リザ二十才 1

 ローゼンヘン館からデカートまでの道のりは険しいというほどではないのだが、鉄道のついでで館からヴィンゼまでの道は多少手を入れたものの雪があるとそれなりに面倒で、ヴィンゼからデカートまでの道のりというものは駅馬車があるとはいえ、往来も多くなく雪だまりがあちこち出来ており、雪中百リーグと云えば大げさだが、用のない人々が好んで進む道ではなかった。

 とはいえ、グレカーレを手放した後に余らせている舟はなく、馬車とは違い機関車ならばと乗り心地を試す機会であったのは間違いない。

 少なくともヴィンゼまでの道のりは二日に一回は誰かが往復しており、絶界というわけではない。

 どうして狼虎庵から一報がなかったのか不思議に思っていたのだが、一行はシレッとヴィンゼを素通りして川沿いを進んできたということだった。

 途中まで駅馬車と同道して食事と薪を節約しつつ、街道がザブバル川に繋がる流れを跨いだ後に町へ向かう街道を流れの反対側下流に進むとローゼンヘン館の川口につながる支流に出る。

 道を無視してまっすぐ北に向かうと多少岩がち丘がちで馬車には向かない土地だが、林や下生えは薄くデカートからローゼンヘン館にはそちらのほうが距離は短い。途中スピーザヘリンの農場があって馬の渡りにくい流れがあるが、何箇所か橋がかかっているので、無理をせずに北上すればやがて船小屋のある屋敷の裏手に出る。

 野営を少なくするための日程はある程度のノウハウがあって、道中順調であれば駅馬車も本当の意味で野営をする必要は殆どないわけだが、荒野の旅というものは必ずしも計算を許しはしない。ヴィンゼとデカートの間の駅馬車は二等以上の客が乗るときは客が新品の車軸と車輪を席代とは別におごるのが通例になっている。

 デカートとヴィンゼの間には井戸と屋根のある竈はいくつかあるが、民家と云うべきものは本当に少なく、宿はまったくない。かつては宿があった土地もあるのだが、今はいろいろな理由で残骸のような建物の跡が竈と薪代わりになっていて井戸があるばかりだ。

 駅馬車が寄るような宿というものはおよそ、駅馬車の馬引の連中の家族が経営している山賊と押売の間の子のような宿になるわけだが、そういうアコギな商売さえ成り立ちにくいほどにデカートとヴィンゼの往来は細いし客の懐は薄く乾いている。

 そういう土地であればなおさらヴィンゼで一泊すれば良いものをと思わないでもないのだが、保安官と顔を合わすのはちょっと気まずい、という理由であったらしい。

 そう言ったリザを見て流石にセラムはお愛想に肩をすくめたが、秣も十分だったし冬支度もあったから風さえ凌げれば、野営に苦労する土地ではない、と女性士官たちは戦場帰りの頼もしさで口にした。

 セラムの乗馬は彼女自身の愛馬の一頭で前線につれていた四頭のうち二頭は帝国の第一撃でもろともに亡くなったが、ギゼンヌに留め置いていた二頭は痩せ衰えてはいたものの辛うじて籠城戦の期間を生き延び長旅に耐えていた。

 冬場の旅に女四人騎馬五頭というのはなかなか気合の入った旅程だったと思うが、セラムの愛馬にとっては厩でやせ衰える日々よりは遥かに扱いよろしく感じたらしく、冬の旅程で却って馬体は増したということだった。とはいえ、鞍を解いて足場を気にしないですむ雪野原で他の馬と戯れるのは軍馬にとっても気晴らしになるらしい。



 出来上がったばかりの旅客用機関車の四輪に滑り止めの鎖を巻き多少の資材と工具の手当をして、マジンは客人とアルジェンとアウルムを伴い、機関車で陸路デカートの春風荘へ赴くことにした。

 もちろん見せびらかしたかった機関車の性能に客人たちが驚いてくれたことにマジンは満足しつつ、滑り止めをしてもやはり雪道ではしばしば機関車の足が掬われることには不満を抱いていた。

 デカートまでの道のりで幾度か雪で往生していた荷駄を助けつつ、その日の昼前に滑りこむように到着したのは客人たちには驚きだった。

 これがあれば荷駄の話はケリがつくんじゃないか、とセラムは口にしたが、そうするためには最低でも百両単位で二桁準備しないとならない。そしてほぼ間違いなくそれだけでは済まず、そうやってケリをつけた払いは読めない。女たちは出来上がったものの話だけをしているが、そもそもの材料をかき集めるところが責任になる。というところでマジンの中では面倒を感じていた。

 とてつもなく大雑把な桁読みの段階として、その前の見積もりのための下組としていくらかの機械は作られていたし、そこそこの性能も出ていた。

 おそらくセラムが見れば膝を叩きそうな狼虎庵の貨物機関車は、先行する形で実用に供され細かな事故を何度か起こしていた。そういう事件がはるか遠くの道の何処かで起きるとして、そのことの手当ができるのは事故が起きてからかなりの時を経た先になる。

 それは結局のところ水槽の中を泳ぐ観賞魚と大差ない脆弱性を抱えている実用品というには心もとない部分が多かった。

 そして、実用品とするためには鉱石を重さで二十倍も必要とするように、素材をやはり十倍も集め部品をそろえ、床や倉庫がそうであるように製品のそのものの何倍もあるような仕組み枠組みをそろえてゆく必要がある。

 そのために事業を爆散させない程度の速さ穏当さで拡大再生産させる必要がある。

 当面しばらくは全ての手当の責任がマジンの頭の上に振ってくることになる、という予想は蓋然性というよりは必然でもあり嬉しくない厄災の予感だった。



 春風荘の食堂では寮生を中心とした学生たちが午前中の試験の反省復習と明日以降への試験に向けた勉強をしていた。

 ソラとユエは突然の応援の来訪に素っ頓狂な声と出しつつ姉たちに飛びついた。

 食堂にはユーリとウェイドもいた。寮生の同窓生がいたらしく、それぞれの学生のグループで勉強をしていた。ウェイドは驚いたようにユーリは嬉しそうにこちらを見て、それぞれ小さく身振りでこちらを認めたことを知らせた。

「あ~!リザ様だぁ!どうしたの!なに!それリザ様の子供?スゴい!かわいい!小さい!ツヤツヤの黒髪だぁ!いいなぁ~。わたしも黒いほうが良かった」

 ソラとユエは似たような声でどっちが出したのかわからないようなタイミングで口々に同じようなことを叫んだ。

 ふたりの陽の光を漉かしたような金髪はリザなどは羨ましいと感じるわけだが、お世辞というよりは単に気分の問題なのだろう。

「ソラ、ユエ。嬉しいのは分かったけどはしゃぎ過ぎ。皆が勉強しているところで邪魔をしてはいけない」

 アウルムが声を荒げる事無く淡々とふたりを窘めた。

「父様。舟舎の方に行こう。ここだと皆の気が散る」

 アルジェンが食堂を見渡し提案した。

 マジンが学生に一言謝り、ソラとユエを連れて舟舎に河岸を変え腰を据えた。

 月に五十タレルという春風荘の寮費は学生寮としては安いものではなかったが、ともかく夏涼しく冬暖かく、風呂に入れ、蝋燭代がいらない。そして便所が臭くない。という多くの長所があり、食事もそこそこ量があり食えるものが出てくる。と入っている学生たちには評判は良かった。

 春風荘の食堂は寮生がいる限りは電灯が灯る原則になっていて、その明かりを求めて蝋燭代に事欠くような学生が窓の外に屯をするような雰囲気ができていた。

 そういえば夏休みに寄った時につけた覚えのない屋根が張り出していたり、ベンチと机が食堂の窓の脇にあった。いまは流石にそういう風にするには寒すぎるが、代わりに寮生を頼って食堂の中に入り込み、灯りと暖を求めて勉強しているという。試験期間の前にはそういう雰囲気ができていて、知らない人が来ていて楽しい、とソラは言っていた。

 妙にひねた年寄りが混じっていなければ構わないか、と生ぬるく考えたが、はてどんなものがひねた年寄りなのかについてはなかなか定義が怪しく、年齢で刻むにしても十を超えれば一端の悪党も多く、何かあったら父様にすぐ言うんだよ、としか言いようがないのが困ったところだった。

 そういうマジンを見て、過保護ね、とリザは笑ったがマジンとしてはすぐ脇に屋根で繋がった建物が自分の舟舎である以上は相応に責任問題でもあった。

 少ししてアミラとグルコの姉弟とロゼッタが休憩になったということで顔見せに現れた。

 厄介になっている家の主人が連れてきたそれぞれに見目身なりの整った女性の中のリザについて、父様の求婚者で愛人、というまた扱いに困る紹介をあっけらかんとされたときのアミラとグルコの顔はちょっと気の毒なものだった。リザがそこに輪をかけて、他の三人も愛人よ、とやったので流石にソラとユエにもどういうことなのかよくわからないようになっていた。

 そういう一幕はあったものの、順調だったりそうでなかったりではあるなかで、子供たちはそれぞれに学志館での生活を送っていることは食堂の雰囲気で分かったし、そのことはマジンの望んだとおりであった。

 エイザーに言いつけて張り出しの屋根に電灯をひとつ街灯代わりにつけてやろうとマジンは考えた。

 一行は子供たちの様子を見て夕食を鴨鳴亭でとった。



 鴨鳴亭の料理は相変わらずなにをどうやったのかという見てくれ食感のものが多く不思議なものだったが、ともかくも美味しく楽しく、最後を飾った胡椒のきいた紅茶のお菓子は香り高くピリリと甘い。というものでチーズの旨味と紅茶の苦さ渋さが残っているので、概ね舌の機能のほとんどすべてをつかうという逸品だった。

 その後、一行は機関車で月明かりの夜道を走り、夜半すぎに館の門扉をくぐりたどり着いた。門扉の警報で起こされただろうセントーラは、文句も言わずに一行を出迎え風呂の準備が整っていることと、温かい飲み物があることを告げた。

 リザはセントーラにエリスを預け寝かしつけることを頼むと、帰ってきた一行全員で風呂にはいることを提案した。あたかも女主人であるようなリザの振る舞いにセントーラは黙って従い、アルジェンとアウルムは困ったような顔をしてマジンを見たが、まぁいいさ、というマジンの言葉に同意した。

 耳元から顎の奥背骨にむかってそのまま腰骨まで背骨に沿うように毛の帯があり、尾の付け根から股間を至り臍下まで毛が伸びている二人の裸体は服を脱いでも、扇情的な衣装を着ているように見える。

「まだ生えそろっていないんだね。かわいいな」

 他に獣人を見たことがあるらしいセラムは評したが、二人の他に他に獣人を見たことがないマジンは今ひとつピンとこなかった。

「ふたりとも本当に美人ね」

 リザはマジンにしなだれかかるようにしながら言った。

 マジンが広い浴槽に寝そべっているとそのまま彼女はマジンのくつろいで緩やかに膨らんだ性器をしごくように弄びながら舌なめずりのようなくちづけをして張りをもたせると、のしかかるようにして彼女自身は服を脱いだ時から準備の整っていた胎内深くに一気に導いた。

「おい。いきなりかよ」

「そんなの脱衣所で服を脱いだ時には気がついていたことでしょ」

 リザはそういうとまるで運動競技のような勢いで股間を繋げたまま自分の臓物の複雑な動きに合わせるように尻を振りたくった。彼女は自分が発情していることを邸の者達に叫ぶように、自分がいかに絶頂を迎えているかを告げるように啼いた。

「ああ、もう。なんか。わかっていたけど、ダメだ。わたし壊れてる」

 吹き上がるような激しい激情をそのままに性欲を露わにしたリザは、精を吹き出したものの硬さの残るマジンの性器を腹の奥に押し付けるようにして収めたまま、言葉だけ反省するようにいいながら腰を蠢かせる。

「いいさ。付き合ってやるよ。壊した責任だ」

「ありがとう。責任は感じないでいいわ。蹴り捨てたくなるようなことに付き合わせるつもりだし。……アルジェン。アウルム。こっちおいで」

 そういうと、リザは体を入れ替えマジンに背を向けて改めて繋がるように腰を下ろした。

「もう満足したなら降りろ」

「満足なんてするもんですか。他の穴に突っ込んでいる時ならともかくそうでないなら緩んでフニャフニャになってもアタシの中に突っ込んでおいて。おしっこしたくなったらそのまま出しちゃいなさい」

 理不尽な言葉で叱りつけるようにしてリザはマジンを跨ぐように腰を下ろし膝を畳むようにしたまま、二人のマジンの娘をさしまねく。

 おとなしく傍らに近寄ったふたりを胸元に抱えるようにして抱きしめた。

「この人は、あなたたちの父様は私をあなた達の、あなた達の妹の母親にしたかったみたいだけど、どう考えてもムリ。わたしはこのヒトのそばにいると四六時中このヒトのおちんちんと精液とでお腹いっぱいにすることを考え始めちゃうし、そうしちゃうわ。だから私のことはあなた達の大好きな大切な父様の股間に張り付く寄生虫くらいにあなた達に思われてもしょうがないと思っている。でも、あなた達のことは大好きだから幸せを考えてあげるのはそうしてあげたいし光栄な嬉しい事なの。愛している、って言ってもいいわ。でもやっぱり、わたしには母親らしいことっておっぱいを上げる事くらいしか思いつかないの。美味しいといいけど、そんなこと母親でも何でもない牛でも山羊でもできるのにね。ごめんね」

 リザがふたりを抱きしめると呼吸に合わせて母乳がにじみ出ていた。

「なんか、いい味」

「うん。すき。美味しい」

 アルジェンが溢れる母乳を舐めるのに、アウルムも真似して味見をした。

「リザ様のことは好きだよ。エリスも可愛いし、いい子に育つといいね」

 アウルムが目を閉じて願うように言った。

「わたしもリザ様好きだ。強いし、かっこいい。父様の子供いっぱい産むといい。それにきっと十分に母さまの仕事をしてくれている。ソラもユエもそう思っている」

 そういうとアルジェンはリザの乳首を包むように吸った。

「ありがとう。ふたりとも」

「父様とリザ様でこうしているとステア母様を思い出す」

 クンニャリとした笑顔でアウルムが言った。

「夜は三人で一緒に寝ましょ。いいわよね」

「うん。もちろん」

 リザの言葉にアルジェンが頷くように言った。

「良かった」

 そういうと、リザは二人の娘を抱いたまま、モソモソと腰を動かして思い出した様に性交に没頭し、なれた動きで絶頂しつつマジンの精を絞りとると、余韻の残る幸せそうな顔のまま娘たちふたりとともに立ち上がった。

「もういいのか」

「ふたりにおっぱい吸ってもらったら、いろいろ張りが出てきた。他の穴もはめてあげていいわよ」

 情緒も何もない雰囲気でリザが言った。

「――三人とも。あなた達の休暇は一年だけど、春になったらこのヒトはそんなにヒマじゃないわよ。味見して子種し込むつもりならとっととしておきなさい」

 そう言って四人の裸の男女を浴槽に残して出て行った。

「勝手だなぁ。それにけしかけるのが上手い」

 そう言いながら長い手足を湯の中に沈めたままセラムが四足でマジンの傍らにやってきた。

「勝手に結論を準備して、そのくせ説明が足りない」

 マジンが脱衣所の扉を眺めながら言うのに笑いの息をこぼしながら、セラムがまたがった。

「お情け頂戴」

 そういうとセラムはマジンのまだ萎えていない股間の肉の槍を自分で導き導く。

「いきなりだね」

「見せびらかされすぎ。て、我慢できるか」

 腰の深さを調整しながらセラムはマジンに胸を寄せる。

 入り口は柔らかく奥はきつく深さは少し浅い。

 動くとカリ首が締め上げられる感触があり女の腹の奥の引っ掛かりを自在に小突ける感触は、男にとっては嬲りがいがあり楽しい。

「思ったより、大きい」

 少しきつそうにセラムは言った。

「男に慣れているって話だったけど、意外だな」

「慣れていないわけじゃないけど、これまで小さい男が多かったのかもしれないな」

「別にガラが大きければいいってもんじゃないだろ」

「そりゃそうだ」

 少し慣れてきたらしく、表情に余裕が出てきた。

 前戯らしい前戯もほとんどしないまま、お互いに余韻だけで繋がると云うのはそれはそれで奇妙なもので、セラムの体の奥はようやく少しやわらかくなってきた。

「まだ膨らむのか」

 セラムは自分の腹の中の変化に気づいたように片目で笑う。

「苦しければ、浅くしよう。ムリをしても仕方ない」

 そう言いながら腰を引くマジンを抑えこむようにセラムは更に押し込んだ。

「最初から手抜きはよくない」

 そう言いながら、腰を起こし一番深いところまで串刺しになる。

 様々な内臓が亀頭の先に引っかかり支えられているような状態は、女にとって拷問同然であるが、支える男にとっても快感とは程遠いもので、そういう時間のうちに緩やかに萎え始める肉の槍の穂を磨くようにセラムは腰を動かし苦痛に休む。

 それは性の快楽とか悦楽というよりは求道者の姿でマジンの好みとはいささか離れていた。

 ふとそれがマジン自身の態度にあることに気がつくとマジンは驚くセラムを無視した軽やかさで体を入れ替えのしかかるように、自分の好む深さ位置でセラムの体を探ることにした。

 しばしばあることでマジンにはその度に不思議に感じられるのだけれど、僅かな姿勢の変化とお互いの動き方で女の体は柔らかさ硬さを変える不思議を、いまセラムの体で改めて感じていた。

 ここしばらく幾人かの酒場女の体に得も言えぬ不満を抱いて、それを思い出しぶつけるようにセントーラを抱くこともあったのだが、おそらくは酒場女の方も似たような不満を抱いていたのだろうと、マジンは思い至った。

 そんな心あらずを咎めるようにセラムはマジンの口を喉まで舌を届かせたいかのようにねぶった。そんな蹂躙を許すまいと違いの舌の攻防は股間のソレとは全く違った戦況の推移で進み、セラムの息が続かずそれに気が付かなかったマジンが慌てて口元を放しつつ腹の奥を容赦なく突くという決着で区切られた。

「容赦無い。聞いていたけれど、ご主人は本当に容赦無い人物だ」

 幾度かの細かな絶頂と窒息からの失神で余裕が出てきたのか、セラムがマジンに見下されたまま、日頃の口調で苦情を述べた。彼女は腹をなでて産道でまだ硬さを持っている男の影を探るようにした。

「義眼は誂えないのか。もちろんなくても構わないのだろうが、張りが違うともいう」

 話を変えるように今は眼帯で覆われていないセラムの失われた眼窩のたるみを見てマジンが言った。

「腕の良い職人というものはなかなか無くてね。怪しげな球っころを突っ込むのは流石に怖い。それに高い」

「ボクの実験に付き合ってくれるなら試しにこしらえてあげてもいいが」

「贅沢な作りになりそうだね」

「ボクの愛人は小銃百万丁と云ってよこすよ。一体どこの元帥閣下やら」

 そういうとセラムはマジンにくちづけをした。

「ある女性によるとわたしはさる人物の愛人であるらしい。そしてその人物の子供を授かる許しを得ている」

「なにやらその男性への承諾の申合せはなかったようだね」

「いまもないのだろうか」

 イタズラっぽい顔でセラムは確認した。まだ萎えていない虚ろなまぶたが痛々しく開く。

「その気があるなら愛人と言わず夫人でも構わないよ」

「そうするとあなたは意中の女性と結婚ができなくなる」

「そうだった」

「――ま、重婚は親告罪で資産絡みでなければあまり重視されることはないがね。しかしいい男は女性にあまり軽々しく結婚を申し込むものではない。父の何人もの女の中から妻の座を射止めた恋多き母がそう言っていた」

 セラムもなかなかに複雑な家族であるらしい。

「つまり、キミはボクの愛人であることを望むのだろうか」

 マジンはセラムに問いかけた。

「既にあなたの家に逗留して押し倒すように性交に及んだ女に対して、なかなか奇妙な質問だ。当然だが、わたしはあなたに金銭授受を申し入れるつもりはないよ。ま、性欲の赴くままである、ことは否定しないが、誰でもいい、というほど、軽々しくも、ないつもりだ。ずるいな……。あなたも」

 セラムは再び動き始めたマジンにえぐられ、えづきながら言った。

「恋人とか恋愛とかもっと甘い柔らかい言葉でくくってくれないものだろうか」

 腰を突き上げセラムの腹の底を掘るようにしながらマジンは憤るように言った。

「軍学校では、妊娠の、可能性のある、性交渉、に及ぶ無期の関係は、愛人として、教えているな。つまり、男女の、間でしか、愛人、という関係は、なく、口腔性交、までは、恋人、ということだ。亜人、との性交渉、も、一般には、妊娠、しないが、そちらは、例外的に愛人、と、扱われる」

 荒波に揉まれるようにセラムはマジンの動きを受け止めながら小さく達しつつ説明した。

「男女での肛門性交はどうなるんだ。ここは恋人の範疇なのか」

 ふと動きを止め、マジンはセラムの肛門に指を差し入れながら尋ねた。いかにも経験があるらしくセラムの肛門はマジンの指を柔らかく飲み込み、二本三本を受け入れた。

 それだけでセラムは蕩けるように痙攣した。

「強姦ならともかく男女の臥所のことをとやかく説明できるわけがないじゃないか。男女であれば肛門だろうと膣だろうと愛人関係だよっ」

 いきむようにそう言ってセラムは達した。

 マジンはセラムが達したのを見て指を抜き、何の気なしに鼻に寄せ、風呂の湯で指を濯いだ。

 それを見ながら恨みがまし気にセラムが睨んだ。

「わたしの体がイマイチだっていうなら、無理に愛人であることを求めはしないんだがね、なんというか、もうちょっと行為に集中してくれるのは男女の間の礼儀じゃないかと思うんだ」

 ぐっさりと子宮の脇の膣の奥深く行き止まりまで押し込まれたままセラムが苦情を述べた。セラムの体は少しづつマジンの形になれをみせていて、セラムも気丈な言葉を口にする余裕を得ていた。

「それは全く申し訳ない」

 そう言ってマジンはセラムの体に覆いかぶさり、ゆるやかに更に腰を推し進め、逃げ出すセラムの肩を抑え乳首をつねりハリとツヤのある胸をなぞり、大きな傷の残る肋から背中尻をなでた。セラムは痛みとこそばゆさとを衝撃のように受け続け、性感へと結びつくにつれ、腹に男を収めた内臓が脈動をするようになった。セラムの狭い胎内が急に痙攣を起こすように縮むとマジンの精が吹き出しもともと奥行きがなかったセラムの産道を逆流するように吹き出した。その圧力でセラムは叫ぶように改めて絶頂に達した。

「ふ。やれば出来るじゃない」

 息も絶え絶えにセラムはマジンを右目だけで見上げるようにして言った。

「まだ、愛人でありたいか」

「むしろそれはこっちが聞きたい。わたしの体は愛人として使い物になるのだろうか」

「妊娠の協力はする」

 そういうとセラムは少し悲しげな顔をした。

「ああ、いや。そういうことなら別の男を募るのはいいんだ。率直なところわたしの体の具合はどうだろうか」

「少し狭いが、そういう硬さを自分に合わせるのが楽しい、という話も聞く。一年かけて楽しませてもらう。というのでは返事としてわかりにくいだろうか」

 セラムはふっと緩んだ笑顔を晒した。その可愛らしさにマジンはくちづけをした。

 セラムはズルリと抜け離れたマジンの性器をさしまねくようにして腰を抱き喉深くまでの見込み吸い上げた。硬く浅かったセラムの膣よりもその口はよほど性器めいていて、あっさりとマジンは達し精を放った。

「よかったろ。こっちはかなり鍛えられてたからな」

 改めて勃起に力が戻るまでセラムは口であやしてから言った。

「良かった。おどろいた」

 マジンは本気でそう言った。

「次、おねがいしますぅ」

 そう言いながら浴槽のヘリにあごを預けるようにして尻を水面から突き出すようにして振りながらファラリエラが言った。

「あ、これはいい。素敵なおちんちん」

 セラムが十分に準備したマジンの肉の槍の竿を根本まで飲み込んだが、そうでなくてもある程度芯が残っていればファラリエラの奥まで届いただろう柔らかな厚みのある肉だった。マジンが遠慮なく肉をかき混ぜるようにするとファラリエラは水を溢れさせ、次第に肉に締まりが出てきた。

 年の頃を思えば奇妙に熟れた体でなんというか、年を経た商売の女のような柔らかさと歳相応の張りと締りという肉体は、セントーラに似ているがもっととらえどころのない感じの女の体は、確かに達していた。が、これといった急所があってというわけでなく、仕方なくてマジンが飽きるまで精を放つまで細かく辛抱強く付き合い続け、精をこぼすと付き合いで絶頂に至る。なんだかこれでファラリエラは気持ちよかったのだろうか、と思わせる反応だった。

 おそらくは問えば気持ちよかったと報告するだろうが、男にはその快感が全く伝わらない種類の女で、そういう意味では商売女の演技じみた老獪さは全く足りていなかった。

 三度体を入れ替えて振り回すように腰を使い腹をえぐり精を放ち、その度にファラリエラは失神と絶頂に至ったが、そのことが快楽であるのか苦痛であるのか、はたまたなにも感じていないままの演技でそうなったのかは、マジンには全く把握できなかった。

 ただ三度目に精を放った後には体力が切れたのか満足したのかファラリエラは脱力したままであったので、休ませることにした。

「なんか、こういう運びになってしまってすまないが、とりあえずこの場はお開きということにしよう」

 マジンはリョウに向かってそう言った。

 狭くもない浴場だが出てゆく間を失ったような居心地悪そうな顔で、たっぷり小一時間他人の情事を見せつけられ、明らかに混乱しているリョウは目があった瞬間に叫びださないのが不思議なくらい周囲に助けを求めるようにあたりを見回した。

「は、はいっ。そうですねっ」

 ファラリエラの股間から体液を垂れ流す体液を手ぬぐいで拭ってやりながら抱えるマジンに、リョウは裏返った声で叫ぶように言った。

「改めてボクの部屋で続きをするかい」

 ファラリエラを客間の寝台に横たえ、そう尋ねたマジンにリョウは全力で首を振った。

「それはわたしがお願いしたい」

 セラムがそういうとマジンの腕に絡みつくようにした。

 セラムはそのあと朝日が南の窓を照らすまでまぐわり続け幾度と無く気絶していたが、マジンが身を離し体を抜くたびに目を覚まし、改めて突き立てることを望み続けた。

 それは性愛とか情愛というよりは組手とか競技のような性交で、リザとも稀にそういう風になることはあるが、快感よりは興味のようなものを感じてマジンはセラムに付き合い続けた。

 最後は意識のないセラムの腰骨をマジンが掴んでセラムの反応の良かったところ自分の気持ち良いところを道具のようにこすり合わせるという自慰的な拷問じみた性交であったが、そういうものであってもセラムの体は快感と絶頂で目を覚まし体力切れで失神するというわかりやすい反応を示していた。

 朝、マジンの部屋を訪れたリザは呆れたような顔をして、冬だというのに一糸まとわぬ姿で振り回され続け快感を貪る友人の姿を見ていた。

「呆れた。まさかあの後ずっと盛っていたの」

 自分がかつて貪ったことは棚に上げ、リザはふたりに言った。

 風呂あがりに巻いていたタオルは吹き飛び、吠えるようにあえぐセラムはそれどころでなくマジンの射精に合わせてひときわの忘我にいた。

「ずっとってことはないが、まぁ今までかな」

「その女。気持ちよかったかしら」

「まぁね。六回出した。風呂で二回かな」

 口の中でリザはもぐもぐと言葉を探した後で、マジンに平手を張った。

「理不尽だな。お前はいつも説明が足りない」

「目が覚めたでしょ。抜きなさいよ。それ」

 夜は奥がつかえていたセラムの体は今はくつろいだように少しあまり始めていた。

「抜くと怒るんだ」

「それは、夜の話でしょ。もう朝よ」

 リザが言うのに合わせてマジンはセラムの腰を支えて膣からまだ張りのある陰茎を抜き取ると、流れるというよりも溢れるようにセラムの股間から体液が落ちる。その刺激でセラムが目を覚ました。

「まだ抜かないで。もう一回お願い」

 まるで酔っぱらいの寝言のようにセラムが寝ぼけ声で言った。

「なにやっているの。いきなりハメ外しすぎよ」

 昨晩自分がなにをやったか、棚に上げ去った顔と声でリザは言った。

「ああ。これはキミが自慢したくなるのもわかるよ。こんなの知っていたら素人まがいの公営男娼では満足できない」

 眩しげにまぶたをひくつかせ左手で失った目を覆いながらセラムが言った。

「あなたに紹介してもらったヒトは言うほど悪くなかったわよ。男娼よりは学校の先生か療養院の看護師さんのほうが向いていると思うけど」

「ああ、多分、そんな職を探しているんだと思う。軍の慰安の斡旋は給与はいいけど任期は厳しい。カタギの職に就けなければ徴兵だしね。娼婦は妊娠しちゃえば乳母の仕事もあるけど、男娼は仕事を覚えるより先に任期が終わっちゃうって言ってたな。わたしの部下にも公営男娼上がりが幾人かいた。皆埋まっちまった」

 まだ失った目になれないらしく朝日にまぶたをひくつかせながらセラムが手探りで眼帯に手を伸ばした。

「まだ痛むの?」

「左目かい?痛むというよりは白く光だけ感じるんだ。眩しいというよりは、なんかそれが邪魔な感じでね。そのうち神経が慣れてくるとなくなるらしいんだが、まぁしょうがない」

 長く美しいまつげが中身を失いたるんだまぶたの哀れを感じさせた。

「――キミのご主人がわたしに似合う目をくれるそうだ。どんなものになるか、今からとても楽しみだよ。きっと宝石のような輝きを持つんだと思うと、それはそれで片目を失ったことも気にする必要はないくらい素敵なことに思えないか」

「バカね。自分の目の美しさなんて自分で見る機会、殆ど無いじゃない」

 親友のから騒ぎを笑うようにリザは言った。

「なに言ってるんだい。鏡を見たときに美しいと思えることこそが、女にとっての確かな力と支えになるんだよ。それは大部分の連中には自覚しないものだけど、私達みたいな男どもを従えて生きることにした女にとっては、紛れも無い力だ」

 ニヤリと芝居がかって笑ってみせたセラムをリザが鼻で笑った。

「この後も男ども従えるつもりなら、まずは野営地で夜ひとりでお花摘みができるくらいにならないとね」

「あれは、スコップを忘れたのは本当なんだ」

 セラムが言い訳がましく抗議した。

「べつにそんなのヒトが通るところでしなければ埋める必要もないでしょ」

「わたしもまだ年頃の娘としてだな――」

「はいはい。まずは年頃の娘らしく、その汗だか精液だかで汚れた体を拭って、こちらのご家人と一緒に食事ができる格好になりなさい。下着は……まぁなくてもいいわ。セラムが着れる羽織を出してあげて。わたしがよく着る、ああ、それ。その毛糸のザク編みのやつ」

 そんな風にリザが世話を焼きながら食堂に急ぐと、家人は席についていた。主人代理と刻まれた砂時計の砂はまだ落ちきっておらず、家人がニヤニヤとする中で三人が現れたのに残念そうな声が上がった。朝の食事の席に砂時計の砂が落ちきる間にマジンが現れないと家人全員に金貨が配られることになっていた。

 リザがいたときに幾度か起きていたことで食卓の席にまだついていないことからセラムの健闘を期待する声もあった。

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