第4話 神様はモブ?
結局、ミルさんがオレを元に戻す方法を思い出すまではこの姿でいなければならないようだ。
まあ、こんなポンコツ神様に相談した自分が悪いんだからと、仕方なく我慢することにした。
あ、そうだ。確認しておかなくては。
「でもさ、オレが急に女になったら周りは驚くんじゃないか?」
そう。何せ、ついさっきまで男だったんだから。
「その辺はたいじょうぶです」
ミルさんは妙に自信満々な態度で胸を張る。
「あなたのことを覚えている人の記憶をすべて書き換えましたから」
「ええっ!? そんなことできるの?」
さすがは神様。と一瞬、感心しかけたが……。
「それなら、別人になる前にオレがモブっていう記憶に書き換えればよかったんじゃあ……」
「……」
「……」
「男なら細かいことは気にしてはいけません!」
「女にされたんですけど!?」
いかん、またミルさんのペースに巻き込まれている。落ち着け、オレ。
「ということは今の世界でオレは既に女の子として認知されてるんだ」
「そうです。ですから心配する必要は全くありません。これからは『顔は可愛いけど、ちょっぴりドジなモブ子』を目指しましょう!」
一人盛り上がるミルさん。
この話の主役ってオレだよね? ね?
それじゃもう遅いし、寝ようかと思っていると、スマホが鳴り出した。
「何だ、こんな時間に」
見覚えのない番号が表示されていたので、憮然としながらも電話に出る。
スマホを手にしながらミルさんの方を見ると何故かソワソワしている。
「はい、藤堂です」
「やあ、藤堂君だね。初めまして」
初めて聞く声だ。っていうか誰?
「あ、はあ、どうも」
「君のところにうちのミルがいると思うんだけど間違いないかな」
どうもミルさんの知り合いのようだ。神様の知り合いって何だろう。
「ええ、いますよ。代わりましょうか?」
「お願いするよ」
「ミルさん、電話」
するとミルさんはびくっとして、恐る恐るスマホを受け取ったかと思うと部屋の隅の方へそそくさと移動していった。
それからしばらく「はい」、「すみません」、「申し訳ありません」と相手に謝罪しているような言葉が聞こえていたが、やがて「ひぃー、許してください!」だの「これから気を付けますから」だの「そ、それだけは!」という不穏なセリフを言い出した。
何かここにいてはまずい感じがしたので、とりあえず気分転換に何か飲もうと1階の台所に向かった。
ふーっ。
麦茶で喉を潤しながら考える。
モブにしてくれるというのに、女の子になるっておかしくね?
しかも顔がミルさんと同じなんて、どう考えても注目されるだろうに。
ミルさんはかつての自分がモブだったから、自分と同じ顔にしたんだろうけど。
飲み終えて部屋に戻ると、まだミルさんは泣きじゃくりながら電話していた。
「な、なんだ?」
オレに気付いたミルさんがくすんくすん言いながらオレにスマホを差し出してきたので覗き込むとまだ通話中だった。
電話に出ろということか。
「あの、もしもし」
「ああ、藤堂君か。この度はうちのミルが大変迷惑をかけた。私からもお詫びしたい」
「えっ、いや、あのお宅様は……?」
「ああ、これは申し訳ない。私はミルの父です」
「お父さん、ですか!?」
何と神様にも家族がいるのか。また一つ余計な知識が増えてしまった。
「実はさきほど、ミルが「能力」を使ったのがわかったので、これは大変なことになると気になって調べてみたのだよ。ミルはね、まだ見習い中なのだが好奇心が強いというか、わがままというか、ははは」
いや笑いごとじゃあねえよ。
オレは心の中でツッコんでいた。
「あの、それで……」
「ああ、そうそう。見習い中は能力を使ってはいけない規則なんだが、ミルのヤツ、君を気に入ったのか、その禁を破ってしまったようだ」
「はあ……」
どおりで訳の分からない展開になったと思ったはずだ。
「あの、それで今すぐオレを戻すことは可能なんですか?」
ミルには出来なくても、その父親なら簡単に……。
「いやあ、それが出来ないんだよ」
「へっ……?」
そんな……せっかく元に戻れると思ったのに。
「見習い中は能力を使っていけないというのは、それを解除することが本人しか出来ないからなんだ。だから解除方法はミルしか分からない」
「そうなんですか……」
結局はミルに頼るしかないのか。
でも「忘れちゃった♡」とぬかしてたけど。
「あの、それでさっきからミルさんが泣いているんですけど、一体……」
「ああ、それはミルに責任を取ってもらうために人間にしたのさ」
「はあ!?」
ミルさんが人間になったって? どうゆうこと?
「ミルから聞いたんだが、君は今までの自分を変えたくて〈ボブ〉になりたいそうじゃないか」
さすが親子。同じツッコミをさせたいらしい。
「いや、〈ボブ〉ではなく〈モブ〉ですけど」
「……」
「……」
「……君は空気を読むということができないのかね」
二度目なので、スルーすることにした。
「それとミルさんが人間になることと何の関係が……」
「要するに罰を与えたわけだよ」
「罰、ですか……」
罰というのが人間になることなんて、なんか釈然としないが。
「まあ、いずれにしろ君に迷惑をかけた訳だし、ミルに反省を促すためにも人間として君のそばに居させることにしたんだ。でも同じ顔が二人いると混乱するだろうから、ミルと君は双子という設定にしてある。ということで、君の目標であるモブライフ満喫計画とやらをミルと協力して達成してくれ給え」
あでゅー、というセリフを最後に電話は切れた。
「なんなんだ、一体……」
電話を切って、ふと横を見るとミルさんがうるうると目に涙を浮かべ体育座りをしていた。
「なあ、どういうことなんだ?」
オレが問いかけると
「わたしが勝手に能力を使ったのがバレました」
うん、確かにお父さんはそう言っていた。
「そうしたら、お前も純也くんの気持ちがわかるように社会勉強しなさいって……」
「はあ……」
「それで、わたしを人間にするから純也くんのフォローをするようにって……」
「……」
フォローするっていうのは有難いけど、美少女の双子ってそれだけで注目される。
ミルさんはさっき自分でも言ってたように神の世界ではモブだったみたいだけど、それは性格が残念だからであって、見た目だけならとてもモブとは言えない。
結局、自分で何とかしなきゃいけないってことだよな。
明日からのことを考えるともう溜息しか出なかった。
もう今夜も遅いし、寝ることにした。
明日は明日の風が吹く、だ。
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