第2話 何でそうなる!? 神様にツッコミを入れるオレ
ベッドに入ってからどれくらい時間が経っただろうか。
急に息苦しさを感じて目を開けると、オレの上に誰かが乗っかっているのが見えた。
「だ、誰だ……?」
「あら、気が付いたようですね」
声の主は長い金髪、吸い込まれるような碧い眼をした、これまで見たことのないような美少女だった。
「な、なんだ!?」
思わず飛び起きると「あらあら」と言ってオレの身体から離れる。ふわりと浮かんで。
「え……」
あの……宙に浮いているんですけど。
「き、君は誰……?」
オレの問いかけに、にっこりとほほ笑む美少女。白いローブのような服をまとった姿をして相変わらず浮かんだままで。
「申し遅れました。わたしはミルフィーユ。あなたたちの世界で簡単に言うと神様です」
「はあ!?」
神様? オレ何か神頼みしたっけ?
「実はわたし、まだ神の見習いのようなものでして、正式な神ではありません。ですので何でも出来るわけではないのですが、あなたからあまりにも深い悲しみのオーラが出ておりましたので様子を見に来たわけです」
いきなり説明を始める、自称女神のミルフィーユさん。
「詳しい状況はわかりませんけど、わたしが出来る範囲で協力いたしますが?」
ずいっとオレの目の前で腰に手をあててドヤ顔する。
何か悔しい。
けど、本当にミルフィーユさんが神様であるなら、ここで相談してみるのもいいかもしれない。
「分かりました。実は……」
オレは今日あった出来事を詳しく説明した。
「そうですか。そんなことが……」
最後まで話を聞き終えたミルフィーユさんは悲しげに目を伏せた。
オレは自分の悩みを聞いてもらって、だいぶ気持ちが落ち着いてきた。
「そんなわけで、これからはどうにかして目立たないようにしようと考えてるんです」
でもそんな方法ってあるのだろうか。
「分かりました」
そう言ってすくっと立ち上がるミルさん。
「わたしに考えがあります」
「ほ、本当ですか!?」
さすが神様。オレは猛烈に感動していた。
期待に満ちた目を向けたオレに対して神様が言った言葉。
「あなたが別人になればいいんです」
「はい?……」
$ $ $
「あなたがその姿でいることがまず一番の問題です」
「は、はあ……」
あなたは別人になりなさい、ととんでもないことを言い出したミルさんこと自称・女神。
まるで小さな子に言い聞かせるような態度で話を続ける。
「この世界では、あなたはイ……イクメンでしたっけ? それに当たるようです」
「……すみません。オレまだ15歳ですけど」
いつの間にか子持ちにされていた。
「あら、わたしとしたことが。うーんと、あ、そうそう思い出しました。イケメンですね」
うんうんと一人納得している。
「つまり、イケメンは何かと注目を浴びる存在です。その上あなたは勉強も出来る、運動も出来る、いわゆる〈リア王〉なのです」
今度は古典的名作の登場人物にされていた。
「確かにオレはリア充ですけど」
「えっ?」
「いや、リア充」
「はい?」
あくまでも自分の言い間違いを認めない神様って……。
「つまりですね、その〈リア充〉全開のあなたが〈ボブ〉でしたか、それに変わるのは生半可なことではありません」
……ついには外国人扱いですよ。
「それはオレも考えましたよ。どうすればモブになれるのか」
「……」
「……」
「あなた性格が悪いって言われませんか?」
「まさかの逆ギレ!?」
今思ったけど、このミルさんって実はポンコツなのでは……。
頬を膨らませてこっちを睨んでいる女神に心の中でツッコミを入れた。
「では話を戻します」
目の前の見えない箱をつかんで横に移す動作をしながらミルさんは続ける。
多分今の動きは「それは置いといて」ということを表現しているのだろうけど、どうもこの女神のすることは人間臭くていちいちツッコミたくなる。
「あなたが本当にモブになりたいのなら、ズバリ目立たない女の子になるのが一番です」
「な……」
随分とあっさり結論が出された。
「ちょ、ちょっと待ってください。何でそうなるんですか!?」
「えっ、気に入りませんか?」
「いや、そういう問題ではないんだけど……」
「では仕方ありません。説明しましょう」
ふうっと小さくため息をつく神様。何か頭の悪い子供として扱われているような?
「別人になるといっても、性別を変えないままでいるといずれあなたの〈チープ〉な能力が発揮されて「ちょっと待った」……」
またか……間違えるにしても間違い方がひどすぎる。
「あのう、そこは〈チープ〉ではなくてチートじゃ……」
オレが指摘すると、ミルさんは顔を真っ赤にした。
「う……」
「……」
「うう……」
「あの……」
「また、やっちゃった♡ てへぺろ」
……殴っていいよね。少しぐらいなら殴っていいよね!
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