曇天は天才(天災?)を呼ぶ。

少年迷宮論者は曇天を嗤う──…。


***


何の変哲もない今日。暑苦しい日差しもなく、かといってため息を吐きたくなるような雨でもなく。

ただただ雲が蒼空を、太陽を、月を覆い隠している、曇天の日に僕は彼との出遭であいを果たす事と相なった。

そう、彼…他者の虚言ざれごとを自論により──荒月刹こうづきせつと。


ざくッ


と砂利を踏む音がする。『ざりッ』ではなく『ざくッ』と音を立てるのがいかにも彼らしい。…少々不穏では、あるのだが。


「……やぁ、何をしているんだい? 『死にたがり』君。」

「…………別に。見ての通り、読書に興じていただけです。──『迷宮論者』殿。」


彼は僕を『死にたがり』と呼ぶ。

別に訳立って死にたがっている訳でも、ましてや自殺願望自体、抱いた事すらないのだが…何故か、彼は僕をそう呼ぶ。

僕には彼の方が『死にたがり』の称号に合っている、と思うのだけれど。

彼、『迷宮論者』こと荒月刹は僕の隣──ではなく。何故かベンチに座らず、地面にシートを広げて(なんて用意周到なんだ)、その上に座った。


「時に『死にたがり』君。君は授業に出なくて良いのかね?」

「生憎、午後は授業がないんですよ。…貴方こそ病院に行ったらどうですか?」

「あはッ僕の病状を病院が理解出来るとは到底思えないけれどね? だってこの国には超才能ハイスペック対策のある病院自体、存在していないじゃないか。」

「精神病院なら、受け入れてくれて即入院…なんて事も出来ると思うんですが?」

「止めておくれよ、僕は別に精神に異常をきたしている訳でも、精神的に病んでいる訳でもないんだよ。」

「……そう思えないから、言っているのですが。」

「あはッはッ! 相変わらずな思考で安心するよ、『死にたがり』君?」


刹は可笑しそうに笑う。いや、嗤っているのか。

相変わらず彼の思考回路は謎だ。誰にも理解出来ないんじゃないか、そう思うがそういう訳でもないらしく、最低一人は理解者が居るらしかった。

たまに、本当にたまに彼の会話中に名前が出てくるのだ。その人からの電話に出る姿も見た事がある。…すごく嫌そうに口角を上げていた、と記憶しているけれど。

僕が考え事をしていると、刹さん(本人が苗字呼びを笑顔で拒否してきた)が不意に言った。


「そういえば『死にたがり』君、君この後暇かい?」

「ぇ? あぁ、暇と言えば暇で──…。」


言った後でしまったと口を押さえたがもう遅かった。

刹さんがニヤァッとチェシャ猫みたく笑っていた。


「あ、ぇ…う、嘘ですよ? この後、本屋巡りする予定でしたし──…。」

「じゃあ一緒にの所に行こっか♪」

「ちょ、人の話聞いてくださいッ!?」


どうやら刹さんは道づれが欲しかったらしい。僕の話(否定)を無視スルーしてグイグイッと袖を引いての居る、研究室に引っ張っていく。









──どうやら僕は狂研究者マッドサイエンティストの手土産にされる他、ないようだった。


***

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平凡と破壊とツレヅレニッキ。 壱闇 噤 @Mikuni_Arisuin

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