第七話 「ツープラトン!! 」
■■■自殺ランブルのルールその7■■■
【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】には、説明書に書かれた能力以外に、特別な方法で発生させることの出来る"裏技"が存在する。
■■■第七話 「ツープラトン!! 」■■■
「……これでいい! これでいいのだ! 上戸さん、アンタと組んで勝ち残ったとしても……いずれ! いずれはお互いにつぶし合わなきゃならない! そう! そうだ、ちょっと順番が変わっただけだ! 」
自らの行いを独り言で肯定しつつ、穂村は時計台の残骸に近づき、須藤達の"生存"もとい"死存"を確認しようとする。
「これだけ激しい破壊に巻き込まれていれば、たとえ死に残っていたとしても虫の息だろう。俺は左手だけでもこんなにも凄いコトを成し遂げられるんだ! 生きてる時はロクなもんじゃなかったが、ここでは最強なんだ! 」
穂村は、自身の能力で崩壊させた時計台の残骸の一部を、残った左手でそれとなく拾い上げ、得意な気分に浸ろうとした。しかしその時……
「イギュアアアアッッッッ!!!! 」
園内中に響き渡るかと思うほどの悲鳴を上げる穂村! 彼の左手は、右腕同様、グロテスクな泡立ちと共に溶かされてしまっていた!
「最強だって? それは両腕が無くなっても言えるセリフか? 」
瓦礫の山から筋肉質の腕が伸びている。その腕が穂村の左手を握りしめ、溶かし消してしまったのだ。
「ヌゥゥゥゥッッッッッッッシ!!!! 」
時計台を構成していたアスファルトの破片を吹き飛ばしながら姿を見せたのは、ケガ一つなく健在な姿を見せた須藤と清水の姿だった!
「おおおおお前ら! なんで? なんで!? 」
「舞台のおかげだ。コイツの"風"の能力が救ってくれた」
須藤と清水がどうして無傷で生還出来たのか? その背景には、清水の"ひらめき"と"賭け"があったのだ。
時計台が傾き、建物が崩壊して体が宙に浮くような錯覚を味わいながら、清水は思った。
ボクの【吹けよ風、呼べよ痛み(ワン・オブ・ディーズタイムス)】に、自分達を"守る"ような能力があれば……
ボクの【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】は風を起こす紋章を物質に配置できる……それは、コンクリートの地面でも、自分の靴にでも可能だったけど、ここまでの戦いでふと気になったコトが一つあった。
それは、"液体"に紋章を配置するコトはできるのか? という疑問。そして、さらに言えば"両手"を合わせて"右手"と"左手"の紋章を"同時"に発動したらどうなるのだろう?
両手のひらは「水のお姉さん」との戦いでびしょびしょに濡れている。そして今、この時計台が崩れかけようとしている緊急事態だ。その疑問に対する実験を、今試さないワケにはいかない。
「パアアアアンッ!! 」
ボクは両手を"合掌"させ、手のひらの間にうっすらと膜を張る"水"に、"右手"と"左手"両方の紋章を配置させる。イチかバチかの賭けだったけど、合わさった手のひらから漏れる光の筋が、紋章作成の成功を示していた。そして……そこから導き出された結果は、自分の想像を越える事象を引き起こした!
「ビシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!! 」
合わせた手のひらを中心に、風圧で作られた球体が広がってボクと須藤さん、さらに水のお姉さんをもを包み込み、落下の衝撃、降り注ぐ瓦礫片からの脅威から完全に保護(プロテクト)してくれたのだ!
どういう原理でこのような現象を引き起こしてくれたかは分からなかったけど、それはまさしく強固な風の盾(シールド)だった!!
「そんな! そんな! ウソだこんなの! 」
両腕を失い、為すすべが無くなった穂村は、高速移動の能力で足を滑らせ、逃走を図る!
「須藤さん! 」
「おう! 」
清水が壁のように地面に突き刺さった、大きな時計台の破片に、両手で二つの紋章を作り上げる。それを見た須藤は一瞬でその意図を理解した!
「「ズギュォオオオオオオオオオオオッ!!!! 」」
"地面"ではなく、"壁"に設置された紋章にジャンプキックを当てた2人は、そこから発生された烈風に乗り、大砲で真横に発射されたかのような勢いで、穂村に向かって行く!
「ヌウウウウウウウッッシ!!」
「うおおおおぉぉぉぉッ!!」
風に乗った清水と須藤は、難なく穂村のスピードに追いつき、そのままの勢いで彼の後頭部に向けて前腕を振り抜いた! 合体(ツープラトン)のラリアットだ!
「フゲェッ! 」
2人の協力技をモロに喰らった穂村は、前方に一回転しながら地面に叩きつけられた。
「立て、このタマ無しヘッポコ野郎……! 」
地面に張り付けられた穂村は、須藤に言われた通り、震えた足でゆっくり立ち上がって彼と顔を合わせる。しかし、額にマンガのような青筋を立たせている鬼の形相に圧倒され、思わず「ひいっ! 」と情けない声を上げてしまう。
「あの女……お前の仲間なんだろ? 」
「は、はいッ! 」
「お前は、タッグパートナーごと俺らを潰そうとしたってことだよな? 」
「し……仕方ないだろ? 俺は……俺はどんなコトしてでも死ななきゃならないんだ! 家族に愛人の存在がバレちまってるし、横領した金だってとんでもない額だし!! お前なんかにこの苦しみが分かるかってんだ! 」
「ああ……分からねぇな……家族を持ちながらそんなバカなコトやらかしてるお前の気持ちなんかな! 」
須藤は次の瞬間、大きく息を吸い込んだと思いきや、突然口からスプレーのように紫色の液体を吹き出し、穂村の顔面にソレを浴びせ掛けた!
「グウゥゥワアアアアッ!!!! 」
顔から異臭を放つ蒸気を発しながら絶叫する穂村。彼が顔面に浴びたのは紛れもなく、須藤の毒液だ! 彼は上戸との戦闘中に、自身の毒を口に含んで吹き出す"毒霧殺法"のヒントを得て、実行したのだ!
「地上に打ち上げてやる! 」
間髪入れず、清水が穂村の足下に"右手"の紋章を作り、風圧で上空へと強制射出させた!
「ウワアアァァァァァァァァッッ……………… 」
穂村は上昇中にそのまま光と化し、逆さまの都市が浮かぶ大空へと消えていった。
「やりましたね……須藤さん」
「ああ……手強いヤツだった。理由はどうあれ、アイツには意地でも死んでやるって気迫に満ちたヤツだった……そうでなければ、勝ち残れない」
そう言いながら、どこか憂いの込もった須藤の横顔を見て、清水はさっきまでのやり取りを思い出す。
なぜだろう? 須藤さん、あの突進男が"家族"と口走った瞬間に、感情が大きく揺さぶられてしまっていたように見えた。こんなにも強くて、頼りがいのある人が、一体何で自殺なんか……
「う……うう……」
敵を倒した感慨にふけっていた2人だったが、背後より聞こえた女性の声に気がつき、素早く振り返った。
「痛たたたた……」
そこには瓦礫の中からゆっくりと這い出る上戸萌の姿があった。全身埃まみれになってはいるが、大きなケガはなさそうだ。
「大丈夫か? 」
須藤が若干の距離を置きながら、上戸に心配の声をかける。それに対して彼女は一瞬怯えた表情を作るも、すぐに警戒して眉間にシワを寄せた。
「おいおい! 待てよ、俺たちは今すぐアンタを負かそうってワケじゃねえんだ! 」
「じゃ……私をどうするつもりなの? 」
須藤は、チラリと清水の方へと視線を送った。
なるほど……清水はそのアイコンタクトの意図を理解した。
「ボク達と、最後の三人になるまで手を組みませんか? 」
「そう、アンタの水の能力があれば、他の参戦者だって軽々ひねりつぶせるぜ」
地べたに座り込んだままの上戸に対し、清水が優しく右手を差し出した。
「私と……一緒に? 」
上戸は思いもしなかった彼らの同盟への誘いに、表情を緩める。そしてほんの少しだけ口角を上げて心を開いてくれたのかとと思いきや……
「ズブリュゥゥゥゥッ!! 」
清水も須藤も、突如見せつけられた彼女の行動にあっけにとられてしまった。
「なっ……!? 」
「何をしてんだオメェェッ!!? 」
その行為は、まさに"狂気"に満ちていた。上戸はどういうワケか【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】で水のカッターを作りだし……それをあろうことか、"自分の両足"に向けて発射させたのだ!
「ハハ……痛い……メチャクチャ痛いわ……でも、おかげで冷静さを取り戻せた……」
大腿部からバッサリと切り落とした先からは、小川のように次々と血液が流れだしている。しかし、そんな目眩がするような状況に反し、上戸は肩を震わせながら高らかに笑い出した。
「ハハーハッハッハッァァ!! もう! もう騙されない! もう男に利用されたりするもんか! 分かってるのよ! どうせアンタ達も穂村と同じで、甘い言葉でたぶらかして用済みになったら捨てちまうんでしょ! 味のなくなったガムみたいに!!!! 」
「ちょ! ちょっと待ってくださいよ! ボクたちはそんなつもりで……」
「だまれぇぇぇぇ!! 男なんてもうコリゴリよ! なんで死んだ後にまでこんな目に遭わなきゃならないの!? 男なんて! 男なんて! 男なんて! 男なんて! 男なんて! 男なんてぇぇぇぇ!!!! 」
上戸は怨念の込もった怒声をあげつつ、自ら切り落とした両足をの切断面同士と足裏をくっつけ合わせ、大きな[△:三角]の形を作りあげた! それを意味することがなんなのか? 須藤は一瞬で理解し、そして顔を青ざめさせた!
「舞台! 伏せろォォォォ!! 」
一瞬。ほんの0.5秒ほど、須藤の忠告がなければ清水はこの戦いを敗退していただろう……胴体と下半身をまっぷたつに"分断"されて!
「ズゴゴォォォォォォォォォォォォンン!! 」
地面を舐めるようにして体を這いつくばらせた清水と須藤の後方で、園内のアトラクションが崩壊する音が聞こえた。
上戸の能力、【ポセイドンのいかり (アンガー・オブ・ポセイドン)】は、体で作り上げる図形に息を吹きかけることで、様々な攻撃を行うことが出来るトリッキーなスキル。そして、その攻撃力は作り上げた図形の大きさに比例して無尽蔵に高まるのだ!
「ハァァァァァァッハッハッハッ!! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 私の目に映る男はみんな死ね! 私が殺してやる! 男は皆殺しよ! MAN(マン)殺(さつ)よぉぉぉぉ!!!!」
「あぶなかった……」
「なんつー威力だ! チクショウ! 」
この戦いの参加者は、もれなく全員死んでいるというコトを忘れるほどに怒り狂っている上戸。そして彼女の両足三角形から放たれた水のカッターは、大きさ、威力共に、今までのモノとは段違いのスケールだった!
直径5mはありそうな水の円盤が高速で通り過ぎる様を見た舞台は、『まるでUFOだ……見たことないけど……』と心の中でその巨大さを形容した。
「次は外さないからねェェェェ!! うひょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
暴走状態の上戸は、奇声を上げながら大きく息を吸い込み、体内に水をたっぷり蓄え、次なる攻撃の発射準備を整える!
「舞台! お前は上から攻めろ! 俺が何とかアイツの動きを止める! 」
「けど、須藤さん! 」
「早くしろォ! 」
上戸の覚醒に混乱を隠せない須藤・清水チーム。
くそう! と清水は須藤の言われるがまま、地面に紋章を作って飛び上がろうと試みた……が、しかし!
え?
その時地面に映る、妙な"影"を見つけたことで、その行為は中断されてしまった!
影が……どんどん大きく? これは、つまり……
"何か" が "上" から "降って" 来ている?
「ヴィエエエエエエエエエエエエッッ!!!! 」
野生動物の断末魔かと錯覚するほどの、聞くに耐えない大音量の悲鳴が上がった。
一体何が起きた? 清水達が改めて意識を上戸がいた方へと向けると、まず鼻先に焦げるような熱さの"熱"を感じ取り、周りの空気が眼球を蒸発させるかと思うほどの高温で歪んでいるコトに気がついた。
目の前には、炎に包まれて真っ黒に縮んだ"上戸"だった人型のモノ。その傍らには、全身に炎を纏ったセーラー服の少女が、ぼんやりと立ち尽くしている。
「まさか……ウソだろ? 何で!? 」
ボイラールームに閉じこめられたかのような熱気をこらえながら、須藤は目の前の少女の姿に驚きを隠せなかった……!
「須藤さん! 知っているんですか? 」
清水の問いかけに対し、須藤は今までの豪快な雰囲気がウソだったかのような、怯えた表情を作る。
「ああ……知ってるぜ……忘れるワケないぜ……」
セーラー服の少女は、光になって大空へと吸い込まれた上戸を見送ると、体に纏った紅蓮の炎とは裏腹な、マネキンのように冷え切った視線を2人に送った。
「俺は前回……アイツにやられたんだよ」
■■【現在の死に残り人数 37人】■■
■■■自殺ランブルの能力紹介6■■■
【裏技名】風の寝台 (ベッド・オブ・ウィンズ)
【能力者】清水舞台[15歳]
【概要】
吹けよ風、呼べよ痛み (ワン・オブ・ディーズタイムス)の能力に隠された"裏技"。自分の周囲に強烈な風の球体バリアーを張り巡らせ、様々な攻撃を防ぐことが出来る。その発動方法は、両手が液体によって濡れている状態で"合掌"し、右手と左手の紋章を同時発動させるコトで可能となる。
裏表の無い液体に、相手と自分に反応する紋章の力が合わさるコトによる"矛盾"が、この裏技を引き起こすトリガーとなっている。
ちなみに、この技を発動中は、風圧によってバリアー内にいる者を若干浮かせることが出来るので、高所からの着地の際に使うことで無傷で地上に降り立てることが出来る。
【能力名】あなたをここで燃やしたい (ウィッシュユー・ワー・バーン)
【能力者】本草 凛花(ほんぞう りんか) (セーラー服の少女)[15歳]
【概要】
焼身自殺をした者に与えられる能力。この能力は、数ある特殊能力(スーサイダーズコマンドー)の中でも"最強"だと言われていれているが……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます