神様、どうかオレをモブにしてくれ!
魔仁阿苦
第1話 プロローグ
「別れましょう」
オレ、
長い間、淡い気持ちを抱き続け、ようやく実った恋が今終わろうとしているらしい。
「な、何で?」
自分の声が震えているのに気付く。
どうしてなのか、意味が分からない。
彼女に対してはいつも真剣だったのに。
「オレ、何か変なことした? 悪いところがあれば直すよ」
「純也くんは何も悪くないよ」
「そ、それじゃあ……」
「でも……」
彼女は何かを決意したような目でオレを見つめる。
「あなたはモテすぎる。それは仕方ないけど、このまま付き合っているといつ誰に奪われるか不安で夜も眠れないの。こんな関係にもう疲れたの」
ごめんね。そう言い残して彼女は屋上から去っていった。
昼休みの屋上に、オレだけを残して。
失恋の痛手を抱えながら、何とか教室に戻ってきた。
自分の席に座り、彼女と別れた悲しみに打ちひしがれていると、親友の拓也が声を掛けてきた。
「純也、ちょっといいか」
拓也とオレは中学に入ってから知り合った大の親友だ。
勉強にスポーツ、そして遊びに至るまで仲良く競い合ってきた。
もしかしたら、オレが彼女に振られて落ち込んでいることを察して慰めてくれるのかもしれない。
「おう」
精一杯元気な声を出して返事をする。
拓也とともに向かった先は屋上だった。
ここはつい先ほど彼女と別れた場所。なるべく近づきたくなかったがそうも言ってられない。
「ところで話って……」
オレが切り出すと、拓也は先程までとは全く違う真剣な表情を浮かべた。
「純也」
「おう」
「俺はもうお前とは一緒にいられない」
「えっ……」
何だろう、この展開は……デジャブなのか?
「お前はすごすぎる。勉強も運動も。俺は少しでもお前に近づきたくて頑張ってきたつもりだ。けど、追いつくどころか背中を見ることすらできない。お前の横にいると自分がみじめになる。だから一緒に居られない」
「……」
足元がぐらぐら揺れている感覚がする。
何か言い返さなくては、と焦るが、何も思い浮かばない。
「純也はすごいけど、それを自慢することもないし、傲慢でもない。俺がいうのも何だけどお前はいいヤツだ」
オレの反応を気にすることなく拓也は言い募る。
「ただ、俺は自分が情けないだけなんだ。お前は何も悪くない」
話し終えると拓也は寂しそうに微笑み、屋上から去って行った。
一人残されたオレは天に向かって叫んだ。
「オレが何したっていうんだよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
振り返ってみれば、中学の頃はやれば何でも出来たし、それが当たり前だと思っていた。
勉強も運動も自分より出来ないヤツは努力が足りないのだと。
でも、もしかしたらその考えは間違っていたのかもしれない、と最近になって思い始めた。
妹に言わせれば、オレは存在しているだけで注目されるのだという。
確かに幼いころからいるだけで周りから声を掛けられるし、憧れの眼差しで見られ、女子からの告白は数えきれないほど、男子からは妬みを言われるか勝手にライバル扱いされる日々だった。
卒業式の前日に彼女と親友を一度に失い、こんな気持ちのまま高校に入学するのは残酷すぎる。
そこでオレは思いついた。
……そうだ、モブになろう。
誰しもが自分の物語の主人公であるのは間違いないけど、他人の物語の中ではモブに徹しようと。
でも具体的にどうすればモブになれるのか。必死に考える。
髪型を変えて根暗な雰囲気を醸し出そうか?
いや、今までの経緯を考えると、あまりにうまくやりすぎてしまい、逆にぼっちになる可能性がある。
モブにはなりたいが、ぼっちはごめんだ。
じゃあ、このスレンダーな体型を変えるか?
もう少し太って、そして黒縁メガネなんてかけると……おお、ヲタクっぽくていいかも。
ヲタクは一応ネットワークがあるから決してぼっちにはならないはずだ。
昨今のラノベにも書かれているように、高校にはヲタクがいっぱいいるはず。
でもよく考えてみれば、そんな簡単に太ることなんて出来るのだろうか。
明後日からは春休みではあるけど、そんなに変われるだろうか。
うーん、これも却下だな。
仕方ない。明後日から春休みだし、ゆっくり考えるか。
オレは早々とベッドに潜り込んだ。
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