第十六.五話 「アンガー&ウォーター!! 」
■■■自殺ランブルのルールその16■■■
基本的に参戦者同士の間では、どんな行為に及んでも許されている。
■■■ 第十六.五話 「アンガー&ウォーター!! 」■■■
※※※気分を害する恐れがある描写があります。閲覧注意です。※※※
清水 舞台(きよみず ぶたい)が強奪チームのメンバーと共に、地下通路内にて飢獣(モンスター)と抗戦している頃。地上の自殺遊園地(スーサイドパーク)では、残り少なくなった参戦者達が自分達の「死」を掛けてのせめぎ合いを続けていた。
しかし、そんな戦いのただ中、とある3人のランブル参戦者が園内フードコートの一角にて、目眩(めまい)を引き起こすような凶行に及んでいたコトは知られていない。
「次は俺の番だ! 代われ! 」
「気をつけろよ、そろそろ"10分"経つぜ! 」
「大丈夫だ! "縄"で縛り付けてある! 」
レストラン内にある厨房とホールとを区切るカウンターを死角にし、3人の男達が【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】を悪用して、2人の女性参戦者をに辱(はずかし)めの暴行を働いていたのだ。
「う”う”……ぅぅ……っ」
男達は、非常に狡猾かつ野蛮だった……
1人の女性に対して3人で陵辱し、残ったもう一人は、能力で作った"刃物"で両手を切り落とされた上に、"縄"で縛り付けて身動きをとれなくしていたのだ。
「う”う”ーッ!! う”ッー! 」
猿ぐつわをされて声も上げられない絶望的状態にも関わらず、彼女達は自ら戦いをリタイアするコトなく耐え続けていた。なぜなら2人は一緒に海に身投げをして"心中"を図った"恋人同士"だったからだ。
お互いに「自分がここで消えるワケにはいかない、どうにかして恋人を助けなくては! 」と考えていた為に、いくら自分達が責められていてもリタイアすることなく、強い意志で精神をつなぎ止めていたのだった……
この【自殺(スーサイダーズ)ランブル】では参戦者は皆、自分が肉体的にも精神的にも全盛だったと感じている頃の肉体を得る。それ故に、10代~20代の若々しい身体を得たコトで気分を高揚させ、自分が自殺するほど絶望していたコトなど忘れて獣欲のおもむくまま蛮行に及ぶ者も少なくない……
「う”う”……や"めて! も”うや"めて! 」
男達の豪腕で押さえつけられながらも必死で抵抗する恋人の姿を、もう一人の女は助けることすら出来ずに見せつけられている。この所業を鬼畜と称さずにどう例えようか……
「こうやって"気持ちいい"コトして、また生き返るってんだからよ! 俺達のしてるコトは、むしろ良いことなんだぜ! 」
「そうだぜ、どうせ一回死んでるんだからよ! いいだろ? これくらい」
男達の頭からはすっぽりと"道徳"の2文字が消え失せていた。他者を傷つけて離脱させても、"死ぬ"のではなく"生き返る"この戦いの特殊なルールの為、罪悪感のブレーキが緩くなってしまうコトがその行動に拍車をかけている。
「ふーっ……そろそろ10分経つか? 」
「それじゃ、そろそろ"そっち"に切り替えるか。切断した両手が生えてくる頃だ」
「へへッ……そうだな。さすがに血塗れの女と楽しむほどに、俺達は"変態"じゃねぇからな」
ゲスに呟く一人の男が、物体を刃物に変える能力……【刃をとれ(テイク・ア・ナイフエッジ)】を利用して、一本の鋭利なナイフを作り上げた。
「それじゃあ、今度は"こっち"の腕を切り落としておかないとな……」
「ん”ん”ーッッ!! ん”ーっ!! 」
恐怖に怯える女の顔にも容赦なく、男がナイフを振りかざした……しかし、鮮血が散る惨状が描かれる寸前……まさにその時だった。
「十分変態だよ……ロクデナシのクソ野郎が……! 」
男が自分の背後から、バケツ一杯の残飯を見るような……汚物にまとわりつく羽虫を見るような……低く、全く思いやりの感じさせない声を聞き取ったその瞬間、ナイフを握りしめた右手が恐ろしく"熱気"を帯びていることに気が付いた。
「うぐぎゅああああぁぁぁぁッッッッ!! 」
男の手は松明(たいまつ)のように燃え盛り、高温になったナイフがそのまま皮膚にくっついて一体化してしまった!
「あああ……なんだ! なんなんだ! 」
男達の前に現れたのは、前半戦で最も多くの参戦者を離脱させてきたMVPである、炎の使い手「本草 凛花(ほんぞう りんか)」だった。
「あんたらには、まだまだ"あの世"に行かせるワケにはいかないのね」
人の道を忘れた男達でさえ……凛花の瞳から、静かな湖面のような潤いの奥に活火山のような怒りが沸き上がっているコトはスグに理解出来た。
「わわ……たすけ……」
凛花は片手に炎の球を作り上げ、容赦なくナイフ男の股間に命中させて焼き上げる!
「ウギャアアアアアッッッッ!! 」
混乱した男はその炎を何とか消そうと両手で炎を包み消そうとするも、右手にナイフがくっついたままであるコトを忘れていたので、自分で自分の股間を切り刻んでしまっている。
「痛い! 熱い! 痛い! 熱い! 痛い! 熱い! わわわわぁ! ああ! あぁぁあ? ああ!! 」
醜態を晒したナイフ男はそのまま戦意を喪失し、光に包まれてレストランの外へと引っ張られ、夕闇空へと昇って消えていった。
「あわ……わああわ」
残った2人の男は、仲間がえげつない姿で敗退したことのショックによしり、お互いに情けなく失禁して腰を抜かしていた。
「す……しゅみません……! ゆるしてください……」
「お、おねがいです……ででできごころだったんですよ……」
男達は命乞いをするも、それがかえって凛花の怒りを燃え上がらせていることに全く気が付いていない。
「死んでも許せないのね……アンタ達みたいな……煮詰めたゲロ以下の価値しかない真性のカス共は!! 」
「「ひィィィィッッッッ!! 」」
そして、残りの2人も同じように下半身を重点的に燃やし尽くされて散々苦しんだ後、光となって消え去った……
「寿命がくるまで、惨めに苦しんで生き恥をさらしな。クソッタレ共」
惨劇が去ったレストランには静寂が生まれ、立ちこめる焦げた異臭以外に残されたのは、凛花と辱められていた女性2人だけになった。凶行から解放された彼女達は、お互いに震える身体を抱き支えながら、凛花の姿をじっと見つめている。
「あの……」
日曜日の小学校のように静まった空間の中、女が凛花に言葉をかけた。
「……あ……ありがとうございました……」
「助かりました……あなたのおかげで……」
同じランブル参戦者で敵同士であるのにも関わらず、男達にもて遊ばされていたところを救ってくれた凛花に対し、2人は精一杯感謝の言葉を送る。凛花は彼女たちにとってヒーローだった。
「勘違いしないで……」
しかし、凛花の表情は冷淡だった。
「あんたたちが大勢で群れてたから、一気に倒せるチャンスだと思っただけ。漁夫の利ってヤツなのね……」
そして凛花は、両手に景色が歪む程に高熱の炎の球を作りだし、2人をひるませた。
「5秒待ってあげる……全身が黒コゲになりたくなかったら、その間にリタイアして…………"5"……"4"……」
非情なカウントダウンを開始する凛花だったが……彼女たちの表情は、何かを察したかのように穏やかな表情に変わっていた。
「"3"……」
2人は顔を合わせて意思を示し合わせると、お互いの"右手"と"左手"を組み合わせてハートの形を作り上げ、その隙間から凛花の顔をのぞき込む。
「"2"……!? 」
その2人の奇妙な行動に、【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】による攻撃を警戒した凛花だったが、彼女たちは組み合わせたハートサインにフッと息を吹きかけた瞬間に光に包まれ、自らの意思でリタイアして消え去ってしまった……
両手に構えた炎を鎮め、1人残された凛花だったが……リタイアした彼女たちが残した"置きみやげ"を目の当たりにし、ありがた迷惑な切ない表情を浮かべてしまっていた。
「……やめてほしかったのね……こういうコトは……」
その置きみやげは、彼女たちが持ち合わせていた水を操る能力【ポセイドンのいかり(アンガー・オブ・ポセイドン)】で作られた水の彫刻だった。
凛花はその人形に炎をぶつけて蒸発させようとするが、思いとどまってそのまま踵(きびす)を返す。
「……ワタシはこの日の為に……」
誰にも聞かれることのない、単なる空気の振動と化した凛花のつぶやきには、抑えきれない熱い感情がにじみ出している……
「待っててね……」
彼女が去って、レストランには水の彫刻だけが寂しく残された。
そしてその彫刻の意匠(デザイン)は【自殺(スーサイダーズ)ランブル】にて参戦中の少年……
清水 舞台(きよみず ぶたい)の姿にそっくりであった。
■■【現在の死に残り人数 17人】■■
■■■自殺ランブルの能力紹介14■■■
【裏技名】水に語りて(アイ・トーク・トゥ・ザ・ウォーター)
【能力者】酒々井 海美(しすい うみ)[29歳]・渋木 瑠衣(しぶき るい)[31歳]
【概要】
ポセイドンのいかり(アンガー・オブ・ポセイドン)に隠された裏技。両手でハートの形を作ることで発動できる。
その組み合わせた手の隙間から相手を覗き込むと、その人物の心の中を映し出して読み取ることが可能。さらにそこに息を吹き込むことで、読みとった思考を水の彫像として実体化することができる。※素材は水ではあるが、見た目は実物とほとんど変わらない。
その彫刻は任意で爆発させることもでき、半径1m以内の距離であれば相手を気絶させるほどの威力がある。
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