第3話イスラーム編

「寛容」を最も大切にする教義を信じる地域の、混迷を終息するためには、彼らが師と仰ぐムハンマドの考えに迫る必要があるだろう。

「新約」の世界がギリシャ語で書かれ、ギリシャ星座で読み解くように、アラビア語で書かれた世界は、アラビア星座によって。


 十字軍によってもたらされた憎悪が、後世にまで影響を残しているのは、師が残した「キリスト教徒は間違いを犯している」という言葉によるのだろう。では、その間違いとは何かを探らねばならない。


2つの信仰の間の違い、それは「暦」。キリスト教の中では「ユリウス暦」、「グレゴリオ暦」という「太陽暦」を使用し、イスラム教の中では「ヒジュラ暦」という「太陰暦」が使用されている。

「太陰暦」とは、朔望月で1ヵ月を決めるもの。朔望月とは、月の満ち欠けの1周期、朔(新月)から朔、または望(満月)から望の期間の事をいう。

「太陽暦」は、地球が太陽の周りをまわる周期である太陽年を基にしている。


「太陰暦」が12ヵ月で1年とするのは、1太陽年が起源に影響し、「太陽暦」が暦月を約30日ずつに分けるのは、朔望月の起源に影響されているからだ。それは、「太陰暦」を基にしながら、太陽の動きも参考にするという「太陰太陽暦」である「ユダヤ暦」の影響によるものなのだろう。これを踏まえ、ムハンマドの行動と合わせて考えてみる。


 メディナへ移住する。これを「ヒジュラ(聖遷)」と呼び、7月16日を元日とした。この改暦は「ユリウス暦」を改めたという事。

 エジプトの「ソティス暦」を参考にした「ユリウス暦」は、ナイル川の氾濫が起こる時期、7月後半に元日を置く。暦月の名が太陽星座と符合するとしたなら「獅子座の月」という事になり、カエサルが「王の月」に自身の名を付ける発想も理解できる。

 対して「ヒジュラ」によって移動した元日の場所は「蟹座」の領域。「天国の門」がある場所の星座である。聖遷と呼ぶにふさわしい移動である。

 

 メッカのカーバ神殿で360体の偶像を破壊した事。これは天球儀の黄道が360度に対し、実際の太陽年が365日になるという事の教え。巡礼がカーバ神殿の周りをまわるのも、天の運行の再現なのかもしれない。

 

 「ヒジュラ暦」は「純粋太陰暦」と呼ばれ、小の月29日、大の月30日で12ヵ月、1年354日。「太陽暦」に対して毎年11日ずつずれる暦だ。しかし「太陽宮」に対する「月宿」、それの始まりの宿は「牡羊座」のβ星とγ星で「2つの記号」という意味の場所に設定されている。

「2つの記号」の意味を「1年の始まりと終わり」という意味でとらえるならば、つじつまが合わなくなってくるのだが、聖遷の11年後にムハンマドがメディナで死去する事と「太陽暦」を組み合わせると、奇跡が起こる。

  

「牡羊座」の始まる次期「春分の日」を元日で固定する。大と小の月繰り返して9月「ラマダーン」に太陽年に足りない日数、ひと月を形成できぬ「貧しき者」を組み入れ、その期間をすべて休日とする。昼が夜より長くなる時期、太陽の黎明の前日「冬至」の時期に「ラマダーン」は最終日を迎える。太陽の観測線のたとえのような「白糸が黒糸から見分けられる黎明になるまで」だ。

 「冬至」の前の時期、太陽宮は「射手座」にある。これに符号する第21月宿は「その場所」という意味だ。「冠座」に付けられた意味が「南の冠座」にも移行するなら、そこは「貧しき者の皿」になり「射手座」の持つ弓矢の星の並びを「鳥」上半身を「座る人」に見立てると、「ラマダーン」のお祭りの再現になる。貧しい人たちにも振る舞いをして、分け隔てなく祭日を楽しむという寛容を。

 1年で最も昼の時間が短い時期に固定されれば、断食は過酷なものにならないよね。これも、寛容の表れ。

 

 太陽年に対して日にちが足りないので、毎年元日は数の若い月にずれていく。それも11年で終わり。その年、ムハンマドが天に帰る時、元日が神の元に帰る。7月から始まった元日が「春分の日」の近くに戻る年になる。

「ヒジュラ暦」の本当の姿は「太陰太陽暦」。何年たってもずれることなく、毎年必ず「春分の日」が元日になるという、人類史上、最も美しい暦。

 ムハンマドが自身を最後の預言者と言った理由は、この暦によるものだ。


 黎明、これを「太陽の誕生日」とするならば「クリスマス・イブ」と「ラマダーン」の最終日のお祭りの意味は同じになる。1年が終わり、復活する日を元日とするなら「復活祭」を「春分の日」に固定できる。キリスト教徒の間違いとはこのこと。

「カエサルはカエサルに、神のものは神に返す」を実行できたムハンマドをキリスト教徒は称えるべきだろう。

「ヒジュラ暦」を正しく運用できなかったイスラム教徒は、他者を責める事をやめましょう。


 その名を数字で表すと365になる太陽神に「アブラサス」というものがいる。この神が、民族の父「アブラハム」の基になっているのだとしたら、このように考えることはできないだろうか。

 アラブの祖となるものに「月の暦」を継承させた。ヘブライの祖には「太陽の暦」を継承させた。

 現在アブラハムの廟に、向かい合わせで祈りを捧げている子孫達が、手を取り合う時は来るのだろうか。

 ムハンマドは2つの暦を合わせた。そして、寛容を説いた。その祈りが人々に届く日は訪れるのか。

 

 アブラハムの出身の地「ウル」はシュメール文明で王朝があった場所。その地から人類最古の徳政令が出土した。債務を帳消しにし自由を与えるものだ。

「アマギ」と呼ばれるその法は「母(アマ)」に子を「戻す(ギ)」、本来あるべき姿に戻すことを意味する。「ヨベルの年」の原型となった法。

 カレンダーの原義が「ついたちに支払う利子の台帳」だから、負債の分母と分子を入れ替えて帳消しにするというものなのかも知れないけれど、デメテルにペルセフォネを戻し、ペルセフォネにデメテルを戻したら、訪れるのは雪解けの季節。

 不毛は、終わらせる事ができるもの。ドームに守られた「足跡」は「畝」を意味するものなのだから。


 神が「流浪の民」に用意した安住の地「約束の場所」は、血で穢す事を許していない。

「皆で仲良く」これ、基本。



「聖書」の天文学以外の分野にも考察を。歴史書、法学書の分野はそのままだから、医学書の分野について。

「ユダヤ教」と「イスラム教」はアルコールと豚肉禁止なのに「キリスト教」は許されているという事について。

 アルコールを不浄の物として遠ざけるのは、現在の「アルコール中毒」の治療法と同じに思える。アルコールを分解できる能力は体質による。体質は遺伝する。父系遺伝子が同じな民族のグループの信仰が「避けるべき」とするのに納得がいく。

 豚肉については、体質でとらえるならアレルギー。パンデミックという別の事態を防ぐためなら、環境が関係しているかも。「水資源の量」と「放牧と遊牧」の違い。人と家畜の生活圏が近すぎたり、豚の行動範囲が広すぎると、伝染病を封じ込めるのは難しいから。

 こんな感じに、互いの違いも冷静に判断すれば、争いなんて起きないよ。


「イスラーム化学」についても少し。アレキサンドリアの学舎が焼かれた後、学術の世界を庇護してきたのは、イスラム世界だろう。この時代の学問は「錬金術」で、後世においては、胡散臭い学問とされるようになってしまったが、現代の化学や医学の始まりともいえる存在だった。

「錬金術」の最大の目標は「賢者の石」の生成。宇宙の創造や、不老不死を可能にする物と信じられていた物質を。


 奥義が記された「聖典エメラルド・タブレット」には「万物が一者より来たり存在するが如く、万物はこの唯一者より変容によりて生ぜしなり」と記されている。 この内容は、ビックバンにより宇宙の形が整い、それによって生まれた星の死によってあらゆる物質が生成されるという、現在の天文学の内容と同じに思える。

 古代の学者が現代の学者と同じ考えを持つのだから「すべての天体に寿命がある」という事実も推論できただろう。これは重大な問題なのだ。星に寿命があるのなら、いつか、魂の帰る場所が失われるという事になるのだから。

 帰る場所を作る為に、宇宙を創る力を必要とした。その力である「賢者の石」は生成の作業過程で「ニグレド(黒)」→「アルベド(白)」→「ルベド(赤)」へと変化していくそうだ。

 この三色に当てはまる、天球儀の中の鳥「烏座」、「白鳥座」、「鳳凰座」の三点を結び、できる三角形の中心は、片方が太陽系が属する「天の川銀河」の中心「始まり」がある方向とされる「射手座」と「蛇遣い座」のあたりになり、もう片方が「オリオン座」になる。

「賢者の石」が示すものは「ペテルギウス」なのかもしれない。赤色巨星の死後、太陽系のような惑星を伴う恒星が誕生したなら、魂の帰る場所を作ることが出来るからだ。

 万物の命を生むともいわれる奇跡の石の、現存するその石は「地球」。魂の存在となった者だけでなく、肉体持った子孫の救済のための「惑星地球化計画」。それが「錬金術」の真の姿だったのかも。

 寛容の世界に感謝を。



 心の在り方が具現化したものを「現実」という。

 神は「神を信じている」と口にする者の「心」を試す。

 イスラム教徒には、師と仰ぐ者に「一番大切な教えは寛容である」という言葉を残させ、後の世に「イスラエル」を誕生させ、試す。

 ユダヤ教徒には「建国」を許し、パレスチナ人の難民をうむ。自分たちと同じ境遇となる者達を前にして「虐げる」か「生かす」かを試す。


 神の望む答えは「共存」。

 

 難民として多民族に虐げられた歴史は同時に、多民族によって生かされた歴史でもあるのだから。

「共有」か「分け合う」そのどちらかを選ぶべき。

「殺し合い」は許されない。



 

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