第2話 ラブレター



ラブレター

俺は屋根の上を歩いていた…。

最近はよくこの部屋にお邪魔している、

ガリガリ、

爪で二階の部屋の窓を開けようとした。

ガラガラ、不意に窓を開けてくれた。

『あら、猫ちゃんまたきたのね?』

年は十六、七の女の子、名前は美雪、どうやら最近好きな人が出来て、毎晩何やら書いている。

『にゃー。』また、机に向かっているのか?今の時代恋文なんて、微笑ましいな。

美雪は俺から手紙を見られないように、隠しながら話しだす。

『もぅ~、猫ちゃん見ちゃ駄目だよ、緊張して失敗しちゃう。』

一旦ペンを置き、ベットの下から、キャットフードをだしてくれた。

『猫ちゃんの飼い主は、ご飯くれないの?

私のお小遣なくなっちゃうよ、いいの?』

俺は少し食べてから、美雪を見上げた。

『にゃー。』お前のお小遣はしったこっちゃないが、

ラブレターは気になるな…。

『ん?どうしたの、でも、あんまり食べないんだね、

猫ちゃん…あー、もうー、一体何箇所、回ってきてるのよ、

この浮気猫。』

美雪は少し怒りながら、つんつん、と、

つっついてくる、プンプンって、聞こえてきそうだ。

『にゃー。』俺は悪魔だから、あまり食料はいらないんだよ。



しばらくして。

俺はベットの上で丸くなった。

『出来た。』

美雪はとうとうラブレターを書き終えたようだ。

『にゃー。』

どれどれ?

俺は机の上に飛び乗り、ラブレターを覗いた…

バサッ、

素早くしまわれてしまった。

『ちょっと猫ちゃん、恥ずかしいから見ないでよ。』

俺に見られたって、誰にもバレやしないのだから、

気にする事はないだろう、と思いつつ俺は、窓から外に出た。

『もう、行っちゃうだね、またね猫ちゃん。』

『にゃー。』またな。

美雪は手を振って見送ってくれた、俺は一応尻尾をゆっくり揺らして、合図した。

ワン、ワンワンッ、美雪の家の一階で犬が吠えていた、

そうそうこの家は犬を飼っているから、住み着かず、

俺はたまに、美雪の部屋に忍び込むようになったんだった。

犬がいなかったら、縁側でのんびりするんだけどな、

まったく犬って奴は厄介だ。

吠える

追いかける

噛み付く

無駄に尻尾振る

高い所に上れない

って、犬の話しはもういいか。

俺は適当な軒下で夜を明かした。




次の日の朝。

『行ってきまーす。』

美雪が家から、出てきた…。

俺は昨日のラブレターを誰に渡すのか気になっていたので、美雪を尾行することにした。

学校に向かっているのは、分かっているのだから、学校に先回りすればいいと、思っているだろ?

BUT…しかし。

何百年と生きた俺は、あらゆる奇想天外な事をこの目で見てきている…そう、何が起こるかって、本当にわからないのだよ。

例えば、近所のオッサンにラブレター渡してしまうかも、しれない…まぁーそんな時は、速攻で記憶を喰らってやるけどな…。

え?人間に執着し過ぎだって、まぁな、こうゆう遊びも必要なのさ、何百年も生きて行くためには。

美雪は俺の予想を裏切り、何事もなく学校に着いた…。

BUT…しかし。

下駄箱、そう一番ラブレターを置きそうな場所じゃないか?ちゃんと見張らなければ…。

そこら辺のチャラチャラした若僧に美雪はもったいないからな…。

変な奴に告ってみろ、速攻で記憶を喰らってやるからな、好きも、恋も分からず恋愛なんて、もってのほかだ(怒)

え?心配しすぎだって、違うぞ俺は傲慢で身勝手なのだ、うん、実に悪魔らしい。

そして

美雪は下駄箱もすんなり通り過ぎた。




『にゃー。』

おい、美雪一体誰にラブレター渡すんだ?

授業中も休憩時間も昼休みまで、ラブレターを渡す気配すらない、もしかして?

家に忘れて来たのか?美雪はおっちょこちょいだな…

いや、確かに鞄の中に入れていた、

間違いない…多分。

まぁー誰に渡すのかも知りたいが、実は内容が一番気になっている、

もうすぐ放課後だ、もしや…どこどこのキャプテンとかに渡す気じゃー?

恋も愛も分からずただ、無駄にモテてるバカ野郎に、ラブレターなんて渡すなよ美雪

傷付くだけだぞ…プンプン(怒)

放課後

『じゃあねー。』

『バイバイ。』

美雪は友達に挨拶していた。

『美雪、一緒に帰ろー。』

『今日は、ちょっと寄る所あるからーまたね。』

とうとう美雪に動きがあった、

俺は細心の注意をはらい美雪の後を付けた…どうやら、グラウンドや部室の方にはいかないようだ…。

ま、まさか?

職員室だと…。

美雪~、先生にラブレター渡すのか?駄目だ、駄目だ、美雪に不倫なんて、させないぞ…その、記憶と感情を喰らってやる、俺は悪魔だからな。

グハハハ。




職員室前

『あ、先生…。』

美雪はまだ若い先生を呼び止めた。

『ん、どうしたのかな?』

若い先生と美雪は、少し親しげに見えた。

『これ、読んで下さい。』

美雪はラブレターを渡した…若い先生はきょっとんとしていたが、しばらくしてラブレターをしまった。

『にゃー。』

若いな、とりあえず様子を見るか…。

不倫ではなさそうだ、

人柄も良さそうで、少し気弱な所も親しみがもてる…

ちょっとまてよ、何故、

俺が奴の肩を持たねばならんのだ…プンプン(怒)

美雪はラブレターを渡すと、そのまま家に帰っていった。

残された、若い先生はかなり動揺していた、本当に予想外の出来事だったのだろう。

そう、それはもう一人の人物にとっても。


今日は、やけに暗くなるのが早かった、

美雪は、すこしぼんやりしながら帰っていたから、尚更、日が暮れるのが早かった。

美雪の家に着く少し前の道は、人通りも少なく暗かった…

俺は手紙の内容が気になっていたから、

若い先生の傍にいて、まだ学校をうろうろしていた。

『にゃー。』先生さんよ早く手紙開けろよ、中身気になるんだよ…プンプン(怒)

暗い路地。

『…美雪…美雪…な、なんであんな奴が好きなんだよ…。』

暗い路地に、一人の男がぼそぼそと、つぶやきながら、

美雪に近付いた、

学校からずーとつけていたようだ。

『キャー。』

美雪はその男にナイフで

切り付けられた。

何度も…何度も…。

『…なんで…なんで…あんな、オッサンなんだよ。』

何度も…何度も…。

『…僕の方が…ぶつぶつ…。』

…何度も…何度も…

…何度も…

…何度も…。



暗い路地で一人の男が、ぶつぶつ言いながら、

美雪を傷付ける事を考えていた。

そう…さっきの光景はこの男の頭の中で起きていた、

出来事だ。

さっきも言ったが、

何百年も生きてると、起こるのだよ、

奇想天外な事が…

だから俺は手紙の内容も気になってはいたが、

美雪の事が気になって、

直ぐに美雪の後を追っていた…

そして、危ない妄想男を見付けた…。

男は塀の上に乗り、

妄想男に話しかけた。

『にゃー。』おい、妄想野郎(怒)

男は、血走った目で俺を睨んだ。

『なんだ、猫か…邪魔するなら、お前から切り刻むぞ。』

『…残念だったな、俺の目をみろ…』

『しゃ、喋った!?』男は驚いて、俺から目が離せなくなった。

そして…妄想野郎の記憶と感情を喰らった。

今回は、サービスで多めに喰らってやった、二度と美雪の前に現れないように。

しばらくして、美雪のクラスメートの一人が行方不明になるが、この男なので気にしないでくれ。

やはり俺は…悪魔だ、素晴らしい最後を与えてやった。



数日後

それにしても、

ラブレターの内容を知りたい…

美雪が勢いあまって大胆なことや、最低なことを書いていないか心配だ、

猫にすら読まれたくない、内容って…

あー気になる、気になるぞぉー『にゃー。』

ガラガラ

俺はまた美雪の部屋にお邪魔した。

『あら、猫ちゃん久しぶりね?

超浮気性の猫ちゃんには、ご飯あげないぞ。』

『にゃー。』餌はいらんが、ラブレターの内容が知りたいんだよ。

『…よし、浮気性の猫ちゃんに、素晴らしい物を読んであげよー。』

美雪は鞄から、手紙をだした。

あの、若い先生がラブレターの返事を書いたのだ。

『にゃー。』忌ま忌ましい奴め、やはり記憶を喰らってやるか?

美雪はニコニコしながら手紙を開けた…

『にゃー。』

美雪め俺に助けられた事に気付いてないからな…

アホな男に浮かれて、駄目な子だな…。

『…えー、じゃあ読みます。』



手紙ありがとう。

君が、こんな手紙をくれるなんて、凄く驚いたよ。

あの時…実は、ずーと見ていたんだ、でも勇気がなくてすぐに助けに行けなかった…。

教師になりたての僕は、色々な事で失望していて、生徒と関わる事を恐れていた。

君を助けてから、全てが変わった。

だから、僕からも

ありがとうの手紙を送るよ。

ありがとう。



『にゃー。』…ん?ありがとうの手紙?

美雪は読み終えると、手紙を見ながら話し始めた。

『…実はね、猫ちゃん。

授業中、足をくじいた私を、

なんと…お姫様抱っこして保健室まで、

連れていってくれたのです。

見られたら、誤解されるかもしれないのにね。』

俺は話しを整理して、考えてみた…

じゃあ手紙は…ありがとう?

美雪はニコニコしながら、まだ手紙を見ていた…

『にゃー。』まぁ~美雪が筋金入りの天然でよかった…

この年で、書いた手紙の内容が…ありがとうか…逆に心配になるな…。

次の日の朝

机の上の紙に、

肉球の跡をつけて

俺はこの家を後にした。

一応…俺が始めて書いた。

ラブレターだ。





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