第二十二話 「ペパーミント!! 」

■■■自殺ランブルのルールその22■■■


 案内人(れーみんマウス)には自己判断で、参加者に与えられた【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】のレベルをアップさせることが認められている。




■■■ 第二十二話 「ペパーミント!! 」■■■





 ■ ■ グループC (舞台・走栄・大沢 ) ■ ■





「鼻血、止まったかな? 」





「も……もう大丈夫みたい」





 地下通路を歩いてたどり着いた謎のスタジアム。その客席部分に設営された無数のベンチの一角にて……ボク、清水 舞台(きよみず ぶたい)は転倒による鼻からの出血を止める為、チームメイトの大沢(おおさわ)さんによる手厚い看護を受けていた。





「まだ出てるよ……無理しないで、このままでいて」





「は、はい……」





 固いベンチをベッド代わりにして仰向け横たわり、枕で頭部を持ち上げて流血を抑える。鼻血を止める方法としては間違ってはないとは思うのだけど、いかんせんその枕の代わりに使ったモノが平常心を乱す要因となって、落ち着きを取り戻せずに血の流れがなかなか収まらない。





 ……スカートの生地越しに感じる柔らかさ……そして、入浴剤みたいな甘く心地よい匂い……





 ボクの頭は今、ベンチに腰かけた大沢さんの太ももの上に置かれているのだ。






 これは要するに膝枕の状態だ……まさか死後の世界でこんな経験が出来るだなんて思わなかった。





 天を仰ぐ視界には……グレーの地味なパーカーに浮かび上がる小山の間から、心配そうにボクの顔を見下ろしてくれている大沢さんの顔が見える。なんだか照れくさい……





「舞台くん……」





「な……なんでしょうか? 」





「さっきはありがとう」





「え? 」





 "ありがとう"……と言われるも、突然のことだったので、一体何のことに対しての感謝なのか分からなかった。





「わたしが来徒(らいと)さんの手を握った時のこと……」





「あ……それは……」





 ボク達を飢獣(モンスター)を使って苦しめた反州 来徒(はんす らいと)さん。彼とは戦った後に苦しみを分かち合い、チームに協力すると決まったのだけど、その矢先に自分の意志とは関係なく、大沢さんを飢獣(モンスター)に変えてしまうという失態を犯してしまっていた……彼女はその時のことを言っているのだろう。





 分かりあえた仲間を消さざるを得なかったボクに気を使ってくれているのか……それとも不可抗力とはいえ、自分の行為によって悲劇を生み出してしまったことに責任を感じているのか……どちらなのかは分からないけど、大沢さんは一言お礼の言葉をくれた後は、これ以上話すことなく黙り込んでしまった。





「ねぇ……舞台くん……」





 お互いにどうやって言葉を紡げば分からない空気になりかけていたけど、大沢さんが何か意を決したような、ハリのある声で沈黙を破った。





「わたしの下の名前……まだ教えてなかったよね? 」





「え?……うん……」





 大沢さんの下の名前……彼女の口から直接は聞いていないのは確かだ。でも、ボクはもう知っている。れ~みんマウスによる途中経過の発表時、死に残った参加者全員の顔写真とフルネームが公開されていたからだ。





 その20人以上にもなる参戦者の名前の羅列の中でも、彼女のフルネームの字面は強烈で、深く記憶に刻まれていた。





「わたし、大沢 美徳(おおさわ ぺぱーみんと)って名前なの……」





 もしかして、ボクの見間違いだったのかな? と思っていたけど……やっぱりその通りだったみたいだ。その個性的な名前の持ち主は、紛れもなくボクと密着している人物と同一人物だった。





「なんで美徳(びとく)って書いて"ぺぱーみんと"って読むかはね……ペパーミントの花言葉が"美徳"だからなんだって……パパとママは人として立派な心を持つ子に育って欲しい。って願いを込めてこの名前を付けてくれたらしいんだ……でも、ちょっと独特過ぎるよね、このネーミングセンス」





 ボクは生きている頃、インターネット上の記事で親に変わった名前を付けられたせいでイジメを受けたり、家族と揉めたりといった事例を何度か目にしたことがある……





 同級生や教師からもけなされ……社会に出てもその名前が災いして就職の際に面接で落とされたりだとか、独特な名前が引き起こす悲劇の例は数えきれない程にあるのだそうだ。





「最近は結構変わった名前の子が多いけど、わたしのは群を抜いてたみたいで……学校では知らない人からも指差されて笑われたり、因縁付けられて恥をかかされたり……毎日がキツかったよ……」





「ボクも、ちょっとだけ分かるよ、その気持ち。ボクの名前も少し変わってるから……ブタ野郎とかよく言われたし……名付けた両親を恨んだ時もあった。改名も真剣に考えたことがあるよ」





「そうなんだ……舞台くん、カッコイイな名前なのにね。英語だと"ステージ"だよ」





「はは、ありがとう……(ステージ? )」





 そして大沢さんは優しい笑みでボクを見下ろしてくれた。自分の名前を褒められたことと、アバンギャルドな名前同士で分かり合える仲間としてボクを認めてくれたような感じがして、嬉しかった。





「でもね……」





「でも? 」





「わたし自身はね……このぺぱーみんとって名前、嫌いじゃないんだ。親を恨んだことも、名前を変えようとも思わなかった」





 意外だった。ボクはてっきり、その名前でバカにされ続けたことを苦に、自らを傷つけてこの自殺遊園地(スーサイドパーク)に呼び込まれたのだと思っていたからだ。





「わたし、両親を8歳の頃に亡くしてるの。事故でね……」





「事故で……!? 二人共? 」





 その告白だけで十分だった。なぜ大沢さんが自分の名前を大事にしているのかを知るには、それだけで十分だった……





 名前は、子供がこの世に生まれて初めて両親から受け取る贈り物。親を亡くした彼女にとってそれは形見になるワケであって、そう易々と手放せるモノではないのだ。それが例え、自分自身に不幸を招くモノであっても……





「パパとママはわたしのコトを"ぺぱみん"って呼んで可愛がってくれててね……ケンカをしているコトなんて一度も見たコトなくて、一緒にいるだけで嫌なコトを忘れられるような、笑顔の素敵な夫婦だったよ」





「大好きだったんだね、お父さんも、お母さんも」





「うん! ……でも……」





 さっきまで開き直ったかのような笑顔作っていた大沢さんだったけど、突然表情を曇らせてしまった。





「ちょっと前にね、見ちゃったんだ……たまたま。ネットの掲示板でわたしの名前が話題に上がってたの見つけちゃったんだ……」





 嫌な予感がする……





「まさか……読んじゃったの? 」





「……うん」





 その返事に、ボクも思わず顔をしかめてしまった。それは、一番やってはいけないことだ。匿名の掲示板で綴られている文章なんて、全てがそうとはいえないものの、配慮の欠片もない鬱憤(うっぷん)の捌け口だったり、一時の面白さの為に誰かを貶めるようなモノが大半だからだ。自分自身に直接関わる記事なんて、たとえ大金を貰えたとしても近づいてはいけない……





 ボク自身、ネット上で屈辱的な画像を学校内のグループに晒されたことがあるので、その危険性は痛いほどに知っている。自分自身が罵られている文章や画像を、無機質な液晶画面越しに見た時の心がヘドロに包まれてしまうような苦しみ……寝てても起きてても常にそのコトが頭に残り、どんどん生きる気力を奪われていく。





「何か……悪口でも書かれてたの? 」





「ううん……その掲示板には、わたしのコトを馬鹿にする文章はほとんど無かった。むしろ、気を使ってくれるような書き込みが大半だった」





「それじゃあ……? 」





「代わりに書かれていたのは、わたしの名前に対してじゃなく、わたしの両親に対しての悪口だった……教養が無いだとか、子供をオモチャ扱いしてる、親を選べない子供がかわいそうだとか……好き勝手に書かれてた……」





 徐々に声を震わせる大沢さん。ボクの顔に生暖かい滴(しずく)が垂れかかった。





「わたしが知っているパパとママは……優しくて、物知りで……わたしがインフルエンザに罹った時は大慌てで病院に連れてってくれて、誕生日にはチョコレートケーキを作ってっくれて、夏休みには必ず海に連れてってくれた……世界一の親だよ……なのに、なんで見ず知らずの人にここまで好き勝手言われなきゃならないの……? 自分のことバカにされるより何倍も辛いよ……」





 ボクと大沢さん、二人だけでの世界を作るには、このスタジアムはあまりにも広すぎた。無機質な鉄骨で織り成されたこの造形物は、弱々しく嗚咽を漏らす彼女の声をどこまでも突き放して包み込むことは無かった。





「それからは……自分への悪口が全てパパとママに向けられているような感じになって……家族全員の存在が否定されたような気がして……毎朝起きるのが苦痛になっちゃって……そして気が付いたらアパートの屋上に向かってた」





 彼女が瞬きするたびに零れ落ちる涙の何粒かがボクの顔に垂れ落ち、鼻の孔(あな)の周辺で固まりかけた鼻血と溶け合う。お互いの体液が交わうことで、ボクが腹の奥でしまっていた熱い衝動が突き動かされたのかもしれない。





「ぶ……舞台くん……!? 」





 気が付いたらボクは彼女を抱きしめ、一緒になって泣いていた……なぜ自分まで涙を流してしまっていたのか、ボク自身も分からなかった。





 周囲から理不尽な仕打ちを受けていた者同士としての共鳴(シンパシー)があったから? 誰よりも他人に優しい彼女が、自ら死を選ばなくてはならなくなってしまった現実へのやりきれなさか? 単純に、目の前で悲しんでいる彼女を慰めたいと思い、感極まってしまったことによる暴走反応なのか? 





 確かなのは今こうして大沢さんの体温を感じ取ることで、久しく感じていなかった"安らぎ"が体に満ちていたこと……そして、ボクの背中に腕を回して抱き返してくれた彼女の行為に尊さと愛おしさを覚えていること。





「……ごめん、急にこんなコトして」





「いいよ。優しいんだね、舞台くん」





「そんなことない……ボクなんか、自分勝手で……」





 ボク達は一旦体を離し、お互いに照れながら向き合い、指だけで絡ませ合うように両手を繋ぎ合わせた。手の平から発動する風の能力を誤って使わないように気を付けた為、自然とそういう形になった。





「謙遜しなくていいよ……それに強くて、カッコいいし。地下で飢獣(モンスター)に囲まれた時も、君がいなかったらどうなってたら分からなかった」





「ボクがあの時上手く立ち回れたのは、今まで出会った人、戦ってきた人との経験があったおかげなんだ。色んな人に支えられたから出来たことなんだ……ボク一人の強さじゃないよ」





「舞台くん……何言ってるの? それが君の"強さ"なんだよ」





「え? 」





「良い経験も、悪い経験もしっかりと自分を成長させる栄養として取り込めるって、当たり前のようで、なかなかできないことなんだから……パパがよく言ってたよ! すごいよ舞台くんは」





 その言葉……その言葉で、常にボクの皮膚の上に薄く覆っていた不快なビニールのような感触が、キレイに取り払われた実感があった。





 恵(ケイ)さん、須藤さん、三田さん、強奪チームのみんな……そして大沢さん。生きている内は、こんなにも多くの人に自分自身を肯定された経験は無かったかもしれない……その繋がりが今、ボクをこんなにも晴れ晴れとさせてくれている。





 ボクはここにいてもいい……このアイデンティティを、生きている内に持ちたかった……





「わたしも……みんなとここで会えて本当に良かったと思ってるよ……瀬根川さん、努さん、錬さんと雪乃さんに須藤さん、舞台くん……ここまで色々あったけど、一緒にいて楽しかった……今になって、下の名前で自己紹介しなかったことを反省してる……バカにされるんじゃないか? って信用してなかったってコトだもんね……」





「後でみんなに改めて自己紹介すればいいと思うよ……」





「変じゃないかな? 」





「大丈夫だよ……ぺ……美徳(ぺぱーみんと)さ……ん」





「へへ……ありがと。良かったら、その……"ぺぱみん"って呼んで欲しいな」





「ぺ……? ぺぱみん? 」





「アレ? なんか顔が赤いよ? 」





「ちょっと……なんか、恥ずかしくて……」





「え……」





 あ、しまった! ひょっとしたら"この名前を口にすることが恥ずかしい"とボクが言っているのかと思われたかもしれない。





「いや、ごめん! そうじゃないんだ。その……こういうの、慣れてなくて……女子をあだ名で呼ぶことってあんまりなくって。名前が変だってワケじゃないよ! アイドルみたいで可愛いらしいし、好きだよ! 」





 焦ってフォローしたことが裏目に出てしまったかもしれない、美徳(ぺぱみん)は急に黙りこくってボクの方を見つめ、そして徐々に顔を紅潮させてしまった。





「わたしも……」





「え? 」





「わたしも……舞台くんのこと……大好きだよ」





「ええっ? 」





「うれしい……男の子にそんなコト言われるのって……わたし、はじめてで……その、えと……」





「その…………あっ! 」





 ボクはあるコトに気が付き、自分が先ほど喋ったセリフを頭の中でリピートさせた……





 『アイドルみたいで可愛いらしいし、好きだよ! 』





 これだ……! ボクがそう言ったのは、美徳(ぺぱーみんと)という名前に対してのコトだったのだけど……彼女は愛の告白と受け取ったらしい……そして、ボクの反応を見て、どうやら向こうもその勘違いに気が付いたようだ。





「あ……ああああッ! えっと! その、ごめんね! いやいやいや! 違うよね! わたしがアイドルみたいだなんておこがましいよね! そんな、えと、うそ……そのゴメンね舞台くん! その、勘違いだね! 変だもんねこんな時に! それに、舞台くんと美徳(ぺぱーみんと)じゃ、二人合わせて"ブタミン"だもんね! おかしいもんね! 」





 意味不明な言葉を発し、目を泳がせながら両手を上げたり下げたりくるくる回したりして見るからに動揺しながら早とちりを訂正しようとする美徳(ぺぱみん)……その慌てふためいている姿は、オモチャと戯れる子猫のように可愛いらしくて見入っててしまったけど、そのうち風の能力を誤発動させてしまい、お互い天井に向かって吹き飛ばされる恐れもあったので、ボクはそれを阻止する為に彼女の暴れる両腕を掴み取った。





「へ……ぶぶぶ舞台クン!? 」





 そしてボクはそのまま彼女をベンチに押し倒し、覚悟を決めた。"誤解"の"誤解"を解く為に、自分の本心を美徳(ぺぱみん)に伝える決意をした。





「美徳(ぺぱみん)……」





「は……はい……」





 心臓はアフリカの民族音楽のような情熱的なビートを刻み、背中にはじんわりと汗が噴き出して白いシャツが湯葉状に張り付いているのが分かる。





 言う! 今度こそちゃんと言う! 





 勘違いじゃなく、本当の言葉として……





「ボクは……本当に……」





「……ほんとうに? 」





「美徳(ぺぱみん)のことが……」





「わ……たしのことが……? 」





「…………す………………! 」





 勇気を振り絞って想いを伝える直前、ボクは視界の端に"異物"が移り込んでいることに気が付いて、本能的にその方向へ首を動かした。





「……舞台くん? 」





 最低だ。まさか、こんな時に……"現れる"だなんて……





「舞台くん…………まさか! 」





 ボクの視線を追って、美徳(ぺぱみん)も気が付いたようだった……さっきまでの甘く、じんわり温かい空気に酔っていた気分は一気に冷え切り、ボク達をジッと見つめる残酷な目つきに全ての感覚を奪われてしまっていた。





 想定しうる……最悪のシチュエーション……これだけは避けたかったのに……! 









「……スマンな……え~と……そのまま続けてくれていいぞ」


「あ、まぁな……捜索をほっぽり出したことは後回しにしといてやるから……」





 気まずい表情を作ってこちらを凝視していたその2人の男は……ボクも美徳(ぺぱみん)もよく知っている人間だった……





「須藤さん!!!!????」


「瀬根川さん!!!!????」





 どうやら知らぬ間に、グループBはこのスタジアムに合流していたらしい……一体いつから……どこまでボク達のやり取りを見ていたのか? 





「うわあああああああああああああッ!!!!!! 」





 美徳(ぺぱみん)は気恥ずかしさと申し訳なさで硬直しているボクを突き飛ばし、その小さな体からどうやって出しているのか驚くほどの絶叫をしながら、運転手不在の蒸気機関車を思わせるダッシュと突進で須藤さんらの方へと向かって行った。





「違うんですよ! 違うんですよ! これは舞台くんが無理矢理わたしを押し倒したワケじゃないんです! 確かにイキナリ胸を揉まれたりしましたけど、むしろわたしが押し倒したいってくらいのことで! いや、何言ってんだろわたし! とにかく! 誤解しないでください! 違うんです! だから舞台くんをどうか責めないでいただきたいのでありまして候(そうろう)! 」





 想像を絶する羞恥で混乱したのか、3手飛び越えた弁明をする美徳(ぺぱみん)……須藤さんも瀬根川さんも、目の前の爆竹少女に対処をどうすればいいのか困惑している。





「お、落ち着けって美徳(ぺぱみん)! 」


「そ、そうだ……とにかく深呼吸しろよ美徳(ぺぱみん)!」





「ああああああッ! 見てたのね!? あなた達2人共! 全部見てたのね!! 」





 美徳(ぺぱみん)を止める為に、全身冷や汗まみれになったボクも、須藤さんらがいる場へ赴く……わずか5mほどの距離がとても長く感じた……





「……はは……いや、お恥ずかしいところを……」





「全く隅におけねぇなぁ……ブタミン」


「そうだな……全く呑気な奴らだ。ブタミンってもんだ」





 う……どういうワケか、須藤さんと瀬根川さんが妙に親しくなっている気がする……強奪チームの中でも力のある2人に、同時にからかわれちゃ身が持たないぞ、コレは……





「それにしても、すげぇ場所だな……ここは。両国(りょうごく)で試合した時のコトを思い出すぜ」





 カジュアルな雰囲気を一掃するように、須藤さんがこのスタジアムを見回しながら呟いて空気を変えた。ボクもさっきまでのことは一旦忘れて現状にフォーカスを移した。美徳(ぺぱみん)は恥ずかしさのあまり、ボクの背中に顔をうずめてしまっている。





「ああ……地下の足場が突然エレベーターみたいに上がってったと思ったら、こんな場所にたどり着くとはな。俺の判断は間違ってなかったみたいだな」





 ボクは今になって気が付いた。自分が立っている足場が、さっきまで大きな穴だった場所にはめ込まれた半月状の石畳がせり上がった物だということに。須藤さん達はもう半分の空洞を埋めるように、別ルートの地下にあった同じ半月状の足場に乗って昇って来たらしい。





 これでスタジアムの中心には、円形の闘技場が出来上がったワケだ。





「おう舞台! そういや走栄(そうえい)さんはどうした? 一緒だったろ? 」





「えっと、そうだ! 走栄(そうえい)さんなら、あの入場ゲートの向こうに……」





 ボクが鉄骨を組んで作られた門(ゲート)を指差した瞬間だった。





「ガァグオォォォォォォォン!!!! 」





 右の鼓膜が押し込まれて左の耳から飛び出してしまうかと思うほどの轟音! そして尻もちをついてしまうほどの激しい振動! 





 一体なにが? 





 土煙が舞い、キーン! と脳に響く耳鳴りを堪えながら周囲を見回すと、円形の闘技場をスッポリ覆うように、360°が鉄パイプのような物で上下左右の網目を組まれていることを理解した。





 つまりボク達は、突然降って来た巨大な"鳥カゴ"に閉じ込められてしまったということになる。





「さ~て♪ 第259219回【自殺(スーサイダーズ)ランブル】も残り人数一桁となって大詰めの様相☆ ここらでちょっと趣向を変えた催しを企画致しました♪ 」





 聞く者全てを苛立たせる口調、そしてオーロラビジョンに映し出された巨大なネズミの顔……ついに……ついにボク達の前に……"アイツ"が現れたのだ! 





「ド派手な登場キメやがって……」


「ついに来たか……」





 入場ゲートを潜り、花道の装置から噴き出すスモークの演出をくぐりながら、そいつはゆっくりとボク達の方へと歩み寄って来る……! ボクは、その実物を見るのは初めてだったけど、そのおちゃらけた雰囲気とファンシーな装いでは隠しきれない、圧倒的な"黒いオーラ"に圧倒されてしまった。





「さ~て♪ 一緒に楽しみましょうかねぇ☆ 」





 れ~みんマウスが……ボク達の目の前にいる!! 





■■【現在の死に残り人数 8人】■■





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