第二十四話 「スティール!! 」

■■■自殺ランブルのルールその24■■■


【自殺(スーサイダーズ)ランブル】は、不定期にゲームバランスの調整案が検討され、その都度ルール改定される。ちなみに今回のルールのVer.は[8.14]




■ ■ ■ ■ ■ ■




 ボクが大好きだったプロレスラーの1人に、こんな選手がいた。





 マイクで対戦相手に虚勢を張ったり、デタラメなことを言ってでっち上げ、試合中なんかはレフェリーの隙をついて急所を蹴ったり、隠していた凶器で攻撃したりと、やりたい放題の悪役(ヒール)レスラーだった。





 "どんなコトをしてでも最終的には勝利する"という彼の姿勢(スタイル)は、決して子供の見本になるような褒められたモノではなかったかもしれない……でも、ボクには彼の姿がたまらなくカッコよく映ったのだ。





 リングの上で誰にも縛られず、縦横無尽に好き勝手なコトをして観客からブーイングを投げられつつもズルして勝利しちゃって、どこか憎めない笑顔で喜ぶその顔が、ボクにとってはとても輝かしく見えた。





 ボクも彼のようになりたい。





 イジメられていたボクは、毎日のように妄想していた。憧れの彼のように嘘をつき、卑怯な手を使って周囲を翻弄する自分……





 でも、嘘やズルを使うのは結構勇気がいるし、おまけにかなり疲れるコトを知っていたボクは、結局彼のような強(したた)かな生き様を送ることは出来なかったみたいだ……





 ……"生きていた頃"は出来なかった……




■■■ 第二十四話 「スティール!! 」■■■




 ボクたち強奪チームの中に、もう1人仲間がいる……





 その言葉にはさすがのれ~みんマウスも意外だったようで、着ぐるみなのか本物なのか分からない無表情なネズミ顔も、少し焦りを感じたように見えた。





 ヤツが驚いたのも無理は無いだろう。だって、ボクの仲間である美徳(ぺぱみん)や須藤さん、瀬根川さんだって深海魚が砂漠に現れたかのような表情を作ってボクの方を見ているんだから。





 ボクたちにまだ仲間がいるだなんてのは……全くの嘘。これは根も葉もない単なるハッタリだ。





「お、おい舞台……いったいお前……? 」





 瀬根川さんがボクにその真意を問おうとしたけど、ボクの思惑を察してくれた須藤さんが、そっと彼の袖を引っ張って制止してくれた。





「他に仲間……? ほう、それは知らなかったよ☆ でもそれがどうかしたのかい? たった1人の力でこの状況を打破することが出来ると思っているのかい? 」





 そう……ここからが正念場だ……ボクは何とかしてれ~みんの注意を、上に捕らえられている練さん、雪乃さん、走栄さんからそらさなかればならない……一瞬でいい。ほんの数秒だけヤツに隙を作ることができれば……





「……甘いね、れ~みん。その1人はあえてボク達とは別行動を取っているんだ」





「ほう……♪ それはどうしてかな? 」





 よし! れ~みんはボクの話に乗ってくれている! ボクはこれから実行するとある作戦の旨を隣にいる美徳(ぺぱみん)に伝える為、彼女の手を取り、何度か小刻みに握った。





 美徳(ぺぱみん)は一瞬驚いてボクの方へと視線を向けるも、この手を何度も握る動作に、なんらかの意味があると感じ取ってくれたようで、彼女もゆっくりとボクの手を握り返してくれた。





 準備は概ねよし……ここからボクは嘘とハッタリとズルを使い、ここにいる仲間全員を金網の外へと導かなければならない……上手くいくかは分からない……でもしなければ全員もれなく失格だ……





 腹をくくれ……ボクはやり遂げなければならない。この一世一代の大舞台を……! 





「……ボク達のもう1人の仲間は……今は地上の遊園地にいる」





「上に? なぜだい? 」





「仲間は今……上にある"あの世への扉"を壊している最中だよ」





「扉を!? 」





 自殺遊園地(スーサイドパーク)にはあの世へと通じる大きな扉がある。それはこの【自殺(スーサイダーズ)ランブル】の優勝者だけが開けることが出来、そのことはれ~みん本人も最初に説明していたし、ルールブックにも載っている。





「ボクたちはお前から鍵を盗む素振りを見せていただけなのさ。本当の目的は、ボクたちでお前を地下に呼び込み、その隙に地上にいる仲間が扉を壊すってのが目論見だ! 」





「キミたちは……囮(おとり)だったと? 」





「そう! ルールブックにはこう書いてあるよね?『自殺遊園地(スーサイドパーク)内にある数々の施設は、利用するのも破壊するのも自由である。ただし、あの世へと繋がる"扉"を無理矢理開こうとしたり、破壊行為に及んだ場合は"反則"となり、案内人によって厳重に処罰される』って…………つまりコレ、逆に言えば"扉"はどうにかすれば壊すことが出来るってコトだよね? 無理矢理壊して開けば、鍵なんて使わずにあの世に行ける……だから禁止しているんだよね? 」





「…………ふむ……」





 れ~みんはやはりボクの話を疑っているようだ……少しだけ動揺はしているみたいだけど、さっきから足下の檻に閉じこめられている走栄さんたちから銃口をそらさない……もう一息なのに……





「ねぇ☆ 舞台くん……確かに話としては面白いんだけどね……どうも、まだ信じ難いんだよね♪ その……キミたちに仲間がいるってことが……よかったらその仲間とかいう人の名前を教えてくれるかな? 」





 大丈夫……まだ食いついてきている……! このチャンスを放してたまるか! 





「イヤだ! 絶対に教えない! 」





 ここでスグに答えてはダメだ。本当にボクたちがれ~みんを引き寄せたと思わせなければならない。






「ほう……☆ なるほどね……キミが教えてくれないって言うんじゃしょうがないね♪ …………それじゃ檻の中の仲間を1人脱落させようか? 」





 れ~みんは冷たくそう呟くと、標的をゆっくりと吟味するように拳銃の先を次々と走栄さん達に向け始める。「ドゥルルルル……」と巻き舌でドラムロールを真似た音を発しながら、ルーレットを手動で再現して楽しんでいる。





「よせ! 」


「やめろ! 」





 須藤さんと瀬根川さんがたまらず声を上げた。2人は本気で上にいる3人を心配してそうしたのだろうけど、ボクにとってその反応はありがたかった。このおかげで、自然な流れの中で"仲間の名前"を暴露することが出来る。





「待ってくれ、れ~みん! 」





 れ~みんは、ボクの必死さがこもった声を無視せずに、こちらへと視線を向けてくれた。





「わかった……教える……仲間の名前を……」





「へぇ~☆ ありがたいねぇ♪ 一体誰なんだい? 」





「仲間の名前は……"神成 雷蔵(かみなり らいぞう)"」





「………………ほう 」





 れ~みんにはその名前に心当たりがあったようだ。(まぁ、この戦いの案内人だから当然と言えば当然だけど)





 ボク自身は、神成 雷蔵(かみなり らいぞう)という人物を全く知らなかった。ただ、中間発表の時に流された死に残り参戦者発表の際、その中で一際強そうな字面を持っていたから妙に印象強く覚えていたというだけだ。その名前を今、ボクたちの仲間としてでっち上げるのに利用させていただいたのだ。





「まさか、あの神成 雷蔵(かみなり らいぞう)がキミたちの仲間とはねぇ……☆ いや、ちょっとばかり意外だったよ」





 れ~みんの口振りから、どうやらその神成さんのことはよく知っているような雰囲気を感じ取った。しまったな……ひょっとしたらこの名前を使ったのは失敗だったかもしれない……





「とても信じ難いけどね☆ 万が一扉が壊されたとなったら、非常に厄介なんだ……後で始末書を何枚も書かなくちゃならない……だからね……」





 れ~みんは拳銃を左手に持ち替え右手の指をパチン! と鳴らし、空中にスケッチブックくらいの大きさの、発光する長方形を作り出した。そこにはテレビのモニターのように、地上にある遊園地らしき映像が映し出されている。





「念のため上の様子を確かめてみよう♪ 」





 きた!! 





 やっときた!! れ~みんの注意はボクたちから光の長方形の方へと反れた! 拳銃の標準も檻から外れた! 今だ! 今しかない!! 





 ボクは対面している須藤さんと瀬根川さんにアイコンタクトを送り、地面に【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】で風の紋章を作り上げる! 





 須藤さんたちはその意図を理解し、迷い無く紋章の上に立つと巻き起こる風に乗って真上へと上昇した! 





「な!?☆ 」





「残念だったなクソバカネズミ! 」





 れ~みんと同じく檻の上に着地した2人。まずは須藤さんが毒液を口に含んで吹き出し、気味の悪いネズミ頭の顔に毒霧攻撃をお見舞いした! 





「ぬあああぁぁぁおおおおッッッッ!!??☆!! 」





 悶絶するれ~みんはたまらず檻の上から、周囲を囲っている金網の縁へと飛逃げる! そして間髪入れずに瀬根川さんが自分の能力で作った日本刀を真横に振り、天井から檻を吊っている鎖をバッサリ断ち斬った! 





「降りるぞ須藤! 」





 そのまま重力に吊られて落下する鉄製の檻と須藤&瀬根川コンビ。このままでは全員地面に激突して大けがを負ってしまうところ……だったけど……





「まかせて! 」





 美徳(ぺぱみん)がすでにその対策の為に動いてくれていた! 濡らした両手を合わせて裏技を発動! 矛盾空間から風の盾(シールド)を作り出す! 





「ビュオオオオオオオオッ!!!! 」





 スタジアムの殺伐とした空気を吹き飛ばすかのような爽やかなな風音が奏でられ、落下する檻は、吹き上がる守護の風によって羽毛のようにゆっくりと地面に降り立った。全員無傷! 





 走栄さんたちをこっちの手に取り戻すと、須藤さんは一息入れる間も無く「ヌウウウウッシッ!! 」と独特の雄叫びを上げ、檻を構成している鉄棒に掴みかかった! 





 ベキッ! バキッ! と鉄棒が悲鳴を上げながら一本一本へし折られ、どんどん檻はその役割を果たさなくなっていく。そしてとうとう中に閉じこめられていた3人の仲間を救出することに成功した! 





「みんな! 起きてください! 」





 眠らされていた3人は、檻から引きずり出されると魔法が解けたかのように……





「……あら? ……ここは? 」


「Umm……? 私(ゆきの)……寝ちゃってたの? 」


「いてて……おかしいな……どうして僕はこんなところに? 」





 次々と目を開き、意識を取り戻してくれたようだ! 





「みんな無事か!? 」





「ええ……みなさんお揃いみたいですが、この状況は一体どういう経緯で……? 」





「んなコトは後だ! 上見ろ上! 」





 走栄さんたちも須藤さんに促され、金網の縁にしがみついているれ~みんを目の当たりにした。そのポジティブな中に困惑の入り交じった表情からは、自分たちがれ~みんによって捕らえられて窮地に追い込まれてしまっていたことを理解したことを伺えた。





「くそっ……このヤロウ共め……好き勝手やってくれやがって! 死ぬことすら真面目に取り組めないハンパ者の癖に! 」





 金網の上に立ち直したれ~みんは、毒霧攻撃で傷ついた顔を抑えながら、拳銃を握り直してこちらへと向け始めた。殺意を込めた弾丸を撃ち込もうと、引き金に指を掛けようとしたその直前、その動きよりもわずかに早く行動を起こしていた男がいた! 





「させませんよ! 」





 走栄さんが高速移動の【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】を使い、目にも留まらぬスピードで金網に強烈なタックルをぶちかました! 




「グアッシャァァァァンッッッッ!! 」





 内蔵が揺さぶられるかのような轟音と共に、金網には大きな震動が伝わり、れ~みんマウスは揺れた足場にバランスを崩して、何とか両腕をグルグルと振り回して体勢を整えようとするも……





「うわあぁぁぁぁぁぁッ!!!! 」





 ついに悲鳴と共に金網の外側へと落下してしまった! ……しかも、それだけではない。走栄さんの突進攻撃の威力はボクたちの想像をも越えていたようで……その衝撃で、取り囲んでいた金網がボクたちの背丈ほどの高さまで浮き上がったのだ!! 上下逆さまに置いたマグカップがひっくり返るように! 





「解放(ロール・オン)!! 」





 それを見てすぐさま瀬根川さんは、2本の屈強な西洋剣(ロングソード)を作りだし、"つっかえ棒"として金網と地面との間に差し込んだ。これでボクたちの脱出口が出来上がったのだ! 





「ひとまず逃げるぞ! 鍵は後回しだ! 」





 須藤さんが先頭となり、ボクたちは次々と金網から無事に脱出することが出来た! 全員の力で、最悪の状況を打破できたのだ! 





「やったね! 舞台くん! 」





「うん! 美徳(ぺぱみん)のおかげだよ! 」





 ボクと併走している美徳(ぺぱみん)と共に、逆境を乗り越えた喜びを分かちあった。力を合わせ、大きなコトを成し遂げるコトがこんなにも嬉しくて、興奮して、楽しいモノだとは思わなかった。ボクの脳内には今、前進を驚喜で覆い尽くす物質が大量に分泌しているのだろう。押さえ込もうとしても、どうしても笑顔になってしまう。"胸が躍る"という言葉の意味を初めて理解したのかもしれない。





「ハァ……ハァ……ここまでくれば大丈夫かな」





 必死に走り続けたボクたちは、地下通路とこのスタジアムを繋ぐ出入口ゲートまでたどり着き、呼吸を整えて振り返り、金網があった場所を確認する。





「うおおおぉぉぉぉぉッッッッ!!!! 」





 そこには金網から転落して、地面に這いつくばりながら怒号を上げているれ~みんの姿があった。手負いの状態でも、なおも他を圧倒する凄みを見せ続けるネズミ姿の案内人からは、そんな状況でも持っている鍵一つ奪うことが困難であろうことが伝わってしまう。





「おい皆! ちょっと待ってくれ! 」





 このスタジアムから出る通路へと足を踏み入れようとした瞬間、瀬根川さんが突然声を張り上げ、皆を制止させた。





「どうしたんスカ? 瀬根川さん! 早く逃げましょうよ! 」


「そうだよ! 私(ゆきの)たちには分かるの! アイツには敵わないの! 」





 練さんと雪乃さんは多分、地下通路でれ~みんに襲われてしまって捕まったのだろう……その必死さからだけで、十分にヤツが強敵だということは伝わった。イヤってほどに。





「勘違いするなよお前ら! 俺はここまで、鍵を盗むコトだけを考えて行動した! そしてもうすぐそれが手に入る! 」





 瀬根川さんのその言葉に、全員が頭の上に「?」マークを浮かべているような表情を作った。ボクもそうだ……未だに得体の知れないれ~みんの腰にぶら下がっている鍵を、どうやって強奪しようというのか? 





「解放(ロール・オン)!! 」





 瀬根川さんは自身の髪の毛を一本ちぎり、それを【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】で、ブーメランを思わせる曲線を描いた刀身のナイフへと変化させた。





「みんな伏せろ! 」





 ボクらは彼の指示の通り、素早く膝をついて屈み、体勢を低くした。一体何が始まるのだろう? 





「集合(ロール・アップ)!! 」





 その号令と共に、瀬根川はもっていたブーメラン状のナイフを大きく振りかぶり、真上に高々と放り投げてしまった。そしてそのナイフがスタジアムの天井にまで到達しようとしたその瞬間……





「ガグシャァァァァンッ!! 」と、金属同士がぶつかりあう激しい爆発音が鳴り響き、粉々になった鉄片が花火のように散っていく! 





 そしてその中に、スタジアムの証明を反射させながらまっすぐとこちらに向かって落下する、輪状の金属と思われる物体が一つ……それを見事にキャッチした瀬根川さんは、得意げな表情を作った。





「おい! 瀬根川! それはまさか? 」





 彼の手に煌びやかに納められていたのは、大きなリングに束ねられた複数の鍵。これらは間違いなく、ボクたちが探し求めていた、あの世への扉を開く鍵だ! 





「本当は須藤と一緒にれ~みんを攻撃した時に奪うつもりだったんだけどな……そうもいかなかったんで、密かに作ってた"フックナイフ"を鍵を束ねたリングに引っかけておいたんだ。あとは離れて俺の裏技を使えば、鍵ごとこっちに飛んできてくれるって寸法だ」





「凄い! 凄いですよ瀬根川さん! 」





 「集合(ロール・アップ)」の掛け声は、瀬根川さんの能力【刃をとれ(テイク・ア・ナイフエッジ)】に隠された裏技を発動させる為のモノ。作り出した武器の一つを手に取ってその言葉を叫ぶと、声を発した者の武器に向かって、他に作り出した武器が一斉に集合してぶつかり合い、弾けて爆散するというトリッキーな効果を生み出す! それを応用して、扉の鍵をこっちに引き寄せるという高度なプレイを、瀬根川さんはやってのけたのだ! 





 ボクが騙し、須藤さんが活路を開き、美徳(ぺぱみん)が守り、走栄さんが突破口を切り開いて、最後に瀬根川さんが目的を成し遂げた! 





 つい数時間前まで赤の他人だったボクらが……こんなにまで息の合った連携を成功させるだなんて……強大な敵と、厳しかった戦いが、ボクたちを急激なスピードで成長させているのかもしれない……そう思った瞬間……ボクの心には激しい切なさと、やりきれない感情が台風のように渦巻いてしまった。





 なんで……? なんでこんなにもすばらしい体験を、生きている内に味わえなかったのだろう? 成功する快感。認められる快感。それさえ知っていれば……どんなコトだって乗り越えて行けたというのに……





「よっしゃ! このまま地上に戻ろうぜ! 走れ走れ! 」





 ボクはこの心の渦巻きを無理矢理に心の隅に押しやり、今は須藤さんの言うように、ひたすら走ってこの場から立ち去るコトが先決だ。





 迷いは……自分だけでなく、周りも傷つけてしまう。









 視界から消える強奪チームの後ろ姿を見送り、れ~みんはゆっくりと立ち上がってタキシードにまとわり付いた埃を払い落としていた。





「フフッ……☆ まさかあの状況から逃げ出すだけでなく……わたくしから鍵を奪るまでのコトを実現してしまうとは……さすがだね♪ 」





 誰にも聞かれることの無い、不気味な独り言をつぶやきながら、れ~みんマウスは右手を高らかに挙げてパチン! と鳴らす。





 今までと同じように、空中に光の長方形を作り出したれ~みんは、その中に手を突っ込んで、ねじれたコードに繋がれた古い型の電話の受話器らしき物を取り出し、それを耳に当てた。





「わたくしだ。聞こえるかい? 」





 れ~みんはどうやら、その受話器を使って誰かと通話を始めたようだった。ねじれたコードを指でいじりながらも、その話相手の声の一言一言を聞き逃さないように、真剣な雰囲気を漂わせていた。





「ん? 取り込み中だって? まぁ、我慢して聞いておくれよ……大事な話なんだ♪ ……うん……そうだよ……今"舞台くん"たちは地上に向かったようだ。ボクの鍵を持ってね……♪ …………そう……全員一緒さ…………キミの見込んだとおり……なかなか面白い人間のようだね☆ ……そう……地下通路の……Aの13番に向かってくれ……なるべく急いだ方がいい……何とか神成 雷蔵(かみなり らいぞう)を振り切るか倒すかしてね☆……ああ、分かったよ。それじゃあね☆ 」





 通話を終えたれ~みんは、受話器を長方形の中にしまい込むと、無人のスタジアムを見渡し、ため息混じりに呟いた。





「凛花ちゃん……今回が多分、最後のチャンスだよ……」





■■【現在の死に残り人数 8人】■■




■■■フックナイフとは?■■■


 刃がブレード側に[J字]に湾曲している特殊なナイフである。

 用途は、お椀やスプーンといった木製工芸品を作る際、その窪みを削り出す為に使われるのが主である。




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