第9話 作戦会議
高校入学までの短い春休みに入ったオレは、現在ミルさんとお出かけしている最中である。
無事に中学を卒業したものの、これからの高校生活を送る上で、どうしたらモブになれるのかを話し合うためだ。
オレもしくはミルさんの部屋で話してもいいのだが、ノックもしないでいきなり入ってくる妹や「ね~、これいいでしょう。あんたたちに似合うわよ~」とえらく短いミニスカートやらキャミソールを抱えて闖入してくる母親を避けるためには外出せざるを得ない。
今日だって出かけようとすると
「えーっ、私を置いていくの?」
と涙目になりながらすがってくる妹や、
「これで可愛い服を買ってきなさい」
とお金を渡してくる母親をなだめすかすのに大変だった。
まあ、お金はちゃっかり頂いたけど。
てな訳で、今はミルさんと一緒に喫茶店にいる。
本当はマ○クやミ○ドの方がいいんだけど、どちらの店も入ろうとすると、
「おお、すげえ可愛い子! それも二人も!」
「何あれ、何かの撮影なの!?」
「め、女神様が降臨なされた・・・・」
「はいはい、見物料は5分で千円になります」
ついには店員さんの見世物商売にされてます。
若人が集まるちょっとしたオシャレな店に入るとこういった反応され、その上話し合う内容がちょっと人に聞かれてはならないものなので、仕方なく地味で人気ひとけの少ない場所にせざるを得ないのだ。
想像どおりのひっそりとした雰囲気の喫茶店に辿り着き、オレたちは一息つく。
オレはコーヒー、ミルさんは紅茶を注文した。
「それで、これからのことなんだけど……」
オレがウエイトレスさんが飲み物を置いて席を離れたことを確認してから話を切り出すと、ミルさんはにやりと意地の悪い顔をした。
「純也さん」
「うん?」
「卒業式の日に何かあったんじゃないですか?」
ぶふっ! 思わずコーヒーを吹き出してしまった。
「わ、何するんですか!?」
ミルさんはかろうじて避けたので服が汚れずに済んだ。
「ご、ごめん」
一応謝ったけど、人が飲んでいるときにそんなこと言い出す方が悪いだろ。
オレは誤魔化すために無理やり話題を変える。
「そういえば、オレのことは『純也』じゃなくて『純』でいいですよ」
多分周りに人がいないことを確認して話しかけているとは思うけど、念のために言っておく。
「それなら、純さん……純もわたしを『ミル』と呼んでください」
う……、そうだよな。自分で言い出したんだから仕方ないよな。
「わ、わかったよ」
「じゃあ、はい?」
早速リクエストされる。
「み、ミル……」
「はい。あ・な・た♡」
「あなた、じゃねーよ!」
呼んだ途端に深い関係かよ! まあ確かに同じ屋根の下に暮らしているけども!
はあはあ、と肩で息をしているオレの前で涼しい顔で優雅に紅茶を飲むミル。
こうやって見るとやっぱり美少女だよな、と思う。
神様のときは金髪だったけど今は触れたくなるような黒髪ロング、目はパッチリしてまつ毛は長いし、唇も濡れたように……。
ハッ、何を考えてるんだ? オレも同じ顔じゃあねえか!
周りから見れば、自分と同じ顔をした女の子に興奮している女ってどんなだよ!
一人で興奮したり、落ち込んだりとオレってこんな性格だったっけ?
何だか女の子になってから、心まで女の子っぽくなっていくのだろうか。
そんなことを考えているとミルが話しかけてきた。
「それで、卒業式の日ですけど……」
やっぱり、その話題を忘れてませんでしたね。
「べ、別に何もなかったよ」
「そうですか? あの日帰ってきてからずっと上の空でしたよ?」
気付いてたか……。
まさか、この世界で一度振った相手と友達としてだけど付き合うことになったなんて言いづらい。
オレが返事に困っていると何かを察したかのようにミルは微笑む。
「はっは~ん」
「な、何だよ」
「さてはわたしに言えないようなことが起きたんですね?」
す、するどい。
普段は何気にポンコツのくせに人の嫌がることには的確に攻めてくる。
くっ……ここはちゃんと話すべきか。
これから快適なモブ生活を送るためには、ミルにすべてをきちんと話しておかないといけないだろう。
「あの……実は」
拓也との約束で友達として付き合うことになった経緯を説明した。
「そうですか、そんなことが……」
一応ミルも驚いた表情を見せる。
「うん。それでオレもこの世界でどんな風に過ごしてきたのか知りたいっていうこともあって、とりあえず友達としてならいいかなって……」
「ということはたまに会ったりするんですか?」
「えっ? そ、そうだよね……」
「ふーん。なるほど」
「……」
「拓也さんのことが気になるんですね?」
「はあっ!?」
な、何を言い出すんだこの人!?
「そ、そんな訳ないだろ。大体オレは男……」
いや、待てよ。もしかしたらミルの言うとおりなのかもしれない。
前の世界で親友だった拓也との関係は一方的に解消されたが、オレが女の子になったこの世界で拓也は親友ではないけど友達になっている。
オレは友達と思ってるけど、拓也はそれ以上を望むかもしれない。
今のオレにはそんな気はまったく無いが。
「気になるって言えばそうなるか……」
「ふっふ~ん♪」
生暖かい視線をオレに向けるミル。何でそんな目で見るんだ?
「いや、元はと言えばミルのせいなんだぞ」
「へ、何でですか?」
オレの言葉に驚くミル。
「この世界のオレがこれまでどんな生活を送ってきたのかを知りたいんだ。女の子になって初めて学校に行った日なんか普段どおりに話していたのに、拓也から『お前らしくない』とか『何か変わったな』みたいなことを言われたんだぞ。気になるだろ」
「まあそうですね……」
「ミルが能力でオレの世界を変えたんだから、どういう風に変えたのか教えてくれ」
真剣な顔で問いただす。
「それは……」
「それは……?」
「忘れちゃった♡ てへぺろ♪」
「いっそのこと全て忘れさせてやろうか!?」
ダメだ、こりゃ。やっぱり人間になっても安定した残念さは変わっていなかった。
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