巨大ながらんどうの中で

巨大な大摩天楼群はただ太陽の光を浴びて、アルプスやヒマラヤなどの大巨峰のように立ち並んでいるだけだった。百万人以上はいてもおかしくないその大都市の歩道橋を歩いているのは、

「私たちだけだね」

「杏子先生、さっき言っていたこの町を見たことがあるって…僕も見たことがあるんだ」

「私も…でも、思い出せないのよね」

何かで見た町の記憶…二人の大好きだった何か…

「けれど、思い出せないなら、また、思い出せるまでは待てばいいわ。だって、それで命が終わるわけではないのだから…」

杏子が笑みを浮かべる。

すると、鋼は彼女がホテルを出る時と同じ思いに包まれた。

なぜなら、クラスの女子や近所の可愛らしい年下の女子や自宅前を通る女子中学生や女子高生や女子大学生などとは違う。成熟し、この世界の理をすべて知っている大人の女性に鋼は…

がらんどうの静寂の中で、少年の恋心は動きを強くしていた。

それは、隣にいる彼女もそうだった。

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