玉座の間

謎の未来都市の中心に鎮座する巨大高層ビルの下に六人は合流し、それぞれの探検した町を報告し合うが、やはり、自分たち以外の人間や生物がいない。

「俺と百合恵さんが見てきた所は、商店街やショッピングモールみたくたくさんのお店があった。飲食店や服屋、宝石店、おもちゃ屋から本屋にパン屋と」

「でも、お店の中に入れても誰もいないわ」

煉と美華は植物園や公園の写真を撮影して見せた。

「だけど、誰もいないのに花たちは手入れされている。薔薇やチューリップやタンポポ、コスモス、ひまわりと季節がバラバラの花たちが咲いていたんだ。さらに、ラフレシアやシベリアの針葉樹林やハワイやタヒチの南国にある椰子の木なんかの群生地がバラバラの植物たちがあったんだ」

「公園の花壇だけでなく、噴水や池の水もきれいな真水だったわ。さらに、オブジェとしてある彫刻や東屋の屋根飾りなんかも誰かが丁寧に手入れしているのか傷も汚れもなかったわ」

「確かに、広大な大都市だけど私たち以外の人間が一人もいない。さらに驚いたのは野良猫や野良犬、ネズミみたいな動物もいないわ」

「空を見ても鳥が一匹も飛んでいないし、小さな蚊やハエも飛んでいない」

全員で互いを見つめ合う。だが、白金の巨大ながらんどうの高層ビル郡は何も答えてはくれない。ただ、静寂の時しかなかった。

「もう、いっそう、帰れないならこの町で暮らすのはダメかな」

煉が遠くを見てつぶやく。

えっと、美華たちは振り向く、彼は澄んだ瞳をして続けた。

「いつ、町に戻れるかわからないし、それなら、この町はどんな仕組みになっているかわからないけど、その時まで…美華さんたちとここで暮らしたい。美しい花たちもあるし、綺麗な水もあるし…何より、僕らだけが独り占め出来る世界だから」

煉の回答に、鎧が、

「煉、本気で言っているのか、確かにここなら、テストや宿題もないけど、お医者さんや看護師さんもいないんだぞ。病気や怪我をした時にどうするんだ?食べ物や飲み物だって…」

「煉…僕も鎧と同じ意見だ。ここは何があるかわからない町なんだよ。もし、元の住人たちが帰ってきたら、僕ら侵入者として、この町の警察や軍隊みたいなのに捕まるよ。牢屋に入れられて、いきなり死刑にされるかもしれないよ!!!」

鎧と鋼は反対し、元の世界に帰れる方法を考えようと言うが…

「あら、いいんじゃないかしら」

美華は煉の意見に賛成した。

「美華先生…」

「せっかくの近未来な町、世界に来られたのに怖がるなんてつまらないわ。大丈夫よ。帰れる時まで私たちが鋼くんたちを守ってあげるわ」

杏子は鋼を後ろから優しくふくよかな谷間に抱きしめて言う。

「杏子さん…」

「この町から帰れる日までは、肩肘張らずに色々発見したり、新しい何かを見つけましょう」

「百合恵さん」

ウインクする百合恵には大人の余裕が見えた鎧だった。

煉は彼女たちの言葉に安堵する。しかし、次の瞬間、女帝三姉妹はにこりと微笑みながら、

「テスト、宿題がないとか言っていたけど、…鎧くん、あなた達には現役美人教師三姉妹がいるじゃない。大丈夫よ。ちゃんとマンツーマンでしてあげるわ」

鎧、煉、鋼は“うげぇ”となった。

そうだ。この世界に来る前に三姉妹に算数や国語、社会、英語、理科に家庭科などを厳しくレッスンされ、さらには、ランニングや筋トレで鍛え込まれていたのを思い出した。

「さて、それじゃ、この建物を、私たちのこの世界の新しいベースにしようかしら」

百合恵は、その巨大なビルに目を向けた。未来都市の中心に座している巨大な大摩天楼たちのキング的な建物、しかし、このビルは似ていた。

「わぁー、広い!」

「ガラス張りでお日様の光が入ってくるわ。綺麗」

「まるで、宮殿みたいだわ」

「素晴らしいわ」

昨夜までいたメーアスブルクホテルのロビーみたく美しく、壮大な壁や柱の装飾や巨大な屋内の黄金色に輝く屋内時計台、煉と美華が見た植物園の花たちが百花繚乱が咲き乱れ、噴水や池の水は青く美しかった。残念なのは、店内BGMや他の人々の笑い声も何もないからさみしいものだった。

六人だけの世界…

杏子、美華、百合恵は巨大ながらんどうの世界に不安を感じていた。だが、子供たちの前で不安は見せてしまうと恐怖を与えてしまう。

しかし、「美華さん」「杏子さん」「百合恵さん」と彼女たちを呼ぶ鋼たちの声、すると、ロビーの中央にある大きな飾りの付いたソファーがあった。

「座ろうよ!」

「せっかくだから、写真撮ろうよ!」

「百合恵さん、隣に座って」

鋼と杏子、美華と煉、鎧と百合恵は並んで座り、六人のスマホを並べて”カッシャ“と撮影した。

全員笑顔で撮影した。

それは、玉座の間に座する王子と女帝たちのようだった。




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未来の名は 古海 拓人 @koumitakuto1124

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