを持ち上げる仕種も様になっている。


そこらのアイドルにも全く引けを取らないような整った顔で、微笑みながら真っ直ぐこちらを見詰める瞳と視線が合えば、大抵の女子はうっとりとして頷くだろう…が。


「見てわかりませんか?私今テスト勉強中なんです。のんびり休憩している暇なんてありません」


迫る中間テストに向け、私は数学のノートを広げながら、事前に渡された対策プリントの攻略真っ最中だった。


そんな私とは対照的に、部室で優雅に紅茶を飲んでいるのは澄岸賢琉きよぎしかたるくん。


出会いは入学式、新クラス。

清川きよかわと澄岸で名字が近かった為に前後の席になり、授業やオリエンテーションを通して少しずつ話をするようになってから、何かと一緒に行動することが多くなった。


「テストなんて普段の授業を聞いていれば、わざわざ復習する事もないだろう」

「世の中には、授業をちゃんと聞いていても復習が必要な人の方が多いんです!それよりも、あとでその机の上、片付けといてくださいね」


この部の発足人であり部長でもある賢琉くんは、テスト前に余裕を見せつけているだけあって頭が良い。


入試の際にも歴代トップに匹敵する点数を叩き出したとかなんとか…。

まぁこれはあくまで噂だけど。


(こっちは平均点との勝負だって言うのに、授業以外で勉強している素振りもないのに成績優秀って言うのが…もう!)


“部”と言っても部員は二人だけの文化研究部。

この部活は元々あった訳ではない。

賢琉くんが、全国模試で一位を取るという約束のもと、空き倉庫になっていた部屋を確保したのだ。


あっさりと一位を取ってしまう賢琉くんは素直にすごいと思う。

ただ、先生との交渉を丸投げされたのは私だ。

私の苦労ももう少し労ってほしい。


「真実」


不意に名前を呼ばれる。


「何ですか」

「休憩がてら、一つなぞなぞを出してやろう」

「だから私は勉強中―」

「それじゃあ問題」

「ちょっと、話聞いてましたか?」

「うちのポチは名前を呼ぶとニャーと鳴きます。それはなぜでしょう?」

「…くだらない事言ってるなら私は勉強に戻ります」

「大切な事なのになぁ」


その時、部室のドアをノックする音が聞こえた。

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