第三十五話 「さよなら自殺遊園地」

■■■第三十五話 「さよなら自殺遊園地(スーサイドパーク)」■■■




 凛花さんの長い戦いは終わった……





 ジョーカーとしての役目を終えた彼女は、れ~みんマウスよりあの世の扉を開く鍵を受け取り、その錠を解いた。





 ゆっくりと開かれる扉……先ほどれ~みんが"好ましくない魂"を送った時と同じく……その先には奇っ怪な斑模様が渦巻いている。





「それじゃあ舞台くん……ワタシ……もう行くからさ」


「凛花さん……本当にいいんですか……その……」


「いいの……というよりも、ワタシにはもう死ぬことしか残されてないから……"この世"には……もう魂が戻る為の肉体が無いから……」


「そうなんですか……」


「ありがとう……それより、舞台くんは……どうするの? 」


「ボクは……ボクの気持ちはもう……決まりました。だから、凛花さんとはここでお別れです……」


「……そっか。でも、そうしてくれて"良かった"って心から思ったよ。キミなら大丈夫。強いからね」


「……がんばります」


「……それじゃあ……行くね……」


「はい……ちょっと変ですけど、お元気で! 」


「舞台くんもね。で、何十年か後に"向こう"で再会したらさ……一緒にお茶でも飲んでゆっくり話でもしようよ」


「はい……必ず」


「じゃ、れ~みんも今までありがとう! さよなら! 」





 凛花さんは驚くほどあっけなく"あの世"へと旅立ってしまった……でも、その別れる直前……彼女は、平凡な15歳の少女としての等身大の笑顔を向けてくれた……





 凛花さんはあの時ようやく……様々な重圧から解放されたのかもしれない……





 そして彼女の去り際の背中を見て思う。凛花さんは、ひょっとしたらボク自身だったのかもしれない……と。





 お互い同じ人間を憎み、自らを傷つけて命を終わらせた者同士……ボクもひょっとしたら、彼女のようにこの【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】を使って上流(うえる)に復讐をしようと考えたかもしれない……少なくとも、自殺遊園地(スーサイドパーク)に来た直後の自分だったらそういう考えを抱いていただろう。





 ボクがそうならなかったのは……多分、共に戦う仲間がいたから。





 あの時、すぐに別れてしまったけど、甲州 蛍(こうしゅう ケイ)さん……あの人がボクとの共闘を持ちかけてくれなかったら……ボクはその直後に出会う須藤さんすら信じることなく、孤独な戦いに挑んでいたかもしれない……





 "出会い"がボクに潜む狂気を取り押さえてくれたのだ。





「それじゃあ、れ~みんさん……お願いします」





「心は決まったかい? 」





 ボクたちのやり取りをじっと見守っていたれ~みんは、ネズミの顔からどことなく切なげな雰囲気を漂わせて、ボクの両手を掴んだ。





「寂しくなるね……凛花ちゃんには今までホントにお世話になったし……キミと別れるとなるのも名残惜しいよ……本当によくがんばったね……」





「いえ……みんなのおかげです……」





「それにしても……キミの決意が固まったのは……上流(うえる)の身の上を知ったからかい? それともキミの父親が全てを投げ出してでも抵抗してくれたことかい? 」





「……まぁ……それもありますけど……一番の決め手は違うんです……もっと単純な理由です」





「単純? 」





「はい……上流(うえる)の魂を迎えにいく時、霊体のまま"この世"に降りたじゃないですか? その時……ふっと感じたんです……風の音を……」





「風の音……」





「その瞬間でした……頭の中で……生きていた頃に楽しかった記憶がガァーって流れ込んできて……まぁ、ゲームをしたりマンガを読んだり……家族で見た花火が綺麗だったとか、ちっぽけなモノなんですけどね……それでもボクの人生……悪いことばかりじゃなかったな……って思って……」





「なるほどね……キミらしいといえばキミらしいね……」





「はは……ありがとうございます」





「それじゃあ……舞台くん。キミの魂を然るべき場所に戻そう……念を押すけど、戻ったらここでの記憶は全て無くなる……それでもいいかい? 」





「はい……大丈夫です」





「分かった。じゃ、いいかい? ゆっくりと力を抜いて……」





「はい」





 れ~みんマウスがボクの両手何らかの"力(パワー)"を込め始めると、全身がじんわりと暖かくなっていくような感覚があった。





 この遊園地に来て……痛いこと、辛いこと、嫌なこともあった……でも、それ以上に……





 楽しかった……





 ここで関わった、全ての人たちとの記憶が、今では敵も味方も関係なく尊く思えてくる……





 ボクが初めて戦ったガスの男は……どんな理由でここに来たんだろう? 


 蛍(ケイ)さんは、あの後どうしただろうか? 


 銃男……あの人は一体どこで銃を手に入れて自殺したんだろ? 


 須藤さんは、次こそプロレスラーとして復活出来るだろうか? 


 分身して襲ってきた男もスゴく強かったな……


 時計台のお姉さんは、次こそいい恋人を見つけれるだろうか? 


 討伐チームの人たち……あの人たちはどうやってチームを組んだんだろ? 


 三田さんは声が出ない自分を受け入れることが出来たのだろうか? 


 瀬根川さんは両親を見返す他の方法を見つけただろうか? 


 走栄さんは新しい仕事を見つけられるだろうか? 


 雪乃さんと練さんはこの世でも出会えるだろうか? 


 努さんは……もっと色々話をしたかったな……


 来徒さん……あなたにはちゃんと謝りたい……


 凛花さん……最後にあなたの笑顔が見られて良かった。またあの世へ行った時に会いたいです。


 れ~みんマウス……結局あなたの頭は本物なの? 


 そして……美徳(ぺぱみん)……

 キミが守ってくれたこの魂……絶対に無駄にしないよ。





 もう来ることは無い……と信じたいけど……いざこの場所を後にするとなると……ちょっと寂しい……





 自殺遊園地(スーサイドパーク)……この場所に集った人たちは、自分が死ぬために皆が全力を尽くして戦い合った……けれども"この世"の誰よりもずっと"活力"がみなぎっていた。





 死と生が相反する矛盾空間……





 ボクはここで得たモノを全て……





 魂に刻んで家に帰るよ。





 さよなら……自殺遊園地(スーサイドパーク)……



















 …………頭が……





 痛い……? 





『舞台! 大丈夫か? 』


『先生! 舞台が! 舞台が! 』


『早く来て! 意識を取り戻した! 』


『舞台が目を覚ましたの! 』





 ……なんだか……騒がしいな……アレ……? 





 ボク……どうしてこうなったんだっけ……? 





 ぼんやりとした視界が徐々に鮮明になっていく……そこには、ボクを取り囲むように……大勢の人……





 父さんに……母さんに……妹もいる……白い服を着てるのは……誰だろ? お医者さんかな……? 





「舞台!! 父さんがわかるか? 」





 父さんはその分厚い手でボクの頬を挟み、残業続きでへとへとになったような疲れた顔をボクに近づけてきた……鼻息が荒い……





「……うん……わかるよ……みんな……どうしたの? 」





 そう言った途端、家族全員が泣き出してしまった。





「よかった」「ごめんね」「もう大丈夫だから! 」とそれぞれ口走り、何がなんだか分からなかった……





「父さんを許してくれ……もう2度とお前をこんな目に遭わせないから! 」





 こんな目に……





 あ……そうか……





 ……そう……





 ボクはイジメられていた……





 それで、そんな毎日が耐えきれなくなって……





 飛び降りたんだ……学校の屋上から……





 そして……助かったんだ……ボクは……





 ボクはまだ……





 生きているんだ……





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