第3話 別人(?)になったオレ
最初こそ、期待の目で見ていたオレだが、なんかだんだんこの女神のポンコツぶりにテンションがだだ下がりしていくのを感じた。
「で、前置きが長くなりましたが、あなたがもしそのまま男として別人になったとしても、無意識のうちに〈チート〉な能力を発揮してしまう可能性があるわけです」
「ふんふん」
「例えば、体育の時間にサッカーをするとしましょう。モブを目指すあなたはきっと、ボールが来ない方に移動するはずです」
「うむ。確かに」
モブを目指すのであれば、活躍しないことが必要だ。そのためにはボールに触れない、ゲームに参加しないことが一番だ。
「しかし、友だちがつくった得点のチャンスで自分に向かってキラーパスが来てしまったら……」
「……」
「どうしますか?」
「うーん」
考えてみると、結構悩ましい問題だ。
今までのオレなら当然華麗にシュートを決める、だけどモブらしくするには……。
「空振りして笑いを誘う、とか」
はは、まさかな。
「チッ……正解です!」
「いいのか、それで!?」
何だろう、今舌打ちされたような?
しかも悔しそうな表情をしてるし。もしかして正解を言われたのが悔しいのか?
「では、次の問題です」
「クイズなの!?」
オレのツッコミは軽くスルーされていた。
「クラスに必ず一人はいるマドンナ的な美少女があなたの目の前を歩いているときに、目の前でハンカチを落としました。本人は気付いていません。さあ、あなたならどうする?」
何かノリが完全に違っている気がする。
でもこれは簡単だろ。
「ええと、普通に拾って渡す」
「ブーッ! 残念! ハズレです!!」
「なんで!?」
さっきと違ってなんだかとてもうれしそうな表情ですけど。
「正解は、拾って職員室に届ける、です」
「その意味は?」
「いいですか、もし拾ってすぐ渡そうとしますよね。するとそれを目撃した人はどう思うでしょう? 『何だアイツ、モブのくせに』とか『きっと渡す前に匂いをかいだに違いないわ』などと言われてしまうはずです」
黙って聞いているとオレの扱いひどくね?
「つまり、モブとしては目立った行動をしてはいけないのです」
まあ、言い方はちょっとアレだけど、言いたいことは分かった。
「でも、性別が変わっても同じじゃないの?」
オレが疑問を差し挟むと、
「それは大丈夫です。なんせ実例がありますから」
何故か少し暗い表情を浮かべたミルさんは、目を閉じて何やら呪文のような言葉を囁きだした。
その途端、オレの身体から淡い光が発したかと思うと急激な眩暈に襲われて、オレは意識を失った。
「……ほら、起きてください。ねえ、ちょっと」
気が付くと、オレの頬をぴしゃぴしゃと叩いているミルさんが目の前にいた。
「……うーん」
目が覚めて上半身を起こすと、はらりと髪の毛が腕をかすめる。
「うん?」
自分の胸元をみるとはっきりとした膨らみがあった。
はっとして、股間に手をやるとやはりそこにはあるべきものがなかった。
「ほ、本当に?」
「そう、あなたはわたしがこれまで出逢った中で一番モブらしいモブな女の子になったのです」
一番モブらしい女の子ってどういうのだろう。
ドキドキしながら鏡の前に立つと。
「……」
鏡に映っていたのは、ミルさんと全く同じ顔をした女の子だった。
$ $ $
「ちょ、ちょっとこれはどういうこと!?」
オレは叫んだ。
「何でオレがミルさんと同じ顔になってるの!?」
そう言われることを想定していたかのようにミルさんは口を開く。
「何故なら、わたしこそが一番のモブだからです!」
キラキラした笑顔で宣言した姿はまさに神々しいものであったが、セリフがあまりに残念である。
「あなたには持ち前のチートな能力がありますので、その分を加味するとちょうどわたしの姿になることでプラマイゼロですから」
は、何言ってんのこの人。いや……人じゃなくて女神だった。
「いや、ダメでしょ!? こんなに綺麗な顔になったら、ますます……」
オレがまくし立てていると、ミルさんは真っ赤な顔をして驚いていた。
「き、綺麗、ですって……?」
よろよろと身体をふらつかせるミルさん。
「わたしが、綺麗ですって……?」
「ちょっと、ミルさん?」
もしかして壮大な勘違いが起きているのでは、とそのとき気付いた。
「だ、だってわたし……今まで綺麗って言われたことないのよ」
「……」
「昔、通っていた学校でも一度もモテたことないし」
「……」
「『お前、面白いヤツだな』とはよく言われたけど……」
何かさらっと神の世界がこの世とあまり変わらないという事実が分かったけど、今の状況には関係ないので受け流しておく。
「そ、そうなんですか……」
オレの言葉がミルさんにとってはよっぽど衝撃だったのだろうか。
でも、ミルさんって本当に綺麗な美少女なのは間違いない。女神だけど。
「じゃあ、あのときに同じクラスのティラミスくんやザッハトルテくんに告白していたら、今頃……」
うへへ、とにやけた表情で体をくねくねさせている。
すっかりオレを置き去りにして自分の世界に浸っているようだ。
でもさっきのやりとりやこういった姿を見せられると、ミルさんがモブ扱いだったのもうなずける。
「あのう、ミルさん」
「な、なんでございましょう?」
赤く染まった頬にうるうるした目でこちらに顔を向ける。
「それで、この姿はいつまで……」
「そうですね。少なくとも1年間は継続されますが」
「1年……もし戻りたいとしたら?」
「……も、戻りたいですか?」
何故か焦っているような表情で聞いてくる。
「ええ、さすがにこんなに可愛い姿でモブっていうのはどうかと……」
「いやーん、可愛いだなんて、もう純のお・ば・か・さん!」
このころになるともう目の前にいるのは女神という認識を持てなくなっていた。
「すみませんが、一度戻してもらっていいですか?」
「へっ!?」
「いや、戻してほしいんですけど」
「……」
ミルさんの返事がない。
見ると汗をだくだくと掻かいている。
「どうしました?」
「あ……」
「……」
「あは、ははは……」
「……まさか」
「戻し方忘れちゃった♡ てへぺろ♡」
「刺していいよね!? ていうか刺す!」
……もうどうにかしてよ、この神様。
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