貨幣両替及び通貨単位

 共和国全土は前工業的ではありながら、国土に応じた大規模な金属精錬冶金技術は存在する。

 金銀銅鉄鉛錫といった主要かつ汎用性の高い金属について、純度を管理する方法も確立されている。

 また冶金技術を支える熱源としての石炭泥炭の利用。更には骸炭の精錬という燃料資源の開発も行われている。

 結果として、信用ある金属地金を基準とした両替が共和国一般の物流経済の信用の基底を築いていると云っても過言ではない。

 その中心は共和国中央銀行である。

 かつては各地に銀座金座或いは両替商が独自の意匠成分比率で通貨を流通させていた。

 だが、共和国協定で軍の行動を支援する、という名目でキンカイザに本部のあった金属商工組合が共和国軍の全面的な支援を公言すると、その造幣部門が出納本部として共和国軍大本営に組み込まれ、やがて共和国中央銀行として独立を果たし、今に至る。

 貨幣はある程度の耐久消耗品で定期的な回収改鋳が必要であるが、キンカイザの鉱脈は未だに安定したままに金銀を産出している。



 金貨共和国ダカートと銀貨共和国タレルはかつては直接連動していない通貨であったが、貨幣発行と流通を共和国中央銀行が管理するようになって以来、1ダカートは百タレルと相場が固定され、金銀の地金流通価格についても同質量百対一の価格が固定されている。

 貨幣の発行そのものは中央銀行が管理しているが、地金の生産については各地で今なおおこなわれていて、銀貨金貨については贋金の流通も各地の経済状況に応じておこなわれている。

 中央銀行が直接贋金の流通について管理している実態はない。

 ただし、兵站本部と憲兵本部は常に各地の贋金事件には注視している。

 共和国最大の貨幣支払い顧客としての共和国軍の内部腐敗の実態の追跡のためである。

 大本営の未承認決算である統帥権による軍需品の調達に於いて師団軍団が現金の使用を禁じられているのも、根を同じくする。

 銀貨金貨はそれぞれ銀と金に鉄と銅を混ぜた合金であるが、その比率は九対一で中央銀行が貨幣を定めて以来変化がない。

 実態として各地の必要に応じてそれぞれを鋳直して地金を取り出すという行為は比較的頻繁に各地で行われている。

 だが、そういう貴金属貨幣として特殊な立場にあるのが、半ダカート金貨と太陽金貨である。



 半ダカート金貨は五十タレルの価値を定められた貨幣であるが、金貨ながら極めて固く、質量ともに安定した品質を誇っている。合金であるが信用は金貨よりも高い。

 流通過程で表面が滑られもともとの大きさも小さく発行年号も読み取れなくなるダカート金貨よりも、一回り大きく曲げようにも工具なしには曲がらない十分な硬さを持った半ダカート金貨は、共和国において最も信用が得られる流通貨幣でもある。

 ただし五十タレルという半月は食いつなげる金額は日用にはやや大きめでもある。それを各地の両替商で地域の藩札や通用券に切り替え、膨らませ日用に使うことが、旅を嗜むものの知恵でもある。

 貨幣にあいた穴に紐や棒の繦を通して百枚綴りにして一本或いは五十枚綴りにして半本として数える。

 その綴をまた、飾り綴にして旅のお守りにすることもある。



 太陽金貨は更に大きな金額、実態としては各地の州の予算を中央銀行が裏打ちしたり或いは逆に中央銀行に支払いを行う際に主に使われる金貨で、巨大な額面の資金の移動をおこなう際に使われる。

 太陽金貨の額面としては一万ダカートつまり百万タレル。

 手のひら大の金の神獣の刻まれたレリーフの中央に宝玉が収まったそれは、貨幣というよりは美術品でもあって、個人で手に入れた者達の多くはそれを貨幣として扱うことをせず、展示し死蔵する。



 他に鉄貨や銅貨も存在するが、タレル銀貨に比べると統制的な発行量は少なく、貨幣の形をしていないことも多い。多くは地方において藩札同様に発行されている。

 鉄は特に小さな丸薬状のものや砂鉄が貨幣代わりに扱われることのほうが多い。




 共和国中央銀行が恒常的に発行している貨幣は以下の通り。

 一万ダカート太陽金貨

 百ダカート大金貨

 一ダカート金貨

 半ダカート金貨

 十タレル金銀貨

 一タレル銀貨

 半タレル銅貨

 十セント銅貨

 一セント鉄貨


 ただし、銅貨以下は流通量が極めて少ない。

 多くの場合、各地各州で税収を目的とした兌換貨幣の発行が行われていて、一タレル以下の或いは各貨幣の中間的な単位を担っている。

 結果として各地にいる多くの貧困層は共和国中央銀行が発行する貨幣を目にする機会がないことも多い。



 メタイメージでは

 一タレル≒数百~千円

 という貨幣感覚であるが、共和国一般が極めて過疎でしかし必ずしも貧しいというわけではなく、市場経済が必ずしも安定していないので、金銭感覚は現代社会とはかなり異なっている。

 高価な商品や稀少な物品は価格そのものよりも社会的信用を重視され、そもそも商談に入れないことが珍しくない。

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