追いかける人
目が覚める。
居心地の悪い夢を見た。男に追いかけられ、結局捕まってしまい、口を塞がれたと思ったら、目が覚めた。
汗でびしょ濡れだ。シャワーを浴びよう。
みんなそうだと思うが、追いかけられる夢なんてしょっちゅう見る。あまり良い気分はしないが、ただの夢だから、とあまり考えない。シャワーを終えた頃には、すぐに夢の内容を忘れた。
そのまま準備をして仕事へ行く。
仕事から帰り、玄関の鍵を開けて、部屋に入る。
玄関からリビングに向かう廊下の電気をつけ、誰もいないのに「ただいま」と言う。「お帰り」なんて言ってくれる家族もいない。そんな一人暮らしは寂しいようで楽しい。
しかし、リビングに入った途端、目の前の景色に息を飲む。
家具という家具は何かの刃物で傷つけられ、壁もボロボロになっている。天井にぶら下げていた電気も割れ、その破片が地面やガタガタの机の上に散乱している。ソファは滅多刺しにされ、綿が飛び出て、座ることさえできない。薄型テレビは大きな怪物に食いちぎられたかのように、一角だけ大きく欠けている。
まるで、この場所で戦争があったのかというくらいの荒れっぷりだった。
そしてそもそもが……。家具の致命傷となったであろうノコギリやハンマーの凶器が放置されている。そんなもの、私の家にはなかった。
この状況を理解するのには十分な時間が必要だった。しかし、そんな時間は私には与えてくれない。
リビングの右壁には寝室につながる扉がある。今は多少凹んでいたりするが、その扉がひとりでに開いた。……いや、開けたのは……。
顔には包帯だらけで、一瞬、アメリカで有名なスレンダーマンを彷彿とさせる男だった。
男の手には大きなノコギリ。それを持ったまま。私の方へと近づく。
私の足が後ずさる。
男が近づく。
私は後ずさる。
瞬間、踵を返して逃げる。だが、男の投げた椅子が脚に当たり、転んでしまう。一気に距離が縮まる。
叫ぶ。
口が塞がれる。
「お帰り」
暗転。
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