花園  

自分たち以外は誰もいないので、天井から注ぎ込む陽光は白亜の梁や柱を照らし、アクアブルーのガラスをよく照らしていた。

観葉植物や中に飾られている花壇の花も元気に育っている。

「美華さん、見てよ。ホテルのロビーにあったブルーローズの花と同じ種類だよ。凄いや青より蒼の名前が合いそうだ」

煉はその蒼き薔薇に瞳を奪われてしまった。

美華は彼が花好きな一面を見て、少しだけ微笑んだ。

「煉くん、ブルーローズを知っているなんて、凄いわ。薔薇なら、赤、白、黒しか知らない人が大半なのに」

「前に本で読んだけど、これまで実現不可能と言われていた時代があったけど、品種改良でようやく実現したって、バラそのものも、フランス皇帝のナポレオンの奥さんであるジョゼフィーヌ皇后が品種改良で育ってたのも有名だよ」

美華は「ワォー」とその博識な彼に驚いた。

小学五年生なのに、ここまで花に詳しく、さらにジョゼフィーヌの時の皇后の名前まで知っているなんて…そういえば、煉の将来の夢は植物園で働くことって書いていたのを思い出した。

すると瞼に、自分と同じ背丈になった煉が水色の作業服と帽子を被りジョロで優しく薔薇やチューリップを手入れしている姿が浮かんだ。

そして、向こうからお弁当を届ける妻らしい女性の姿が、

(ちょっ、待って、私ったら何を考えてるの!!!いくら、彼がカッコいいからって十三歳も年下なのよ。落ち着くのよ美華)

すると、煉が彼女の手を引いて、広いホールの真ん中まで誘導してくれた。

「美華さん、見て見て、花園だよ。天国みたいに美しい花たちが咲き乱れる楽園だよ」

煉は瞳をキラキラと輝かせて言った。それは、まるでプロポーズをする前の男性が、好きな女性に永遠に残る場所を教えるかのように…

美華はそっと彼を抱きしめて、彼も小さな体で力を優しく入れて返した。

百花繚乱の中心世界で…


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