夢見た世界とは違う未来

ガラス張りの大摩天楼が立ち並ぶ近未来的な都市は青空に包まれて、街路樹が美しく歩道に立ち並んでいるが、道路は対向車は一台もなかった。歩いている歩行者はいない。

バス停らしい場所に乗客は一人もいない。カフェや商店があっても誰もいない。

だが、こんなことは起こるはずがない。なぜなら、この街の人口は七十万人はいる一大港湾都市だ。

人間が一瞬で神隠しみたいに消えるなんて、あるはずがない。

漫画や映画の世界じゃあるまいのに、六人は、町を、その未来都市を調べることにした。

「誰かいませんかー!!!」

「おーい」

「誰か」

車とバイクを駐車場らしいスペースに駐めて、オフィスやカフェ、住居、ガソリンスタンドらしいお店などあちらこちらを探した。

だが、ただ山びこのように、鋼、杏子、煉、鎧、美華、百合恵の六人の声だけしかしなかった。むなしく自分たちの声だけしか響かず、ただ虚しかった。

「だめだわ。これだけ探しても人っ子一人いないなんて」

「人だけじゃなく、犬や猫もいないし、鳩やカラスみたいな鳥も一匹も空を飛んでいないよ」

鎧がへとへとになりながら言うと、

「鎧くん、鳥の数え方は一羽や二羽よ」

百合恵が間違いを指摘すると、鎧はキシシと意地悪く笑う。そお、わざと間違えて気を引いたのだ。

「こら、大人をからかわないの」

「良かった。百合恵さんが少しだけ元気になって」

すると煉や鋼は、

「鎧らしいな」

「昔から、ママが困っていたら、あぁやって手伝うんだよな」

杏子と美華もそんややり取りを見て笑う。

やはり、男の子、いや男性は素直にするのが苦手なツンデレタイプが多いのだろう。なぜなら、三姉妹の父や祖父、おじも同じだからだ。

誰もいない孤独な都市が少しだけ、暖かくなった。

煉は辺りを見渡しながら、あることに気付いた。

それは、時間だった。

「確か、今日って、2024年の5月だよね?あの観覧車の時計を見て…」

煉が指差す時計はデジタルだが、時間と日付に六人は目を疑った。

…西暦2518年5月18日…

「五百年後!!!」

なんと、六人が暮らしていた時代から五百年も経っていた。どうりで町がこれだけ発展していると感じたが…だが、人の姿がないのは、車や飛行機、信号機の機械音もしない。これだけの大都市なら東京や大阪と同じくらいはいるはずだ。

自分たちだけなんて…

「まさか、ドッキリなんてことはないわよな」

「そうだよ。だって、僕や美華さんたちとメーアスブルグホテルから県道バイパスに向かったんだから…フロントのスタッフさんや他のお客様たちもいたんだ。入口の守衛さんだていたんだ」

「それに、映画やらドラマの撮影しているとかなら、立入禁止の札とかあるはずだしな」

鋼、煉、鎧はもう一度知っている建物や景色がないか辺りを見回した。すると、鎧は何かこの都市を見た記憶があった。

「この町、どこかで見た覚えがあるんだよな…」

百合恵たちは、鎧の一言に驚く。

「鎧くん、ここは五百年後の世界よ。どうして、令和に生きている君が見たことがあるなんて、バカもやすみやすみ言いなさい」

「百合恵さんの言う通りだよ。つまらない冗談を」

煉も注意する。

「鎧くんの言う通り、私も何かでこの町を見た記憶があるわ…」

美華も鎧と同じように、建っているタワマンや屋上にある公園かヘリポート、高速道路の景色を何かで見たことがあるようだ。

いったい、この町の正体は…

六人はホテルを出る時、ある願いを夢見た。

それは、このまま誰にも邪魔されない甘く楽しいお菓子のような時間が続いてほしい、いや、永遠になる未来になってほしいと願っていたからだ。

しかし、現実になってもそれはまったく違う






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