共和国協定

 共和国は実質的に通商及び軍事同盟に基づいた連邦共和制国家である。

 その背景には文化的に複雑な亜人とタダビトの衝突や、或いは文明的に独立した西方諸王国と東方の人類唯一帝国という直接に交渉の困難な国家群と対処する、という軍事同盟としての意義が深く、その軍政上の物資調達を目的とした経済的均衡をおこなうために貨幣の流通制度が整備され、また更に軍需品倉庫や食料供出義務或いは兵員徴募他の共和国協定の求めるところを定義するための様々な規則や構文集の立法の要件を秩序とその希求に応じ成立している。

 共和国協定の求める共和は州国経営における衝突要素の筆頭である、軍事力と通貨設定の運営基盤の安定共有にある。

 その基礎理念は共和国協定に謳われているが哲学的な理念はさておき、州国間に拡がる未開拓地域を巡る危険と実益上の衝突を緩やかに回避するために、軍事組織と基軸通貨信用を各州国経営から切り離し管理することを目的としている。



 その規則集或いは構文集としての共和国協定を定める権能が共和国大議会である。

 実際には大議会というものは大本営敷地内の議事堂を指し、大きく二つの組織からなっている。

 各地方政府から評議会と呼ばれる人事監査組織と審議会と呼ばれる予算監査組織が、それぞれの求めるところで共和国協定についての各地地方行政当局からの見解を集積させ、共和国の運営について協定を結び直す。

 大議会そのものは大きく二つの組織二つの会議場で運営されているが、実態として更に配下に複数の委員会を並列して運営されており、会期や代議士については相応に入り組んだ構造をしている。

 大議会は共和国協定の実行組織である共和国軍軍政本部と共和国中央銀行という二大組織の運営について様々な形で地方の見解を反映させるための組織であり、実質的な共和国における立法機能と限定的な上級司法審理機能の場でもある。

 司法機能について限定的というのは、各地の司法については当然に各地方司法当局の求めるところであり、共和国軍に於いては憲兵本部の預かるところであり、共和国中央銀行に於いては監査局の預かるところであるからでもある。

 それぞれに独立した形で司法機能を有している或いは有していないために、共和国内において各種犯罪行為の線引は極めて複雑になっているが、往来不便かつ広大不辺な共和国に於いてはある意味で手におえないことを他人事と扱うのは必要なことでもある。



 共和国協定の求める最大機能最大組織である共和国軍は公称五十万の兵員を抱えていることになっており、およそそれだけの人員を所属させていることは事実ではあるが、極めて広大な共和国の国土に於いては極めて少ない人員でもある。

 また実態として共和国の軍勢そのものは実数として三十万をやや超える程度の規模でもある。

 共和国の国土はおよそ東西南北に一千リーグに余る歪んだ六角形状の範囲を国土と称しているが、公称人口は二千万をやや上回る程度ということになっている。

 もちろん納税義務を果たしている忠良なる国民という意味で、共和国に生きる人間という意味ではない。

 結果として十数倍の人口が共和国とは関わりないままに共和国に生きており、当然にそういう匪賊同然の人々こそが共和国軍の敵でもある。

 また一方で直接に地方の州政府には従う気はないが共和国軍に反する気もない人々もいる。

 そういう者達が直接共和国軍に一族或いは地域組織ごと猟兵として仕官して聯隊として扱われることもある。

 所謂、地方軍閥を共和国軍に組み込む形で宣撫をおこなうことで、地域の安定を図ることも少なくない。

 多くの場合、州国の要衝で利害衝突した独立派であることが多いが、共和国内に多くある亜人の集落がタダビトとの軋轢に飽きて共和国軍の保護を求めてくることも増えている。

 もちろんそういった猟兵聯隊も建前の上では正規師団や軍団と同じ扱いを与えていることになっているが、政治的な信頼性そして軍事的な実力は相応に怪しげなものでもある。

 実態として共和国軍は共和国国内の様々な軍事勢力との交渉宣撫等の広報渉外を積極的におこなう必要もあり、正面戦力としての師団軍団の運営の他に各種の参謀業務をおこなう巨大官僚組織としての意味合いが大きくなっている。



 共和国軍大本営は主に五つの部局本部によって運営されている。

 軍事作戦を主として軍団師団の管理運営を支援する軍令本部。

 共和国軍の物資調達及び流通経済活動の支援をおこなう兵站本部。

 共和国軍内部の警察機能及び司法機能を統括する憲兵本部。

 共和国軍の将来研究と史料編纂をおこなう参謀本部。

 共和国協定の求めるところ、大議会との折衝調整をおこなう軍政本部。

 その五つの本部を統括しているのが共和国軍大元帥である。

 とはいえ、二十万人に至る官僚体制の内部に於いて最高指導者のおこなえるところは、実はあまり大きくはない。

 実態として共和国全土の各種の時間差や温度差と云うべき手応えのなさは、現場を離れた政治指導者としての大元帥の思惑とは必ずしも一致することはない。

 共和国協定の安定は往来の不安定な街道によってもたらされる必然としての不条理と諦めによるものでもあるし、不満は多いながら豊かな地勢風土によって得られる資源と、突然にもたらされる天災による大量死によって見えないところでの人口調整が効いているとも言える。



 メタ的な視点で漠然とした認識としてはNATOとECBを合わせたものと言う程度の認識でおよそ間違いない。

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