第5話・脱出

「この終末の門は、偽りの神の僕(しもべ)である「アウエルバッハ大神官」によって統括されている。「彼」の意思に忠実な門番は、塵一つ通しては通してはくれない───だけどあれは「門」だからね、例外もあるんだ。」


悪魔は得意気に話ながら、ケイト達を門の前まで誘導します。


「さぁ、こっちだ!」


ケイト達はその暗闇の先に、幽かな切れ目が入っているのに気付きました。真っ暗でよくわかりませんでしたが、それは確かに花を模したようなアスタリスク型の門だったのです。


「合言葉はさっき教えた通りだ。いいね、決して門番に悟られてはいけないよ?」


ケイトは不思議に思いました。この悪魔は何故、ここまで親切に教えてくれるのだろう?


しかし、そうしている内にも仲間達はどんどんこの暗闇に吸収されていきます。考えている猶予はありませんでした。


だからケイトは、悪魔に一言だけ「ありがとう」と告げました。


「良いんだよ。僕は「悪魔」…神に仇成す存在だからね。此処で君を導く事もまた、僕の役目だっただけの事───さぁ行くんだケイト、君がどんな存在に産まれ変わろうとも、僕はいつまでも君の幸せを祈っているよ。」


それはケイトにとって、何処かで聴いたような懐かしい声のようでした…。


*  *  *


足音を殺し、息を潜め、ケイト達は門の前に立ちました。


すると、悪魔の言った通り門番の威圧的な声が辺りに響き渡ります。


『誰だ!この終末の門を通らんとするものは!』


「─────です。」


そして、悪魔に云われた通り合言葉を口にするケイト。


『なぁにぃ~?本当だろうな?』


門番の吟味が始まります。

ケイト達は息を殺して、悟られまいとする。


グロロロロ…


その時、門番の吟味を急かすかのように、この宇宙を震わせるアウエルバッハ大神官の鳴らす唸りが辺りに響き渡りました。しかしこれは、ケイト達を助けるために悪魔が鳴らしたものでした。


『ちっ…良いだろう。よし、通れ!』


上手くいきました。

まんまと騙された門番は、ケイト達に通門の許可を出したのです。


急いで彼女達は門の前まで向かいます。


そして─────


「いよいよね…私達、本当に産まれ変わるのね!」


エレが歓喜の声でケイトに話し掛けました。


「ええそうよ、今度こそ…私達は本当の意味で幸せになれるんだわ。」


「ケイト…産まれ変わっても、私達は友達よ!」


「ぐすっ、当たり前じゃないの…!」


彼女達は抱き合い、お互いの長い苦労を労り合います。少女達の旅はいよいよ、終わりの時を迎えようとしていました。


しかしその時でした───。


『待てぇー!貴様等ー!』


後ろから門番の声が響き渡る!

なんと最後の最後で、悪魔の目論見は偽りの神に感付かれてしまったのです。


しかし、もう門は開きかけていました。


「みんな、急いで!」


ケイトの合図に仲間達は頷き、一斉に外へと飛び出す!


『止めろぉー貴様等ぁ!!そんな事…そんな事をしたらどうなるか解っているのかぁ~!』


門番の断末魔が、漆黒の闇の世界に響き渡りました。


しかしその叫びも虚しく、門は開かれてしまったのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る