第八話 「ファイヤーガール!! 」

■■■自殺ランブルのルールその8■■■


 自殺ランブルの参戦者は、生前に気力体力共に全盛だった頃の肉体をベースにした"霊体"の状態で戦うことになる。 霊体は戦いで傷付いて痛みも感じるが、疲労や空腹、そして睡魔におそわれることは無い。排泄も同様である。




■■■第八話 「ファイヤーガール!! 」■■■




「ねぇキミィ☆数ある自殺の中で、最も苦しい死に方が何か分かるかい? 」




 高さ70mはあろう高さのジェットコースターのレール上で、一人のランブル参戦者に、れ~みんマウスは問いかける。





「う……うぅ……」





「答えられないみたいだから、教えて上げよう☆ それは"焼身自殺"だって言われているねぇ♪ 対してキミの"首吊り自殺"は、もっとも苦痛が少ない方法なんだってね」





 参戦者の男は、レール上にうつ伏せに倒れ、ギロチン台に固定されるように、首から上だけを宙にはみ出させている。れ~みんマウスはその背中の上に踏み乗っていた。





「こんな話があるんだ☆ とある人間が深さが5mはある穴の中に飛び込んで焼身自殺をしてみたんだって♪ 逃げ場のない場所でやれば、失敗もしないし、周りに迷惑もかけないと思ったんだろうね☆ でもね……ビックリする出来事が起きたんだ♪ 何だったと思う? 」





「……わかりません……」と、男は苦痛に耐えながら返答する。





「少しは考えてね☆ 答えは、焼身自殺した人間が発見されたのが、穴の外……つまり地上だったってコト♪ 体を焼かれる苦痛に耐えかね、本能的に何とか助かろうとして5mもの穴をよじ登ったんだよ☆ 凄いヨねぇ! まさしく火事場の馬鹿力ってワケ♪ それだけ苦しいんだよ、焼身自殺は」





 そしてれ~みんマウスが指でパチン! と高らかな音を鳴らすと、何もない空中に光り輝く長方形が現れ、そこにテレビのように映像が映し出される。





「そして、【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】は、その死因で苦しめば苦しむほど、強い能力を得るんだ☆ ラクしちゃ簡単に逝けないってコトね♪ 」





「……ま………まさか!? なんで? なんで"アイツ"が! 」





 男はその映像を目の当たりにし、体を震わせ、大量の汗を全身ににじませた。





「そういえばキミも、前回のランブルで彼女のコトを知ってるんだっけ☆ 」





「嘘だ……前回の自殺ランブルは、"アイツ"が優勝したんじゃなかったのか!? ありえない……! だって……アイツより強いヤツなんて……そんな……そんな……」





 その映像は、本草凛花(ほんぞうりんか)が【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】を使い、上戸萌(うえともえ)を焼き尽くしている瞬間を映し出していた。





「あ……あ…………ぁッ」





 男は歯を震わせてカチカチと音を立て、過呼吸を起こしたかと思ったら、そのまま体を光の球体に変化させて上空へと昇っていった。





「……うわぁ☆ まさか凛花ちゃんを見たショックだけでリタイアするなんて……♪ "反則"をしたキミにじっくり"ペナルティ"を与えてあげようと思ったのになァ☆ 残念だねェ……」





 男の敗退をコミカルな仕草をしながら悔やんだ、れ~みんマウスは、そのままレール上に座り込み、映像に映る本草凛花の姿をうっとり眺める。





「凛花ちゃん☆ 今回も楽しませてもらうね♪ 」









 ボク達の目の前にいるセーラー服の少女は、どうやら【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】を利用して空から降り立ち、水の能力のお姉さんを一瞬にして焼き尽くして敗退させたみたいだ。





 全身の水分が沸騰するかのような熱気……推測するに、あの子は多分"焼身自殺"をしたのだろう。全身に炎を纏って攻撃する。シンプルだけど恐ろしい能力……ボクが自ら命を絶とうと考えた時、"絶対にしたくない"と思った焼身自殺を、彼女は選択した。それだけで、目の前にいる女の子が、どれだけの不幸を背負っているかが垣間見えた。





「……舞台! 」





 ボクの隣にいる仲間の須藤大葉(すどうおおば)さんが、ささやくような、でも力強い口調で、ボクに耳打ちをする。





「今すぐお前の能力で、体が吹っ飛ぶ紋章を作ってくれ! 逃げるぞ! 」




 元プロレスラーであり、百戦錬磨なマッスルボディを持ち合わせ、なおかつ全てを溶かしつくす"毒液"の【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】を持ち合わせた須藤さんでさえ、彼女を目の前にしたら不良に絡まれた小学生のように震えてしまっている。





 前回のランブルで須藤さんを倒したという、あの女の子。その冷徹な表情からは、単純な"強さ"だけでなく、全てを畏怖させる"凶悪"さも持ち合わせているように見えた。





「早くしてくれ! アイツには俺たちじゃ"絶対に敵わない"! 」

「分かりました! 」





 須藤さんに言われるがまま、地面に両手で二つの紋章を作り、それによる上昇風に乗ってボク達は遙か上空へと避難した。





 上方に掴まるモノはあるか? という考えは後回しにした咄嗟の行動だった。それほどに須藤さんが焦りの表情を作っていたからだ。





「逃げないで」





 え!? 





 空高く舞い上がり、セーラー服の女の子から逃走を図ったつもりだった……なのに、どうしてだ!? 





 その女の子が目の前にいる?! 





「嘘だろ!? 」

「そんな! 」





 女の子は、両足から飛行機のジェットのように炎を噴き出して飛翔していた。なんてこった! この娘は空を飛べるのか!! 





 空中で為すすべもなくなり、万事休す。目の前には両手でボールを掴むような構えを取り、骨まで溶けるかと思わせる高熱の火球を作り上げている! 





 まつげが焦げ、もはやこれまでか!? と思いかけた瞬間だった。





「うぐっ! 」

「うげぇッ! 」





 お腹を思いっきり圧迫される感覚があったと思ったら、そのまま目の前の景色が遠ざかり、気がついたら"どこか"の足場に降り立っていた。





「おめえら、でえじょうぶけ? 」





 訛った口調でボクたちに話しかける声。少し落ち着いて、あたりを見渡すとボク達は"観覧車のゴンドラ"の上に座っていることに気がついた。





「アイツを倒すにゃ、みんなで手ェ合わせんと駄目ズラ」





 その訛った声の持ち主は、茶色系統の服装に身をまとった、20代くらいの女性だった。その頭部からは2本のロープ状に編み込まれた髪の毛がうねっている。これはボクと同盟を組んだ瞬間に敗退してしまった、甲州蛍(こうしゅう ケイ)さんと同じ能力だ。彼女はこのゴンドラ上から髪を伸ばしてボクたちをここに引き寄せてくれたのだ。





「……助かった。でも俺達だけじゃまだ足りないぜ、あのメラメラセーラー服を倒すには」





「わぁってる(分かってる)」





 その須藤さんの心配通り、女の子は全く臆することなく、空を駆ってこちらに向かって来た! 





「来ますよ! 」

「やばいぞ! 」





「でえじょうぶだ! 」





 一体何が大丈夫なのか? 焦るボクらを制止するように、訛り女性は毅然とした態度を崩していない。その姿はまるで何十年もの人生を歩んでいるような貫禄があった。





 ゴスッッ! ズドォォォォオオオオン!! 





 そして、その貫禄通り、確かにボク達は本当に"大丈夫"だった。





「何だ!! 何が起きた? 」





 須藤さんですら分からなかった、一瞬の出来事だ。こっちに迫ってきていたハズの女の子が、突然目の前から姿を消したかと思えば、遅れて下の方からけたたましい轟音が鳴り響いた。





 ゴンドラから身を乗り出して見下ろすと、そこには地面に四つん這いになっている女の子を、3・4・5……10人もの参戦者が取り囲んでいる! 





「おめえらも一緒に来いし! 」





 訛り女性はそう言い残し、髪のロープを観覧車の鉄骨に絡ませて地上へと降り去った。





「メラメラセーラー服を倒す為に、討伐チームを作ったってコトか……」





 一難去ったものの、須藤さんはまだまだあの子への恐れを振り払ってはいないようだ……





「あの女の子……強いのは分かりますが……さすがにあの人数に囲まれ

てちゃ勝てないんじゃないんですか? 何が起きたかは分かりませんが、地上に叩きつけられて深手を負ったようにも見えましたし」





「バカヤロウ……アイツの怖さを知らねぇからそんなコトを言えるんだ! 」





 こっちが怯える程に険しい表情を作った須藤さんは、ピョンとジャンプして下隣にある別のゴンドラへと飛び移った。





「このまま逃げるぞ舞台……急げ! 」





「逃げるって? 下の戦いには加わらないんですか? 」





「クソバカ野郎! ダメなんだよアレじゃ! 」





「ダメ……?」





「アイツを倒すには、10人やちょっとじゃ全然足りねえんだよ! 」









 本草凛花(ほんぞうりんか)を取り囲む集団は、性別も能力もバラバラだったが、たった一つの"共通点"を元に結託していたチームだ。





「今の内だ! 全員畳みかけちまえぇぇぇぇ! 」





 リーダー格と思われる恰幅(かっぷく)のいい男性の呼びかけと共に、その集団は次々と本草に襲いかかる。





 さきほどの訛りの強い女性を含めた【グリーンにこんがらがって(タングルドアップイングリーン)】を持つ二人の能力者が、髪のロープで凛花の両手両足を束縛し、体の自由を奪い、さらに他の二人が【銀白のけむり(シルバーヘイズ)】によるガス攻撃で彼女を苦しめ、動きを止める。





「いいぞ! 次だ! やっちまえ! 」





 さらに残りの3人による【ポセイドンのいかり(アンガー・オブ・ポセイドン)】の能力で、凛花の体を巨大な水球で包み込んでしまった! 





「よぉぉぉぉッし! 仕上げだ! やっちまうぞコノ! 」





 リーダーの男「郡山藤次(こおりやまとうじ)」は、凛花を追いつめたことにより興奮しつつ、その能力を発動させる! 





「おりゃあっ! 」





 郡山(こおりやま)が勢いよく左足で地面を踏みつけると、上空より"氷""で作られた"棺桶"が降り立つ。そのフタがパッカリ開くと、中から吹雪のような冷たい風が放出された! 





「いいぞいいぞ! このまま凍っちまえ!! 」





 棺桶の冷気により、凛花はまとわりついた水球ごと凍り付き、身動きがとれなくなってしまった。





「よおっし! このまま窒息やら低体温やらで意識を飛ばせば、お前の負けだ! 前回の借りを返しちゃったぞバカヤロー! 」





 この「討伐チーム」は、全員がもれなく前回の自殺ランブルにて、本草凛花の能力により焼かれてリタイアしてしまった再戦組だった。彼らは、今回も彼女が参戦していると知ると、その反則的な強さの宿敵を倒すべく結託した……つまり、メンバー全員がLv2以上の能力者、もしくは、多能力者(ハイブリッド)という精鋭集団なのだ。





「この戦いは、お前がいなくなって初めて"平等"になるんだよォ! 凍れ! 凍れ! 」





 凛花が氷柱になった後も、しつこく冷気を放射し続ける郡山だったが、その必死さをあざ笑うように、氷の中で彼女は不敵な笑みを浮かべた。





『それで終わり? 』





 声は聞こえなかった、だが確かに凛花は口の動きでそう言った。そして討伐チームがそれに気が付いた時は、すでに何もかもが遅かった。





 バガジュウゥッッッッ!!!! 





「ウワぁッ!!?  」

「なん!? (何!? )」





 凛花を包んでいた巨大な氷は轟音を響かせながら八方に飛び散り、無数の"つぶて"となって討伐チーム全員を襲う。一つ一つが岩のような重みの氷が頭部を直撃し、ロープの能力者が一人、水の能力者が一人、光となって敗退してしまった。





「おいおいおいおい! 何でだ……!? 作戦は完璧だったのに? 」

「なんちゅうボコ(子供)ズラ! 」





 目が飛び出してしまうかと思うほどに驚きを隠せない郡山。彼はそれほどに、この作戦に自信を持っていた。





 嘘だろ……アイツが他の参戦者と戦っている最中の隙をうかがって、地上からロープの能力で引っ張り地上に叩きつけて、そのまま拘束・蹂躙・冷凍って流れでイケると思っちゃったのによォ……! 





 プランをしくじった郡山の慌てる姿は不安となってメンバーに

伝染し、チームの結束が糸のように脆く危ういものと化す。





「……それじゃ、今度はこっちからお返し……みんな"死ぬ気"で掛かってきて……! 」





 凛花の両手から炎が吹き上がり、空気が熱され、景色が歪む。





 ファイヤーガールの真の恐ろしさは、ここからだ。





■■【現在の死に残り人数 34人】■■




■■■自殺ランブルの能力紹介7■■■


【能力名】冷気骨凍氷結箱 (フリージングクライム)Freezing crime

【能力者】郡山 藤次(こおりやま とうじ)[27歳]


 自ら凍える場所に身を置き、自殺した者に与えられる能力。"右足"で地面を踏みつけるコトにより、自分を中心とした半径3m以内の相手に向けて、上空から氷の棺を落として攻撃する。

 さらに"左足"で地面を踏みつけるコトで、地面から冷気を放出する氷の棺を作り出すコトが出来る。能力者本人がその中に入って敵からの攻撃を防ぐシェルターとして使うことも可能。

 "右足の棺"と"左足の棺"はそれぞれ同時に1個までしか作り出すコトが出来ないが、Lvの上昇により、2個・3個と増え、攻撃範囲も広がる。

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