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「そういえばさ、昔はこの日になると沢山お菓子もらえたわよね」

「え?」

「これよこれ」

 カウンターに出されたパッケージに向かって指をさす。

「学校で至る所から貰ってたわ~」

 ・・・えー。

「女の子からも沢山。先輩とか後輩とかからも貰ったわよね」

 いやいや、知らねぇし。同い年と言っても通っていた学校違うし。

「それこそ男の子とゲームしたりしてさ」

 え? 普通にねーけど。

「あの頃は合法で良かったわぁ」

「めっちゃ普通の事として話してるけど、そんなこと普通ないからね」

「え」

 ミケが心底驚いた風に声を上げた。

「確かに一一月一一日は学校中でそのお菓子食べていたけど、そんな風に貰ってないしね?」

「え~? バレンタインみたいにみんな配ってなかった?」

 それ貰ってたのみんなじゃなくて、お前だけじゃね? って、バレンタインの方がねーから! 女の子からしかもらえないバレンタインの方が全然ねーから! むしろ男からでもお菓子もらえる今日の方が心の安定取れてるから!

「普通の事じゃないの?」

 違うね。

「・・・はなちゃん、モテなかったのね」

「うるせぇ」

 ミケは男女ともにモテていたと言うことか。確かに顔立ちは整っているし、それにこの性格だ。恋心は別としても、クラスで人気があったに違いない。一一月一一日もバレンタインデーも、俺より青春を謳歌したと言うことか。いや、別に俺だって寂しい学生生活じゃなかったけどな!

「あの頃のあたしは、自分で言うのもなんだけど、可愛かったからね」

「まぁ、確かに」

「今も可愛い?」

「最近ちゃんと鏡見た?」

「しっつれいね!」

 ミケと初めて出合ったのは高校を卒業してすぐ。あの頃のミケはもっと華奢で可愛い顔立ちで、マッチョ系オネェではなく、どちらかと言うと男の娘に近かった。それなのに。

「時間って言うのは残酷だなぁ」

「何よ急に。そんなおじさんみたいなこと言って」

「儚い青春だったなと」

「あたしの事を言ってるのね。別にいいじゃない。それを含めてあたしの人生なんだから」

 ミケはパッケージを開けて一本寄越した。そして自分も一本取り出してそれをコンッとぶつけた。まるで乾杯をするかのように。

「あたし、自分の生き方が好きなの」

 くしゃり、と笑う顔はあの頃と同じままだった。

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