近道

 友人Nが、こんな夢を見たそうだ。


 仕事中の昼休み、同僚とランチに出かけようとしている。

 入社前からの友人である同僚Kさんは中々の食通で、珍しい料理屋や安くて味の良い店に詳しいという。

 その日もいつものようにKさんの知る店に行こうとしたところ、Kさんは職場の窓の方へと真っ直ぐに歩き始めた。

 慌てて止めようとするNの動揺など気にも留めず、Kさんはいつもと変わらぬ調子で

「ああ、こっちが近道だから」

とそのまま窓に向かって進み続ける。

 Nの話によれば、二人の職場は高層ビルの二十三階にあるという。その二十三階の窓から外に出ようとするKさんを追いかけながら、Nはどうすれば無事に着地できるかを必死で考える。

 地上までの空間の途中にある、滑り台の方に向かって下りればとりあえずは安全だろう。滑り台は実家のテーブルの形をしていて、大体ビルの八階辺りの空間に浮いている。

 そこまで考えてから外に出た後で、滑り台だと思っていたものが実はラムネの瓶だったことに気が付いた。よくよく見れば職場の入り口に飾ってあるものと同じデザインだ。

 何故今まで気付かなかったのだろうと思いながらも、既に窓から出た後だ。Kさんの姿はいつの間にか見えなくなっている。


 このままでは落ちてしまう、と焦ったところで、Nは目を覚ましたそうだ。





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