The best way to predict the future is to create it

ピーター・ドラッカー/経営学者

Day2-1

 佐伯の訓練は毎日10時間にも及んだ。

 だけど、その時間だけが涼香にとっては楽しみだった。汗に濡れる二つの剣を見る度、父親に少しでも近づいた気がする。

 それに、と佐伯が以前言っていた言葉を思い出す。

『元帥が特別扱いしたんじゃ。俺がしたって、何も変わらんけえ』

 嘘つきな人だ。

 彼らが特別扱いしたことで、周りは腫れ物を触るように接してくる。伸一と佐伯、そして浅川だけが以前と同じように接してくれる数少ない人になっていた。

「お。終わったんか」

 部屋に帰る途中で伸一とばったり会った。

「……待ってたの?」

 涼香がそう聞くが、伸一はそ知らぬ顔で鼻唄を歌っている。

「偶然じゃ、偶然」

「何が偶然よ。伸一の訓練、もうとっくに終わってるでしょ」

「お、俺だけ特訓してもらってるけえね」

「へえ。どんな特訓?」

「それは……特訓じゃけえ、他人に言ったらいけんのじゃ」

「ふぅん。私と伸一は家族みたいなものだと思ってたのに。伸一からしたら私は他人なんだね」

「あ……いや……そういうんじゃのうて……違うんじゃ」

 目を泳がせながら反論するが既に遅い。涼香は笑いながら「冗談」と呟いた。

「……涼ちゃんはどうじゃ? 訓練はかどっとるかの?」

「まあね。マンツーマンだし。1ヶ月前よりはマシになってるかなぁ」

「佐伯さん、怖いじゃろ」

「そんなこと、ないよ」

 今度は涼香が目を泳がせる。

 正直な話"鬼将軍"の異名をつけられた理由が痛いほど理解できるくらい、彼女は毎日しごかれていた。だけど、ここで弱音を吐いてしまったら、全ての努力が無駄になる気がして。

 涼香は、にっこりと微笑む。

「そりゃあ、優しくはないけど。でも私がスキルアップできるように時間を裂いてくれてるし」

「あの佐伯さんがマンツーマンでやるのは、見たことがないってみんな言いよるけえね。

 涼ちゃんは恵まれとる」

「みんなが、ねぇ」

 みんなというのは誰なんだろう。心がざわついた。

 自分の運命が良い方向に決まった日のことを思い出す。良い方向、なのだろうか。"仲間"というものが、あまり感じられない状況になってしまった。

 そして、否応なしに思い出す。

 自分と同様、その日に運命が変わってしまった二人のことを。

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