第14話 ミルの魂胆
「ミル! 一体どういうつもりだ!?」
学校の帰り道、オレはミルに怒りながら問いただしていた。
自己紹介でミルが変な質問をしたおかげで、あれから興味を持ったクラスメイトに囲まれていろいろと根掘り葉掘り聞かれたのだ。
おかげでミルは明け透けで物怖じしない性格の妹、一方のオレはそんな妹に振り回される姉という立ち位置にされてしまった。
「ご、ごめんなさい」
オレの怒りが伝わったのか、ミルはしょんぼりとした。
うっ。そんなに悲しい顔をしなくても。
あまりにも落ち込んでいる表情を見せているので、こっちも少し言い過ぎたかなと反省する。
「い、いや、そんなに怒ってる訳じゃないんだけど」
慌ててフォローに走るオレ。
どうにも女の子の悲しい顔っていうのは苦手だ。
「ただ、どうしてあんなことしたのかな、って」
さっきまでの怒りはすでにどっかに吹っ飛んで行ってしまい、今は何とかミルを元気づけることだけを考えていた。
俯いて肩を震わせていたミルはキッと顔を上げる。
「やっちゃった♡ てへぺろ」
ブチッと自分の中の何かが切れる音がした。
そのときのオレの表情を見ていた数名の男子生徒が顔を青くして慌てふためいて走り去っていく。
「やっ・ちゃっ・た、じゃねーだろ!!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「実はあれはわたしの作戦です」
ミルはオレにデコピンされて真っ赤になった額を押さえつつ話し出す。
「作戦?」
「そうです。実は私も休みの間、一睡もすることなく考えていたんです」
そう言って、褒めて褒めてと期待を込めた表情で見つめてくる。
ていうか、一睡もしないで、なんて話を盛り過ぎだ。
なんせ休み中はほぼ毎日昼寝してただろうが。しかもリビングで、お腹出して。
そう思いながらミルをジト目で見ていると、オレの反応が期待どおりでなかったのか「ちぇっ」と呟いて続きを話し始める。
「それで思い出したんです。私が学生の頃にどういう風に行動していたのかを」
いつになく真剣な表情をしている。
「前にもお話しましたが、私は学生の頃はいわゆるモブ扱いだったのです、信じられないでしょうが」
「いや、今は当然だと思っているけど」
「えっ? こんなに美人な私が、ですよ?」
「うん」
「……」
「?」
「純さん、爆発してください」
「なんでだよ!?」
いきなり爆発しろって酷すぎるだろ。
まあ、それより話の続きを聞こうと、頬を膨らませて睨んでいるミルに先を話すように促す。
「それでですね、学生の頃の自分の行動を思い出してみると、とにかく周りの人とお話することが楽しくて仕方がなかったんです」
「ふーん」
「それで夢中でお話していると、そのうち何故か周りの人が苦笑いするようになって……」
「へえ……」
「いつの間にか、『ミルフィーユさんは面白いね』と言われるようになりました」
「はは……」
「どうしてなのか、分かりますか?」
それはさっきの自己紹介のときの発言を聞けば、誰でも気が付くと思うけど。
あれ、確かミルの考えた作戦とやらを聞くんじゃなかったっけ?
「うーん、きっと周りの空気が読めないから……じゃないかな」
オレが何気なく答えると、ミルはハッとした表情に変わる。
「そう、そうなんです。そのいわゆる『YKK』ってやつです!」
それを言うなら『KY』だろ……。しかもほとんど死語だし。
でもそれが作戦とどんな関係があるんだ?
「つまりですね、どうも私は周りの空気を読めないので会話する度に周りの人たちを混沌の世界へと連れて行ってしまうんです」
「あのさっきはオレだけがその世界に連れてかれたんですけど?」
オレのツッコミを華麗にスル―してミルは話を続ける。
「ですから、私がこのような特殊な能力を発揮し続ければ、いずれこんな美人な私でも『面白い人』と認識されて、姉である純さんも必然として同類のカテゴリーに入ることになります。これってモブへの近道じゃあないですか!」
さりげなく自慢を織り交ぜているが、ミルの言いたいことは分かった。
要は、『美人であるけど話してみると可笑しなことを言い出す変わり者』というレッテルを自ら貼られようとしているわけだ。
「でもそんなにうまくいくかなあ?」
オレは何となく不安になる。
確かに多少の変わり者程度であれば、友達から見放されてぼっちになる可能性は低いし、男子からは過剰にチヤホヤされないのかも知れない。
しかもミルが無理している訳でもないので、ミル自身に迷惑をかけることにならない。
ここはしばらくこのミルの作戦とやらを試してみてもいいかも。
「大丈夫ですよ。伊達に学生時代モブ扱いされていたわけではないのですから!」
えへんと胸を張るミル。しかしセリフの内容があまりにも悲しいものだった。
「分かった。とりあえずやってみよう」
まあ、しばらくはミルと行動を共にして、彼女が暴走しそうになったらフォローするつもりでいようと思った。
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