第十六話 「ハンガーズ!! 」

■■■強奪チームのメンバー紹介2■■■


■雪乃 哀(ゆきの あい)[死亡年齢 22歳]

 [能力]冷気骨凍氷結箱 (フリージングクライム)[氷]


■志雄 努(しお つとむ)[死亡年齢 41歳]

 [能力]ポセイドンのいかり(アンガー・オブ・ポセイドン)[水]


■墨谷 練(すみたに れん)[死亡年齢 19歳]

 [能力]銀白のけむり(シルバーヘイズ)[ガス]




■■■ 第十六話 「ハンガーズ!! 」■■■






 十数体もの群れを成して、ボク(清水 舞台(きよみず ぶたい))達の元へとゆっくり近づく謎の生物……猿に似た、人間とも獣ともロボットとも言えないその二足歩行の異形体を、ボク達は自然と「モンスター」と呼び合うようになっていた。





「このモンスター達は……一体……? 」





 その正体が何なのかはさっぱり分からない……誰かの【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】による攻撃なのか? それともれ~みんマウスがボク達に制裁を与えようとしているのか? どっちにせよ、ここでのんびり構えているワケにはいかなくなった。






「みんな! あのモンスター共がこの【中央管理局】にたどり着く前に、なんとかするんだ! 先手で攻め撃つぞ! 」





 ボク達"強奪チーム"は、リーダーである瀬根川 刃(せねがわ じん)の指示により、案内人れ~みんマウスの隠れ家とも言えるこの【中央管理局】から飛び出し、モンスター討伐を決行する。





 それに対し「【中央管理局(ここ)】で待ち伏せてモンスターを迎え撃った方がいいんじゃねぇか? 」と須藤(すどう)さんは異論を唱えたけど……





 「得体の知れない相手と戦うには……逃げ場の無い管理局内で待ちかまえるのはリスクが高いです。こちらにも敵に対抗できる【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】がある以上……ここはこちらから地下通路へ出向いた方がいいでしょう」





 と、クリエイティブなイメージを抱かせるアゴ髭をなでながら、車 走栄(くるま そうえい)さんがこの場から離れるコトを推奨した。須藤さんも彼の意見であれば、とすんなりとその提案を受け入れ、そのやり取りに、瀬根川はどこか面白くなさそうな表情を作っていた……





「どうしよう……わたし……戦えるかな……? 」





 目を泳がせながら不安な表情でモンスターとの対峙に怯えているのは、見た目は小学生の16歳女子、大沢(おおさわ)さん。彼女はボクと同じ[風]の【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】を持っているらしいけど、未だにその能力を使ったコトがないらしい……





「"右手"で自分以外を吹き飛ばして、"左手"が自分だけ。それを間違えないようにね」


「う……うん、分かった……」





 やや不安を残しつつも、ボク達強奪チームは迷路のような地下通路の途中で踏み入れる"拓(ひら)けた空間"に到着した。ここはバスケットボールの試合ができるほどのスペースがあり、照明も明るく状況を見渡しやすいので、大勢で戦闘を行うにはうってつけの場所だった。





「後ろには【中央管理局】に繋がる通路が一本。左と右にドアが一つずつ……正面には二つか……よし。雪乃(ゆきの)さん! 努(つとむ)さん! よろしく頼む!! 」





「OK! 」


「まかせろってんだ! 」





 瀬根川の指示により、チーム内での[氷]の使い手である「雪乃 哀(ゆきの あい)」さんと、[水]の使い手「志雄 努(しお つとむ)」さんの2人が颯爽と前に立ち並ぶ。





「イクよ! 」


「おう! 」





 雪乃さんが大きく左足で地面を踏みつけると、氷で作られた棺桶が上方から勢いよく降り立ち、フタが開かれて吹雪を発生させた。その標的は左側にある通路の出入口ドアだ。





 そして間髪入れず、同じ方向に努さんが水のカッターを次々と吹き飛ばす……すると、どうだろう! 水が吹き付けられた出入口は吹雪で冷やされて凍り付き、あっという間にドアを氷の塊で塞いでしまった! 





「よし! その調子で残り2つも頼む! 」





 瀬根川の思惑はこうだ。ボク達の背後を除く四カ所の出入口の内三カ所を塞ぎ、モンスターの通り道を一カ所に絞ってしまうというモノだ。こうすれば、攻撃を一点に集中すればいいので戦いやすい。それに背後の通路は突き当たりになっているのでモンスターに後ろから攻められることも無い。





「なるほどな、ヤツにしちゃ妙案だぜ」





 瀬根川とは折り合いの良くない須藤(すどう)さんも、この作戦を好意的な目で見ていた。そしてボクも一緒に、その雪乃さんと努さんの"仕事"をしみじみと眺める。





「舞台……それにしても……」





「なんですか? ……須藤さん……」





「いや、ついつい見入っちゃうな……アレ」





「あ……その……まぁ……」





 そう……ボクと須藤さんは、作戦とは別の"とある事象"に視線を固定されてしまい、気が気でなくなっていたのだ……





「こんな所であんなに"いいもの"が見られるとは」





「は、はぁ……」





 ああ、駄目だ……ボクは死んだ身だというのに、戦いの真っ最中だというの……心に組み込まれた"思春期の中学生男子"という本質を押さえ込むコトが出来なかったのだ……





 「それッ! 」と、雪乃さんが左足を踏みしめて氷の棺を生み出すたび……見てしまうのだ……ミニスカートからはみ出す、スラリときめ細やかな生足がどうしても視界に入ってしまうのだ……





 何とか煩悩を押さえ込んで冷静さを呼び起こそうとし、周囲を見渡して見れば、あの真面目そうな走栄(そうえい)さんでさえ、明らかに雪乃さんの下半身を凝視している……まるで美術館の絵画を眺めるような目で……




 そしてボクを含め、雪乃さんに見とれている男子勢に冷ややかな表情を作る大沢さん……ごめんよ……これだけは、男という生き物は死んでもどうすることが出来ないんですから……





「舞台君。雪乃に見惚れるのは、まぁしょうがないけど、ほどほどにな。今は戦いの最中だよ」





「あ……ハイ! すみません! 」





 煩悩と戦っていたボクの肩にそっと手を置き、緩みきった緊張感をただそうとしてくれたのは「墨谷 練(すみたに れん)」さんだ。





「スゴいだろ? 雪乃の能力は、さすがだよ。おれの能力はここじゃ使えないから、まぁ歯がゆいよ……雪乃(アイツ)みたく皆の力になれそうにないな……」





 雪乃さんの活躍を得意気な表情で見つめる練(れん)さんは、[ガス]の【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】を持っている頼もしい存在。しかし、ここではその力を発揮出来ない。





 なぜならこの締め切った屋内でガスを発生させてしまうと、敵のみならず、ボク達にまで被害を受けてしまうからだ。





 【銀白のけむり(シルバーヘイズ)】はボクが初めて戦った相手の能力。その強さと恐ろしさは、身に染みて分かっているだけにこの状況がもったいなく感じる。





「がんばれ……雪乃」





 そしてこの練(れん)さんという人は、さっきまで……というか、ボクと初めて会ったその時から、ずっっっっと雪乃さんと手を繋ぎ合わせていて、"そういう仲"であるコトをこれでもかと見せつけていた。どうやら、お互いにこの自殺遊園地で顔を合わせた瞬間に一目惚れしたのだとか……




 敗退して生き返ったらこの戦いでの記憶は消えてしまう……お互いに現世に戻り、再び奇跡的な出会いを期待するという道もあっただろうけど、彼らはそんな可能性は恐ろしく低いコトを悟り、ここでの時間を大切にしながら一緒に死のうと考えたようだ。





 ロクに恋愛というモノを知らないボクにはその選択が正しいかどうかはさっぱり分からない。でも、2人にとってはそれが最善なのだろう……





 そしてそんなコトを考えているうちに、どうやら作戦の下準備は完了したようだ。モンスターが押し寄せると思われる3つの出入口は氷塊によって封鎖され、正面に残された一つのドアだけがそのまま解放されている。




「よし……来やがれモンスター共……」


「前衛はオレ達に任せろ、舞台達はサポートを頼む」





 陣形は、瀬根川・須藤さん・走栄さんの三人が最前線で戦い、ボクと大沢さん。そして雪乃さん・練さん・努さんが後方支援という役割となった。





 下ごしらえは完璧、あとは未知なる敵の尊顔が現れるのを待つだけだったけど……ここでふと、ボクは最後尾にいる大沢さんコトが気になり、振り返って様子をうかがってみた。彼女は初めての戦闘に緊張しているかもしれない……





「大沢さん、大丈……ぶ!? 」





 クソッ! やられた! 





 振り向いた視線の先には、頭に[?]マークを浮かべてそうなキョトンとした表情の大沢さん。さらにその後ろに……





 なんてこった!! 





「大沢さん! 危ないッ!! 」





 ボクは急いで大沢さんを横に突き飛ばし、今まさに彼女に襲いかかろうとした……"モンスター"を、右手の紋章による"風の地雷"で吹き飛ばした! 





「グギャアァァアアァァッ!! 」





 烈風により上昇したモンスターは地下通路の天井に叩きつけられると、聞くだけで吐き気を催すような不気味な断末魔を上げ、そして塵(ちり)になって消えてしまった。





「どうした!? 」「大丈夫か! 」とチームは騒然となる。まさか、絶対に現れることが無いと思っていた"背後"からモンスターが現れるなんて、誰も想像していなかった。





 そして混乱したこちらの状況をあざ笑うように、ボク達の周囲に次々とモンスターの姿が現れ、あっという間に取り囲まれてしまった! 





「まさか……"下"から来るとはな……こりゃ予想外だぜ」





 そう。モンスター達は、この地下通路の床から植物のように生えて沸き上がり、ボクらの前にヌルリと現れたのだ。出入口を塞ぐ作戦は全くの無駄だった。





「大沢さん! こっちに! 」





 ボクは突き飛ばした大沢さんを助け起こして、抱き寄せる。気が付くと強奪チーム全員が背中合わせで円陣を組むような形になっていた。





 周囲には30体ほどのモンスターがじりじりとこちらとの距離を詰め始めている……その瞳からは生気を全く感じさせず、古いホラー映画のストップモーションで動く怪物を見ているような不気味さを醸し出している。




「やっぱり……やっぱり駄目だったんだよ……」





 絶体絶命のさなか、努さんが震わせた声で弱音を吐き始めた。さらには頭を抱えて座り込んでしまっている。





「努さん落ち着くんだ! 混乱は身の破滅だぞ! 」





 瀬根川がどうにか彼を落ち着かせようとするも、彼は全く聞き入れない……そして何を思ったのか突然一体のモンスターの前へと走りより、両手を合わせて懇願し始めた! 





「れ~みんマウス! 見ているんでしょ? 私達がルールを破ったからコイツらに襲わせているんですよね? すみません! 鍵を奪うだなんて嘘です! だから私達を……」





「駄目だぁぁ! 離れろ努さぁぁぁぁん!! 」





 須藤さんの叫びも空しく、努さんは無慈悲なモンスターに首筋を思いっきり噛みつかれてしまった! 





「ぐぎゃぁぁあああああぁぁ……ぁ」





 努さんの顔は、乾燥したフルーツのようにみるみるシワだらけになってしぼんでいき……やがて彼は光の球となって地下通路の闇に消えてしまった……





「くそッ!! 」


「ヤバいぞ瀬根川……コイツら、思ったより強いんじゃねぇか? 」


「努さんが……あんなにあっけなく……」


「練……どうしよう、ヤバいよ……」


「まぁ落ち着くんだ雪乃……お、お……落ち着くんだ……」


「……舞台くん……怖いよ……」





 仲間の衝撃的なやられ様に、戦意をも失い掛けそうになる強奪チーム……このままではまずい。恐れている暇はない……戦わなければ。





 ボクはポケットに忍ばせていた、三田さんのピックを握りしめて勇気を奮い立たせようとした。





 三田さんは落ち込んだボクを"歌"で元気付けようとしてくれた……ボクも、ここでどうにかしてチームの志気を高めることが出来るハズだ……何でもいい……とにかく戦う意欲をこみ上げらせるんだ! 









「……みなさん! 分かりましたよ! 」





 突然張り上げたボクの声に、みんなが「なんだ? 」という表情を作ってこちらを注目した。その反応に手応えを感じ、ボクは話を続ける。





「コイツらの正体は、れ~みんマウスの差し金ではなく、誰かの能力による攻撃です。なぜなら、ルールブックに"案内人は反則を犯した参加者以外を攻撃出来ない"と書いていました。反則どころか、れ~みんに直接対峙したことすらない努さんに襲いかかったコトが証拠です」





「でも、それがどうしたってんだ? 俺達がヤバい状況なのは変わらねぇんだぞ? このモンスター共を操ってるヤツがどこにいるのかもわからねぇんだぞ! 」





 瀬根川の反論は想定通り。ボクは無理矢理に笑顔を作り、話を続ける。




「違います! ボク達が有利なんですよ! この状況は! 」





 チーム全員の目つきが変わった……! この調子だ! 





「このモンスター達……捕まったらあっという間にやられてしまいますが、ハッキリ言って怖いのはそれだけです。30体くらいもいながら、さっきからノロノロとこちらを伺って襲いかかろうとしていません。つまり敵もボク達を"恐れている"ってコトです! 」





「確かに……大沢ちゃんへの不意打ちだって失敗してますし、努さんが襲われたのも……モンスターにかなり接近した時だ……」





「その通りです走栄さん! つまりコイツらはノロい上に、むやみに近づかない限りは強敵では無いというコトです! それに、ボクの能力であっけなく塵になりましたし、相手は土で作られた操り人形みたいなモノです。人間じゃありません! だから遠慮なくどんどん蹴散らしてしまえばいいんですよ! 」





 ボクの言葉に、強奪チームの面々の顔はみるみると活気を取り戻していく。そうだよ……戦えばいいんだよ……何でそんなコトに気が付かなかったんだ……? という心の声が伝わってくるようだった。





「なるほどな、こいつらをシバいてこの地下通路にいるであろう能力者本体を探して叩くってコトだな? 」





 須藤さんもようやく本調子を取り戻したようだ。





「そうと分かれば……」





 瀬根川は、意気揚々とポケットからチュロスの欠片を真上にばらまき、「解放(ロールオン)!! 」のかけ声でそれらを様々な種類の刃物に変化させ、地面に突き立たせた。





「好きな武器を使え! リーチを補うんだ! 」





 チームメンバーは次々と、武器を手に取り始める。その光景に、おお……なんかカッコいい展開だぞ……と一人で感動しつつ、ボクも遠慮なく一本の日本刀を手に取った。想像以上に軽くて、なおかつ切れ味が鋭そうだ……これはいい! ロマン満載の流れに心が高まる。





「よし、そんじゃ行くぜ! モンスター狩りだ! 」





 志気が高まり、チームが臨戦態勢を整えることができて、ひとまずボクは安心したが内心不安で胸が押しつぶされそうになっていた。





 なぜなら、さっきボクが皆に説明した事柄は、全てが憶測の"ハッタリ"に過ぎないのだから……





 モンスター達は単に様子を伺っているだけで、本当は鋭敏な動きが出来るかもしれないし、飛び道具だって持っているかもしれない。能力者本体が必ずしも近くにいるとも限らないし、れ~みんマウスの差し金である可能性だって十分ある……





 でも、ここはそんなコトを皆に考えさせず、ポジティブな空気を作るコトが先決だとボクは思ったので、あえてそういう情報は出さないコトにした。





 地下空間の暗くて閉鎖された状況では、人間の感じるストレスは倍増するって話を何かの本に書いてあった気がする。さらにはおぞましいルックスのモンスター達が突然現れて仲間をやられてしまったコトにより、ボク達は必要以上に恐怖感を煽られて平静さを失っていたのだ……





 窮地に立たされた時も、冷静になって周囲を見渡せば、状況は案外そうでもなかったりするのかもしれない……





 生きていた頃、執拗にボクを責め遊んでいた上流(うえる)も……今思えば、自分と同じ"ただの人間"だ……そう思えば…………





 ……駄目だ! それ以上は考えるな! 今大事なコトはただ一つ! 目の前の敵と立ち向かうコト!! 





 ただそれだけなんだ!! 





■■【現在の死に残り人数 22人】■■




■■■自殺ランブルの能力紹介13■■■


【能力名】飢獣夢喰らい(ハンガーズ)

【能力者】???

【概要】

 自ら食事を絶って飢死した者に与えられる能力。土で作られた飢獣(モンスター)を作り出すことが出来る。

 飢獣(モンスター)は参戦者を見つけ次第、無差別に襲いかかって噛みつき、生気を吸い取って衰弱させてしまう。

 作り出せるゾンビは、使用者の半径100mの範囲に15体のみと限られるが、Lvに応じて範囲は半径100mずつ広がり、作成数も15体ずつ増えていく。




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