第16話 久しぶりのデート(1)

 何はともあれ、ミルの身体を張った(?)作戦が功を奏しているようで、オレたちは女子からは面白い姉妹、男子からは美人だけど変わり者という立場に落ち着いている。

 見た目がこれだから美人過ぎて誰も近寄らなくなるのでは、という不安もなくなり、最近は学校に行くのが楽しみになっている。


 そうなると、気になるのは拓也との関係だ。


 拓也と別の高校に通うようになってからはほぼ毎日メールでやりとりをしている。

 学校での生活のこと、友だちの話、それから……たまに、拓也から電話が来ることもある。

 今もお風呂上りに部屋でのんびりしているところに電話が掛かってきたところだ。


『純、今度の日曜日に逢えないか?』


 電話越しに聴こえる拓也の声。

 今やクラス中に知られている彼氏としての存在。なのでこれまで以上に緊張する。


『うん、いいよ』

『そうか、ありがとう』

『ううん、こちらこそ』

『……』

『……』


 二人とも無言になってしまう。

 でもオレには拓也の気持ちが十分伝わってくるので、この静かな時間も心地よく思える。

『それじゃあね』と電話を切ってからベッドで仰向けになって考える。


 今のオレは多分、拓也を好きなんだと思う。

 でも拓也はオレが元男だということを知らない。

 正確に言えば、今の拓也の記憶の中にあるオレは今のオレと違っているかもしれないのだ。

 もしかしたらオレは拓也を騙しているのでは、と考えると、どうしていいか分からなくなってくる。


「純さん、お悩みですか?」

「うおっ!?」


 気が付くといつの間にかミルが部屋に入っていて、不思議そうにオレを見つめていた。


「い、いや別に……」


 視線をらして答えると、ミルはにやりと悪い顔をした。


「ははーん、拓也さんのことですね?」

「う……」


 す、するどい。何で分かったんだ?


「ふふ、何で分かったんだ、という顔をしてますね。それは簡単です」


 ドヤ顔をするミル。まさか……。


「先ほどの電話での会話を盗み聞きしたからです!」

「胸を張って言うことかよ!」


 最近のミルはちょっと暴走しているような気がする。まあ、でも結果的にミルのおかげでみんなと打ち解けることが出来たし、ありがたいことなんだけど。


「それで、何を悩んでいるんですか?」


 何でも言ってくださいとオレを凝視するミル。


「あの……オレ、本当に拓也が好きなのかな、って」

「?」

「ほら、オレは気持ちは男のままだし……こんなオレが拓也を好きになったら、拓也を騙しているんじゃないか、って……」


 話しているうちにだんだんと気持ちが落ち込んでいき、ひどい罪悪感にさいなまれる。


「いいんじゃないですか?」


 ミルが口を開いた。


「好きなものを好きと言って何か問題ありますか?」

「えっ……」

「純さんは考え過ぎだと思います。付き合っていくうちに好きになったのなら恋人になればいいし、そうじゃなければお付き合いを止めればいいんです」


 さすがにミルらしい、あまりにストレートな意見だった。


「でも……」

「今の純さんになってから、拓也さんの態度は変わりましたか?」

「それは……」


 前に不良に絡まれたとき、拓也に『まだ俺にも可能性があるってことだよな』って言われた気がする。それは、今でも好きだ、ということなんだろう。


「変わってないと思う……」

「では問題ありませんね。あとは純さんが拓也さんを好きかどうかです」

「うん……」

「でも、焦る必要はありません。逢って、いろんな話をして、楽しいと思えればいつの間にか恋人になれると思います」


 オレに慈愛に満ちた目を向けるミル。

 ああ、何だか今のミルは恋愛の神様のように見える。学校ではあんなに残念な言動を繰り返しているのに。

 オレが久々に感動していると、ミルの足元にバサッと何かが落ちてきた。


「あっ……」


 焦って拾おうとしたミルだったが、オレが先にそれを手に取った。

 それは『恋愛の達人~友達から恋人になるための10箇条~』というタイトルの本だった。


「……」

「……」

「ミルさん……」

「は、はい……」

「ありがとう」

「えっ!?」


 オレはにっこりと笑顔を浮かべて本をミルに返す。


「ミルのおかげですっきりしたよ。これからもよろしくね」


 心からの感謝の気持ちを伝えると何故かミルは顔を真っ赤にしていた。

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