Day2‐3

 虚しさが込み上げて、涼香は目眩に襲われる。

 伸一が横からそっと支えた。こういう時だけ、彼は勘が良い。

「大丈夫?」

「ちょっと立ち眩み。訓練、大変だからさ」

 笑いながら言うけれど、伸一は納得がいかないという顔で彼女を見つめていた。その視線を無視して続ける。

「短いのと長いの、両手で扱うのって結構大変なんだよ。神経使うし、力の分配も必要だし。

 それに、左手を振っても短いから届かなくて。右手と左手を上手く使わなきゃいけないから」

「ほう」

「父が他の人に教えられなかったのが凄くわかる。とてもややこしくて、繊細で、それでいて暴力的。

 だって右手なら人を斬れるし、左手なら人を刺せる」

「確かにのう」

 伸一が唸る。想像がつかないのだろう。

 剣を振るっている涼香ですら、言葉で表すのが難しいのだ。いや、むしろ"剣に振らされている"と言うのが正しいのかもしれない。それくらい"彼ら"は扱いが難しかった。

 時折、泣きそうになる。自分の不甲斐なさに。惨めさに。孤独さに。

 そして、剣を振るう佐伯の姿に父親を重ねて。

 そういう時、少しだけ剣は軽くなるのだ。まるで、その思いを振り切れとでも言うように。面倒くさい心を断ち切ってしまえと。

 それが辛くもある。父が『自分のことは忘れてしまえ』と言っているようで。

「だけど、やっぱり涼ちゃんは三浦さんの娘なんじゃの」

 伸一が不意に呟いた。わけがわからなくて、首をかしげる。

「だって、同じことができるんじゃろ? それって、やっぱり凄いことだと思うけえ」

「同じことはできてないよ。全然うまくいかない」

「そりゃあ、佐伯さんにできんことがすぐできたら、天才すぎて怖いわ。今までその才能どこに隠してたんじゃってなるけえね。

 でも今はできんくても、いつかできるようになるんじゃろ。

 そう思ってるからこそ、佐伯さんは涼ちゃんの特訓続けるんじゃろ」

「そうなのかな」

 思ってもみなかった言葉を貰えたことが、ほんの少しだけ嬉しい。だけど、佐伯さんの期待を裏切ってはいけないという重荷がさらにのし掛かった。

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