ハードボイルドな落下点

 こんな夢を見た。


 四足歩行の生き物の背に乗って、空を飛んでいる。

 生き物は鹿のような姿をしており、その華奢な骨格で翼もなしに自分を乗せて宙に浮き、空を駆けるように軽々と飛んでいた。

 周囲には同じように飛んでいるらしい人たちの気配を感じるが、どういう訳か姿は見えない。それでも四足歩行の何かに跨り飛んでいることだけは、何となく分かった。

 そのまましばらく団体で進む。と、不意にガクリと躓いたような揺れを感じ、自分を運ぶ生き物が突然気を失ったのだと頭が理解できた時には、揃って真っ逆さまに落下していた。

 このままでは頭から落ちてしまう、と思う間もなく地面に落ちる。おまけに何もない土の上に落ちたはずなのに、気付けば工事現場の足場らしき鉄骨の山の下敷きになっていた。

 幸か不幸か、頭部は案の定ひどいダメージを受けたが、自分の頭が固ゆで卵だったお陰で、固めの黄身の欠片が少々地面にこぼれただけで済んでいた。


 ネズミに一齧りだけされたような自分の頭部を離れたところから眺めながら、そういえば今はゆで卵だったのでそれほど心配いらなかったなと、今更ひとり思い出して納得する。

 周囲の人と乗っていたはずの生き物は、いつの間にか姿が消えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る