度量衡(長さ)

 共和国協定は共和国一般の度量衡を定めていない都合で共和国に於いて長さの単位は各地政庁の定める所によっている。

 かつては共和国も槍を前衛の装備としていたが、軍需品倉庫体制が安定期を迎え火砲の充足が安定しておこなえるようになった結果として、槍兵による前衛突撃は戦術行動の中では優先順位を落とし、また騎兵突撃も必須の戦場行動ではなくなった。

 変わって小銃大砲の玉薬の重量単位が重視され、長さ単位の統一を共和国が積極的に牽引する動機が薄れた。

 だが一方で共和国協定に基づいて共和国軍の軍需装備の求めるところで緩やかに統一されてもいる。

 過去においては槍兵の行進の歩幅を基準にしたキュビットが基準だったが、当然に体格により基準とはなりえない。

 共和国は直接に納税をおこなうことを協定で求めてはいないので、測量に一般に使われるチャージという単位も、百キュビットを一チャージと定義する、と共和国軍法でかろうじて定められていたが、実態としてその長さはひどく曖昧なものでもある。

 しかし、長さ単位の基準がないかといえば、そういうわけではない。

 既に建国以来普及している各種前装小銃の弾丸は共和国協定内の「共和国軍の食料及び消耗資材物資に関する公定取引規則」で厳密に定められている。

 小銃弾はその重量四タレルの鉛の球体として軍需品として納入備蓄すべし。と定められている。

 またその直径を三十シリカと呼称している。

 また、共和国協定内の「銀行と貨幣に関する公定規則」によってタレル銀貨の厚みを五シリカと定めている。

 一シリカは上等の羊皮紙の厚みということになっているが、当然に品質や利用経緯によりばらつきがあり、あてになるわけもない。

 だが、しかし鉛の弾丸の直径をひとまず三十とすることで、指三本分の幅をスパンとしたり、鉛玉を百並べて三で割った長さでキュビットをつくなおしたりしている。

 もちろん、前工業的な製品の品質が保証されているわけはなく、実態として小銃と銃弾の口径には五シリカの公差が認められてなお装填できない銃や銃弾が大量に存在している状態ではある。

 だが、鉛の銃弾は数をまとめて手に入れやすいことと、その品質を重さの上から検定する半ダカート金貨の品質は共和国のみならず、隣国や貿易相手国も認める安定度合いだったので、結果として銃弾の直径を三十シリカとしてシリカやその他の長さ単位を組み立てる基準としている。


 一シリカは公定一等羊皮紙の厚み。

 となっているが前述の通り、共和国軍制式銃弾の直径の三十分の一という方が通りが良い。


 一タレルは銀貨の厚み。五シリカ。

 とはいえ、実態としては膨らみを持っている銀貨の厚みを捉えることは難しい。更に一般流通貨幣であることから、痛み方も激しい。


 一スパンは小指親指を除いた指三本の長さ。およそ九十から百二十シリカというところになるが、公称百シリカ。


 一キュビットは槍兵の行進の歩幅。千シリカ。


 一チャージは槍兵の突撃単位。百キュビット。


 一リーグは百チャージ。歩兵の戦闘隊列でのおよその限界距離。

 十リーグは歩兵の行軍の一日あたりの一般限界距離。

 一リーグは千人扶持の農場の規模を表す面積単位となることもある。


 現代的なメタ視点で置き換えると、

 1シリカ=0.5ミリメートル

 1タレル=2.5ミリメートル

 1スパン=5センチメートル

 1キュビット=50センチメートル

 1チャージ=50メートル

 1リーグ=5キロメートル

 となる。


 実態として問題になるのは、ここでも単位としてタレルという銀貨の名称が登場することと、具体的な基準を持つ単位がシリカとタレルしかないということである。

 結果として共和国州国を超えた統一的な地図の作成は極めて困難で、実際に土地土地を超えての長距離の移動の妨げとなっている。

 この問題は共和国軍が装備物資を調達する際に、最終的な判断を各地の司令官に一任せざるを得ない状況を作っている。

 最低限、小銃とその弾薬の調達は法で定めてあるが、小銃弾三十シリカ・小銃口径三十五シリカと定めているにもかかわらず、実態としてしばしば装填不能の弾薬と小銃の組み合わせが存在する。

 共和国の軍需製品の生産能力はそういったものである。

 また、街道の整備が極めて曖昧で地図の制作も遅れており、実態として一リーグという距離も極めて主観的なものになり、実際には数キロメートルという意味合いを持ち、一般にSI単位系の五千メートルよりもやや短い。

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