第三十八話 「キミの舞台」
■■■第三十八話 「キミの舞台」■■■
神成 雷蔵(かみなり らいぞう)。彼は【自殺(スーサイダーズ)ランブル】にて、扉の巨人によって握りつぶされて、その魂は"この世"でも"あの世"でもない場所へと送り込まれたハズだった……
でも、どういうワケなのかその持ち前の往生際の悪さを発揮して、"彼自身"が扉の巨人となってボクたちの前に立ちはだかった……!
その体長……およそ20m……!
「サァ……ワシト ハジメヨウゾ! チ ワキ ニク オドル タタカイヲォ!! 」
今の雷蔵に自我が残っているかは怪しいモノだった。おそらく、彼の行動を支配しているのは"死合い"に対する執念だけ……それだけで、異なる世界の住人として復活したのかもしれない……ここまでくるとある種の畏敬の念が沸き上がりそうだ。
「舞台くん……! よく聞いて! 」
リンカさんは焦りを必死に押さえ込んで、ボクに作戦を伝える。
「キミはとにかく逃げまくって! ワタシがアイツを翻弄するから、チャンスと思ったら【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】を使って扉をくぐり抜けるの! わかった? 」
「はい……! 」
「いいね……? コレを逃したらもう……」
「分かってます! 」
「それじゃあ行くよ! 」
リンカさんはボクにそれだけ伝えると、飛行能力で雷蔵に向かって突進した。ボクはそれを見守りつつ、あの巨体に踏みつぶされないように駆け回ることにした。
「ハァァァァッ!! 」
炎を纏いながら巨人の周りを飛び回るリンカさん。その動きに合わせてパンチを繰り出す雷蔵だったが、的が小さい為か、どれも凄まじい風切り音をなびかせて空振りに終わる。
これは人間が飛び回るセミを叩き落とそうとしているようなモノだ、目では追えてもなかなか捕らえることはできない。
しばらくその動きを観察しつつ、雷蔵の口(くち)とも言える扉をくぐる機会を伺っていると……巨人がリンカさんに向けて拳を上から下へと思いっきり振り下ろそうとしていた。
「遅いのね! 」
「ドゴオォォォォォォォォンッ!! 」
リンカさんはそれを難なく回避! 岩石のような拳が叩きつけられた地面が大きく揺れ、思わず転びそうになるも、ここでチャンスが生まれたコトをボクは悟った!
雷蔵は今、膝立ちの状態で動きが一時的に止まっている! ボクの【吹けよ風、呼べよ痛み(ワン・オブ・ディーズタイムス)】を使って巨人の肩まで飛び移り、扉をくぐり抜けることが出来そうだ!
上手くいくか分からない……でも、今やらなくちゃ変わらない!!
「おおおおおおッ!! 」
左手で紋章を地面に作り、風を生み出して自分自身を上昇させる。雷蔵はボクの存在には気が付いていない!
巨人の肩まで……あと少し………
徐々に視界を圧迫する雷蔵の巨体。もうすぐ……もうすぐでボクは……
「あぶないッ!!!! 」
何だっ!? 突然、腹部に強い衝撃を感じたと思ったら、なんとリンカさんが空中にいるボクに向かって突っ込んできていたのだ!?
なぜ? と思ったが、その次に視界に写り込んだ光景が、なぜ彼女がボクを止めたのか? をシンプルに教えてくれていた。
雷蔵の姿が……いない? そして……いきなり夜になったのかと思うほどに、周囲が真っ暗な闇に覆われている。これを意味することはただ一つ!
「ウオオオオオオオオオッ!!!! 」
雷蔵は、膝立ちの状態からそのまま後方に飛び上がり、"バック転"をするような形でボクたちに覆い被さって圧殺しようとしていた!
つまりこれは……超大型ヴァンガード級のムーンサルトプレス!!
「ズガグォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!! 」
リンカさんのおかげでその直撃は免れたものの、その攻撃から発せられる衝撃波は凄まじく……砕けて飛び散る瓦礫の数々がボクたちを襲い、そのまま地面に叩きつけられてしまった……
「……うっ……リ……リンカ……さん? 」
自動車にはねられたかと思うほどの衝撃の中、リンカさんが庇ってくれたおかげで意識をかろうじてとりとめていたものの、体のあちこちから出血していて、仰向けに倒れた状態で起きあがることすらできない……絶体絶命だ……
「リンカさん! リンカさぁぁぁぁん!! 」
首だけ動かして確認すると、リンカさんはボクからかなり離れた場所で倒れていて、ボクの呼びかけにピクリとも動かない……これは、かなりマズイ状況だ……
さらに見渡すと、すでに体勢を立て直して血塗れのボクを文字通り見下ろしている雷蔵……そしてその後方に小さく見えたのが、三田さんの"電撃竜"と来徒さんの"飢獣(モンスター)"の群れ……さらには須藤さんたちの姿まで見える……亡者(ゴースト)の討伐をしながら、こっちまで来てくれたんだな……
……でも……
「グオオオオォォォォオオオオ!!!! 」
みんながここまで来るのには、間に合わないかもしれない……なぜなら……
「クラエェェェェイッ!! 」
雷蔵はボクから少し離れて、体を捻らせて妙な構えを取った……
やるつもりなのだ……! 雷蔵は巨人となりながらも……"あの技"をやるつもりなのだ……!!
「ラセン……」
「フウライ…………」
「バクショオオオオォォォォ!!!! 」
雷蔵が踏み込むと、この世界の空気を全て取り込むかと思うほどの回転圧力を発生!! 雷蔵は地下トンネルを掘削するシールドマシンのような圧倒的迫力を伴って錐揉み回転しながらこちらに向かって来た!!!!
これを食らえばひとたまりもないことは確実……!
だけど……まだ諦められるか!!
可能性が0でない限り……ボクは戦うことを止めるものか!!
生き返って確かめるんだ……ボクが甲州 蛍(こうしゅう ケイ)さんを助けたことが正しかったのか……
それが分からなくても探すんだ……!
その答えを見つけだすまで……!!
「うおおおおおッ!! 」
ボクは全身にまとわりついた"血液"を両手にべっとりと塗りつけた。さっきは失敗したけど、今度こそ風のシールドを作り上げて雷蔵の攻撃を防ぎきってやる!!
前は2人掛かりでも防ぎきれなかったし、その上今の雷蔵はクジラのような巨体と化している……これを凌ぐだなんてほとんど不可能に近いことは百も承知!!
だけど……今回は会えなかったけど……いつか必ず……"キミ"に出会えることを信じて……ボクはこの技を放つ!!
「ボクを守ってくれ!! 【風の寝台 (ベッド・オブ・ウィンズ)】!!!! 」
両手の平に血液越しに合わさる体温が、滾(たぎ)り……伝わり……全身の毛穴から空気を吸い込むような感覚……
仰向けの体が浮き上がるほどの烈風のドームがボクに覆い被さり、振動する空気が奏でる風音が、心を落ち着かせて安らかな気持ちにさせる……
「フグヲオオオオオオオォォォォオオオオオオオオオッッ!!?? 」
目を開けることも出来ない風のうねりの中でも……"感触"で分かった……
「オォオオオォォォォォォォォ……ッ」
ズシリと世界が揺れ、環境音はパラパラと岩が砕ける雑音だけになった。
風のシールド【風の寝台 (ベッド・オブ・ウィンズ)】による防御は……
成功したのだ!
ボクはゆっくりと目を開き、雷蔵がどうなったかを確かめようとする……
シャッターのように開かれる瞼に差し込んだのは、まずは光……そして、真っ白な……服の生地に……垂れ落とされる長い髪……?
ボクは遅れて、自分の体には何かがの"乗っかっている"ような圧迫感があることに気が付き、続いて両手に繋がれているのは、ボク自身の手ではなく……"他の人間"の柔らかい手の平だったことが分かった……
まさか……これってもしかして?
風のシールドは……ボク1人ではなく、同じ【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】を持った"もう1人"との協力によって作られていた……!?
ぼんやりとした視界に徐々にピントが合わさり……その人の顔の輪郭がハッキリと写り……正体が……ようやく認識できた。
「遅れてごめんね」
あの時とは違い、背が少し伸びて大人っぽい雰囲気に変わっていたけど……その濃くてハッキリとした眉毛と……闇を照らすような笑顔……そして鈴を転がしたような声は変わっていなかった……
「キミは……まさか…… 」
「舞台くん、急いで! 」
彼女はボクの言葉には返事をせず、跨がっていたボクから離れて立ち上がり、頭上を指さした。
その先には、ちょうど四つん這いになって覆い被さっている巨人の顔が、"この世への扉"を開いてボクたちを見下ろしている!
「戻って舞台くん……ここじゃなく……キミの舞台(ステージ)に!! 」
彼女はそう言うと、高々と掲げた右手を地面に押しつけて、風の紋章を作り上げた……
「……待って、ぺぱ……ッ!!? 」
地面から風が吹き上がると、ボクは押し上げられて扉に吸い込まれるように吹き飛ばされてしまう。
そして、空に引っ張られて身動きのとれない状況の中でチラリと写りこんだ視界には……
強奪チームの面々と、三田さん、来徒さん、れ~みんマウスにリンカさん……そして、"あの子"がボクを見守っていてくれた……
それがボクの……
"あの世"で最後に見た光景になった。
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