狩りだすもの

 安和あんなと別れたマーガスは認識ずらしを使って学内を巡っていた。


「動きながらのこいつは位置を修正しながらの再発動を要求する。面倒じゃからあまり多用はしたくないんじゃがのぅ。しかし四度目は避けたいからのぅ。しゃぁないわい。」人に出会うだろうと思って認識ずらしを使っていたが学内は閑散としていた。彼はなぜだろうと記憶の中にある会話を追っかけてみる。


「そうか、さっき、生徒は体育館に集められていると言っていたな。ならば教師も生徒と共にそこに詰めておるのかもしれんな。」


「だからか。ならばだ。まずすることはだ。」

 手近にある土を山に盛り上げるとマーガスはスーツのポケットから懐中時計を取り出す。

「さて、ふらふらしとる魔物はどこにおるのかのぅ。」彼は懐中時計を鎖に任せて砂山の頂にぶら下げると魔力を込める。

「召喚された魔体は敷地の内か? 外か?」尋ねた懐中時計はくるくると左に回り始める。

「まだ、内におるか。ならば。体育館内か?」もし召喚された何某かがすでに生徒に紛れ込んでいるならば体育館の中にいることは十分考えられた。その問いに指針の時計は右に回る。

「体育館の中にはおらんのな。ならば、学舎内か。」それにはくるりと左に回る。回答を確かめるとマーガスは懐中時計をスナップよく釣り上げて胸ポケットに戻す。


「学舎の中じゃの。ならば、先に体育館とやらを切り離し保護するかのぅ。」

 彼はあたりを見回すと一際大きな建物に眼をつける。人の気配を探っても見る。多数の人がいるようだったからして間違いないだろうと結論付ける。

「あれが体育館か。気配からして間違いあるまい。」二階建てになっている建物へ近づくとトランクケースを開け中を探る。

「四角であるなら四本で十分じゃろ。」マーガスは細身のナイフを四本と符を四枚取り出した。彼は慣れた手際で体育館の四隅に近い地面に符を差し込んでいく。


「これで体育館は切り離せた。次はやつを敷地の外に出さん様にせねばな。」

 トランクケースを開け鉛筆くらいある鉄の杭を一つかみ取り出す。

「やれやれ。この広い学舎をぐるりと囲わねばならんとは。老骨が折れてしまうわい。」まずは始点と足元に一本打ち込む。

「しかし、速くせねばあの子が何か無茶をせんとも限らんわいのぅ。」マーガスは思い出の中にいる娘と安和を重ねてみていた。そして、娘がよくやった力もないのに意志や思想だけで戦いに臨む無茶な行動を思い出し、少女がそれをしないかだけを心配していた。



 マーガスが追いかけているこの学校で召喚された者、悪魔は自らが食らった召喚者の少年の姿をしていた。

 そして、焦っていた。

 何者かが少しづつ彼を檻の中に閉じ込めているようなのだ。徐々に空間を切り取られ追い立てられているような気配がする。その手際からどうやら手練れの様で、遭遇した時の事を考えると悪魔はさらに人を食らい力を増しておきたいのだが、その餌が見つからない。

「食ったこいつの記憶からするとここにはこいつと近い年齢の人間が山のようにいるはずなんだが一体全体どうして。」がらんとした廊下は廃墟のようにただ空気があるだけ。人の気配など全くの皆無で、ただ広い空間に埃だけがぷかりぷかりと気ままに陽の中を舞っていた。


 その埃がサッと飛び避けるように動く。


 狩る者かと警戒し睨む。その眼の先、廊下の突き当りに一人の少女が姿をあらわした。注意深く観察するも魔術や魔法の類は感じられない。この食らった少年の様なただの人間だろう。

「ならば、食らって糧にしよう。」悪魔は生き残るためにそう決め警戒も何もせず獲物へズカズカと近づいていった。

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