◆第三章/ここにいるのはあなた

*ランナー

 途中で隼人とはぐれたチノパンは、なんとかまいたかなと息を切らせてよたついた。

「お、俺。もうだめ」

 立ち止まって荒い息を整える。ブロック塀に手をついてがくりとうなだれた。

 思えば、彼は健のカツアゲには、なんら関与していない。あの時にいた連中が勝てなかったから、多少は腕に覚えのありそうなチノパンが呼ばれたに過ぎない。

 とはいえ、喧嘩になると解っていて呼び出しに応じたのだから、多少の怪我は仕方がない。その辺は自分でも割り切ってはいる。

 しかし、しかしだ!

 これはどういう訳なのか、まったく理解が出来ない。ここまで精神的にも肉体的にも追い詰められるようなことをした覚えはない。

「ホント、一体なんなんだよ。これ」

 疲れで思考が回らない。

 ここに住んでる訳でもないチノパンに、土地勘などある訳もなく。とにかくメチャクチャに逃げ回っていたため、ここがどこなのかさっぱり解らない。

 このまま帰っちゃおうかなと考えた矢先──

「いたぞ!」

「わあああああ!?」

 折角、落ち着いてきたのに再び全速力で駆け出す。もうこれはパブロフの犬(条件反射)状態だ。

 こうなりゃ、力尽きるまで走ってやるぜ!

 そんなアスリートのような思考がチノパンをがむしゃらに走らせる。

 しかし、彼はアスリートではない。気持ちだけで走れるなら、みんなアスリートだ。先ほどまで走り続けていたのだからすぐに息が上がり、油断すると転けそうになる。

「俺……。もう、捕まっちゃおうかな」

 いっそ捕まって楽になりたい。

 こんな訳のわからない状況で、ただただ恐怖だけが増幅されてストレスはマックスだ。

「いたぞ!」

「ひぎゃ!?」

 なんなんだよこいつら! 全然、知らない奴らだ。俺が何をしたっていうだんよ。捕まったら何をされるかわからない!?

 逃走は続く──

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