あなたの側に猫が居る。

上鳥居 と ネコミュー

第1話 母と子


あなたの側に居る悪魔(猫)が……

一体どんな能力を持っているのか、知って下さい。

太陽の光の下、のんびりと昼寝をしている猫、その中にもしかしたら隠れているかも知れません。



『にゃー。』俺はニャンパイア。

『にゃー。』闇に生き、孤独を愛す悪魔。

『にゃー。』全てを破壊し、全てを喰らう。

『にゃー。』そう、最強、最高、最悪の悪魔…俺がニャンパイア。

空地で何度も鳴いている猫を横目に通行人が呟いた。

『なんだ?あの猫、さっきから、にゃーにゃーうるさいぞ。』

『にゃー。』見た目は猫だが、俺は悪魔だ。

ニャンパイアは、『にゃー。』

という鳴き声にのせてテレパシーを送っている、

人には聞こえないが、

人ならぬ者には伝わる事がある。



母と子

俺は塀の上を歩いていた、何故か?どうしても高く細い所を歩きたくなる、

こんな危険な所を好むなんて、やはり俺は悪魔だ。

一軒家の前を通りかかった。

『和也、これからは私達二人で暮らしいくのよ。』

親子が何やら話している。

『うん…ママ、

パパはどこにいったの?』

親子は父を事故で失い、これからは二人で生きて行くという話しをしていた…

数百年生きてきた俺には在り来たりな話しだ、

もっと悲しく、そして残酷な時を俺は生きてきた…。

『にゃー。』

しばらくこの家にやっかいになるか。

縁側で俺は日向ぼっこをしていた…

『あー、猫ちゃんだぁー。』

和也が近付いてきた

『にゃー。』

あっちに行け、子供は嫌いだ。

俺の言葉は通じず、抱き上げられた、

そのまま和也は母の所へ駆けていった。

『ママーママー猫ちゃんだぁーよー。』




台所に居た母親が振り返る

『…あら、最近よく見かける猫ちゃんね。』

『にゃー。』おい、そろそろ降ろせよ。

ガシッ。

俺は飛び降りて縁側に戻った。

『ママ~猫ちゃん飼う~。』

母親は少し困った表情をみせたが、和也にいいよっと言った。

『じゃあ、今度猫ちゃんのグッズを買ってきましょうね?』

『うん。』

この家には、たまに近所に住むおじいさんが遊びに来る。

『和也、よしよし。』

『おじいちゃーん。』

おじいさんは和也が可愛くてしょうがないようだ。

『いつもありがとうございます。』

『いいんだよ、うちのバカ息子が私や美子さんより、先に逝ってしまって…。』

おじいさんは少し俯いて話す。

『…お父さん…。』母も少し俯く。

そんな二人をよそに和也が騒ぎだす。

『あー、おじいちゃーん、猫ちゃん、猫ちゃん飼ってるんだよー。』

和也は俺を抱き上げておじいさんの顔に近付ける

『にゃー。』おいおい、それ以上近付けたら引っ掻くぞ。

『おー可愛い猫ちゃんだな。』

ぽんぽんと、頭を二回叩かれた。



『にゃー。』

軽く噛み俺はまた縁側に向かった。

『あははは、おじいちゃん噛まれたよー、あははは。』

『おじいちゃん、いたくない?』

『すいません、お父さん。』

親子でおじいさんの心配をしている。

『にゃー。』

ふんっ、酷い目にあっているのは俺の方だ。

『大丈夫だよ、猫はそーゆう生き物だよ、あははは。』

おじいさんは大笑いしている。

とことこと和也が寄ってくる。

『猫ちゃん、め、だよ。』

『にゃー。』いや、お前が、め、だから。

母と子とおじいさんはしばらく何やら話していた、和也はうとうとし始め半分夢の中にいるようだ。

『和也の小学校はどうするんだい?』

『はい…小さなアパートに引っ越そうかと思ってまして、そこから…。』

『わしが家を売って、一緒にここに暮らすよ…、息子の分まで孫の面倒はみさせてもらうよ、もちろん美子さんが嫌でなければ…。』

『…ありがとうございます…お父さん。』



しばらくしたある日

玄関

和也が新品のランドセルを背負っていた。

『和也、似合っているぞ。』

『うん。』

どうやら、数日後は入学式らしい、

人間とは実に面倒だ、たった一日の為に色々な物を買ったり、準備したりする…

まあ、そういう日が一つもない方が人間は耐えられないのかもしれない。

最近和也が嬉しそうにじゃれついていたのは、

もうすぐ入学式だったからか…。

あの日以来おじいさんは母と子と一緒に住んでいた、

おじいさんがいるお陰で俺にじゃれついて来る事が減っていたが、

今度学校に行ったら他の子供などを連れて来たりして、

過ごし辛くなるな…まぁ、構わないが。

『ハイ、チーズ。』母親が写真を撮っている、

まだ気が早いだろ?と思ったが、おじいさんが突っ込んでくれた。

『おいおい、入学式当日の分のフィルムも残しといてくれよ。』

『…あら、私ったら、大分使ってしまったわ…』

と言いつつもまたシャッターをきる、カシャッ、カシャッ。

『あははは、また、わしがフィルムを買ってくるよ、あははは。』

三人は家の中に入っていった。

『にゃー。』入学式当日は何か食べて帰ってくるのかな?じゃあ、その日はのんびりできるな。

俺は呑気にこんなことを考えていた…何も知らなかったから…。




入学式当日

三人はずっとそわそわしていた、俺が思った以上に早く出掛けって行った。

『にゃー。』そんなに早くに出掛けて、校門を開ける役目までするきなのかい?

今日は丸一日のんびりできそうだ。

朝から夕方まで、縁側でごろごろしていた、ん?入学式はすぐ終わって、食事をして買い物をしたとしても…夕方には家につくだろ?

『にゃー。』あまりにも遅い…もう、日が暮れているぞ。

俺は心配になった。

トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル…ガシャ、電話が何回か鳴り留守電に切り替わった。

『…〇〇病院ですが…〇〇さんの携帯に自宅と…大至急連絡を…』

俺は、病院へ向かった。

父を亡くした親子がやっと、前向きに歩きだして、元気に暮らしはじめたのに。

あいつだけは…和也だけでも無事にいてくれ…。



病院

椅子に座り、メソメソ泣く和也がいた。

『…僕には…ママと…おじいちゃん…しかいません…。』

周りにいる大人が和也の話しを聞いている。

『…そうなんだ?何回か自宅に電話したけどでないのは、それでだったのか…お父さんは?』

『…う~、パパはいなくなりました…。』

和也をそれ以上喋らすな、俺は叫んだ『にゃー。』

人間に見付かると面倒なので、しばらく隠れながら様子をみていた。

数時間後

医者が和也のそばにいた、大人を呼び出す。

『…あの子のお母さんとおじいさんは、助ける事が出来ませんでした…保護者の片に連絡は?』

『…それが…身寄りはお母さんとおじいさんしかいないようで、さっき調べてもらったんですが…。』

『…じゃあ…あの子は…施設に?』

「にゃー。」

あんな子供になんて運命を背をわせるんだ…。

『…あんな小さな子に、この現実をどう話せば…。』

大人達が和也のそばに集まり、

しばらくして和也は、

一際大きな声で泣いた………。

そして、何処かに連れて行かれた。



数日後

和也は施設にいた。

『…和也くんは、ほとんど食べないし、何も話してくれません。』

園長が、あの病院にいた男性と話していた。

『とっても、深い心の傷を受けています、出来るだけ長い目で見守って下さい。』

男性は頭を下げ施設を後にする。

入学式の日、よそ見運転のトラックが歩道に乗り上げた、と、言っていた…。

その時母とおじいさんが和也を庇い、和也は奇跡的に無傷だったと、

せめて気を失う程度の怪我を負わせくれていた方がよかった…救急車が現場についた時、

和也の意識はしっかりしていて、何が起こったかを目の当たりしていたからだ。

『にゃー。』本当に神はいるのか?どうして、どうして、あんな小さな子に…。

施設の庭で元気に遊ぶ数人の子供達…

その端でただただ座り込む和也。

『にゃー。』みていられない。



何日も何日も、和也は悲しんでいた…日が過ぎる事にやつれ、弱々しく…。

施設の人々から、入院を勧める声があがっていた。

『にゃー。』入院?和也はそんなことでは治らない。

俺は…とうとう悪魔の力を使う事を決心した…もう…見ていられない。

庭の隅の木の下、丸く膝を抱え小さくなった和也の元に、俺は向かった。

近付くと、生気のない顔を俯かせたまま、和也は俺に気付かなかった、

顔の下までちょこちょこ歩く、和也の顔を見上げた…。

『…ね、こ、ちゃん…。』

微かに声を出す…。

『…和也…俺の目をみろ。』

和也は動じる事なく、虚ろな目を俺に向けた。

そして、俺は…和也の記憶と感情を…喰らった。

ガブッ…ガリッ…。




俺はニャンパイア…

血を吸うのではなく、ましてや人の寿命や魂をいただく訳でもない…。

そう俺は…記憶…感情…を頂戴する。

思い出、トラウマ、愛や、恋、憎しみや、悲しみ、

…それらの人の情を喰らうのだ。

数日後…

施設の庭で元気に遊ぶ子供達の中に、

和也がいた。

『にゃー。』

和也…元気でな、何処かで偶然すれ違がった時も、

その笑顔でいてくれよ…。

俺は施設を後にした。

しかし、人の記憶や感情を喰らう悪魔…なんて恐ろしいんだ。

今回は和也の事故の記憶と悲しみや淋しさを喰らった…人と暮らすうちに、少し生易しくなっちまったようだ…。

あっ、ついでに俺との記憶も喰らっといたぜ。



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