第11話 友達だよね……

 オレと拓也は今ミ○ドにいる。

 騒ぎを抜け出してどこか適当なところに入ろうと思ったら、ちょうど行こうと思っていた大型書店が近かったし、この店も同じ建物の中に入っているので都合がよかった。

 拓也はドーナツ4個とホットコーヒー、オレはさきほど喫茶店に寄っていたので軽めにドーナツ2個とオレンジジュースをチョイスした。

 休日に拓也と二人でこういう場所にいるというのは正直落ち着かない。

 オレはそれぞれが買ったドーナツを持って席に着いてから切り出した。


「さっきは助けてくれて……あ、ありがとう」


 言いながらぺこっと頭を下げる。

 う……恥ずかしいな……何かしゃべってくれないかな。

 と思っていると


「今日は、白だったな」


 ニヤニヤしながら拓也が微笑む。


「へっ?」


 な、何の話だ?


「何のこと?」

「いやあ、見事な回し蹴りだったぜ」


 その瞬間、顔がぶわっと熱を帯びたように感じた。


「ま、まさか……見えた?」


 あのとき咄嗟とっさのことだったので気付かなかったけど、み、見られてたんだ……。


「う、うう……」


 恥ずかしさのあまり涙目になってしまい、拓也を睨んでしまった。


「おいおい、別に俺が覗き込んだわけじゃないぞ」

「そうだけど……」


 くっそう、何て日だ!

 自分の恥ずかしい失態に落ち込んでいると拓也は真顔で話しかけてきた。


「まあ、それは冗談として。今日こうやってお前とデートできるなんてツイてるな、俺」

「で、デート!?」


 あの場所から慌てて逃げてきたから気が付かなかったけど、冷静に考えれば今の状況は完全に恋人同士のデートと思われても仕方ない。

 そういえば周りの視線が痛い。


「見てみて。美男美女のカップルよ」

「あの娘、可愛いわ~」

「彼氏もカッコいいからお似合いよね」

「俺、あの娘の持っているコップになりたい……」


 うーん。オレの周りにいる人の話って何かお約束があるのかな、と思うほど最後のセリフが残念だ。


「これってデートになるのかな?……」

「まあ俺はお前に振られたんだし、今さらだよな」


 そう言って寂しそうに笑う拓也。

 そんな顔されたら……。

 そ、そうだ。話題を変えよう!


「さっき思わず回し蹴りしちゃったけど、いつもあんなことしてるわけじゃないよ」

「そうか? それにしては綺麗に決まってたぞ」


 うう……何とかしてオレの過去の話に持っていかないと。


「だって、あんなところ今まで見たことなかったでしょ?」


 うん、遠回しに質問できたぞ。


「そうだなあ、でも前にお前と同じクラスにいたヤツから、結構いろんな話を聞いたことがあるなあ」


 おお、いいぞ、その調子。


「そんなことないと思うんだけど。例えばどんな話? 怒らないから聞かせて」


 オレは満面の笑顔を作ってみせる。


「例えば、クラスの女子が不良にからまれているときにお前が助けに入って相手をボコボコにしたとか」

「ええっ!?」


 さっきのようなことが前にもあったのか。


「それがあまりにも凄かったみたいで、助けられた女子もドン引きしてたらしいぞ。お前覚えてないのか?」

「そ、そうだったっけ……」


 体中から冷や汗がだくだくと流れているのが分かる。


「あと、クラスの催しを決めたりするときも、クラス委員でもないのに司会進行を買って出たり」

「あはは……」

「図書室にラノベだっけ、そんな本も置いてくれと先生に掛け合ったり」

「はは……」

「学校祭では自分でキーボード引きながらバンドやったり」

「……」


 聞くべきじゃなかった……。

 思い出しながら楽しそうに話す拓也を尻目に、どんどんテンションが下がっていく。

 男だったときより活躍してるやん、オレ。過去の自分に、少しは自重しろよ、と言いたい。


「……でも」


 不意に拓也の目が真剣味を帯びる。


「俺はそんなお前が頑張る姿がカッコよくて、いつも目で追ってた」

「!」

「確かにお前は何をやっても上手かったし、結果も出していた。クラスの中にはそんなお前を疎ましいと感じて避けてるヤツもいた」


 何となく分かる。前の世界でも……そうだったし。


「でも、そういうヤツらは本当のお前を知らないんだ」

「……」

「お前は一生懸命なだけ。そして周りの人のことを人一倍気遣っていたんだと思う」


 ヤバい、涙が出そうだ。


「だから、俺はお前が好きになったんだ」

「……」

「まあ、結果は振られたけどな。でも後悔はしていない」

「あ、ありがとう……」

「お前に告白したことがある他のヤツに聞いたけど、好きな人が出来なかったら友達になってやると言ってもらえたのは俺だけみたいだし」

「うん……」

「まだ可能性はあるってことでいいよな?」


 これまで見たことのない素直な笑顔を浮かべる拓也。

 オレはボッと湯気を立てているだろう顔を下に向けた。

 今の世界の拓也は、こんなにもオレのことを本当に分かってくれてるんだ。

 そう思うと、胸が急にドキドキしてきた。

 でもその気持ちを隠すようにオレは立ち上がって


「わ、分かってるんなら、これからもちゃんと友達付き合いを続けなさいよね!」


と叫んでしまい、


「またしてもツンデレ!?」


 拓也にまたも引かれてしまいました。

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