第17話 久しぶりのデート(2)

 そして日曜日。今日は久しぶりに拓也と逢う日だ。

 これまでは期待よりも不安の方が大きくて心から楽しめなかったけど、今日はミルのアドバイスのおかげですっきりした気持ちで出かけることが出来る。


 待ち合わせ場所である駅前に着いたのは約束時間の10分前。

 見ると既に拓也が辺りを気にしながら立っていた。


「ごめん。待った……?」


 小走りで近づいていくと、拓也の隣に女の子がいるのに気付いた。

 女の子は嬉しそうな表情でしきりに拓也に話しかけているが、拓也は面倒くさそうにしている。

 オレがびっくりして立ち止まっていると、拓也はオレに気付いて手を振る。


 何か嫌な予感がして動けないでいるところに拓也が近付いてきたが、女の子もその後ろを付いてくる。


「純、久しぶりだな」


 穏やかな微笑みを浮かべている拓也の横で、こちらに睨み付けるような視線を向ける女の子。

 オレがその子を見ていると拓也はため息をついた。


「こいつはクラスメイトの藤崎」


 紹介された彼女は、オレよりちょっと小柄だけど特徴的なキリッとした目で相変わらずオレを睨んだまま、拓也の左手に絡みついた。

 オレは呆気にとられていたが、とりあえず自己紹介しないといけないだろう。


「わたしは……」

「藤堂さんでしょ。藤堂純さん」

「はい?」


 何でオレのこと知ってるんだ?

 今のオレが知らないってことは、過去のオレとのつながりがあるということか。

 しかも、オレを睨みつけているこの表情や拓也に絡みついている状況を考えると答えは一つ。


「拓也に近づかないで!」


 やっぱり……。

 オレが唖然としていると藤崎さんはさらに続ける。


「あなたは前に拓也を振ったんでしょ! 何でまた今さら……」

「おい、藤崎やめろよ」


 拓也が絡んでいた藤崎さんの腕を外しながら言う。


「俺と純は付き合っているわけじゃない。ただの友達だ」

「嘘よ! 友達だっていうならそんなに嬉しそうな顔するわけないじゃない!」


 目に涙を溜めて言い募る藤崎さんは、必死になって拓也に振り向いてもらおうとしている。

 オレにもこの子は本当に拓也のことが好きなんだってことがはっきりと伝わってくる。

 どうしたらいい? オレは拓也のことが好きだけど、まだ女の子の気持ちになっていない。もしかしたら、この子の方が拓也にはふさわしいのかもしれない。

 自分のことが分からすにオロオロしていると、


「俺は純が好きだ」


 拓也がはっきりとした声で言う。

 その強い意志のこもった声にオレはびくっとした。


「俺が振られたのは事実だ。けどやっぱり純が好きなんだ」


 そう言って顔を赤らめた拓也の笑顔を見たとき、オレの心の中にミルの言葉が響いてきた。


(好きなものを好きと言って何か問題ありますか?)


 そうだ。好きなものは好きって言っていいんだ。女の子の気持ちになっていないかどうかなんて関係ない。今のこの気持ちを伝えるんだ。


「わ、わたしも拓也が好き!」

「なっ!?」


 驚きの表情を浮かべる藤崎さん。そしてその横には目を見開いている拓也。


「拓也が、拓也が好き! だから……藤崎さんには渡さない!」


 体中の血液が顔に集まってきているのが分かる。でも心の中で溢れてくる想いを吐き出すことだけしか今は出来なかった。


「今まではただ不安だった。もしかしたら拓也に迷惑を掛けてるんじゃないか、本当に好きなのかって……でも、今はっきり分かった。拓也と一緒にいたい」


 頬を伝う涙に気付いて自分でもびっくりする。オレは泣いてるのか……。

 恥ずかしくて下を向いているオレの肩に何かが触れるのを感じた。

 それは拓也の手だった。


「ありがとう、純」

「拓也……」


 自分がこの世界で女の子としてどんな風に生きてきたのか、拓也とどうやって出逢ったのかは知らない。

 でも今は……これからは、自分で決めることが出来る。

 拓也の照れたような優しい笑顔を見ていると自分が元男だとか、モブだとかどうでもよくなってくる。


「うう……拓也あ……」


 藤崎さんは涙目でオレたち二人を見て呆然としていた。


 結局、藤崎さんが往来の中大泣きしてしまったので、オレたちは彼女を途中まで送ることにした。

 駅までたどり着くと藤崎さんはオレをキッと睨んで「拓也を泣かしたら許さないから!」と言い残して駅に入っていった。

 拓也は困惑した表情で藤崎さんを見送っていた。


「ごめんな、アイツとは待ち合わせの場所でバッタリ逢っちまってさ」

「ううん。いいの……」


 身体が熱い。拓也のことが好きだと自覚してから身体が熱を発しているようで何だかフラフラする。


「純、大丈夫か。具合悪そうだぞ」

「えっ……大丈夫」


 具合が悪い訳ではない。さっきからオレの中である変化が起きていたのだ。

 それは、オレが知らないはずだったこの世界でのオレの過去がフラッシュバックのように次々と現れていたからだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る