Day1‐20

 ざわめきが波のように押し寄せた感覚がまだ体を包んでいる。

 ホールに併設されている小部屋に涼香はいた。険しい顔をした佐伯達に囲まれながら。伸一だけは素知らぬ顔で、壁にかかった写真を眺めている。

「お前、随分と死にたいんじゃのう」

 佐伯が涼香の肩を掴んだ。痛みに少し呻く。

「なんで……なんで、第一線なんて馬鹿なこと言うたんじゃ」

 彼は手を離さず、膝から崩れ落ちた。涼香はこの大男がこんな風になるのを初めて見た。

「……私は父の仇を」

「昔、約束したじゃろう!」

 その言葉が涼香の記憶を呼び覚ます。

「じゃあ約束じゃのう」

 幼い頃の佐伯の声が頭の中をぐるぐると回る。

 私は、何を、約束したんだっけ?

「お前の仇は俺がとるって、約束したじゃろ」

 佐伯が呟いた。

 重たい沈黙が涼香を取り巻く。ここでなんと答えたら正解なんだろう?

「……まあ、もう後には引けんけえね」

 立ち上がる彼の背中がいつもより大きく、そして遠く見えた。

「ここにお前の父親が使うてた武器が閉まってある」

 そう言って、近くの壁に手を触れる。暫くして、かちゃりという音と共に引き出しが開いた。

 現れたものに息をのむ。

 涼香の背丈ほどの大剣と、肘から手のひらほどの短剣が壁に立て掛けられていた。対照的すぎて、芸術品のようにも見える。

 ふらふらと彼女は立ち上がり、側に寄った。

「これが……父の」

 ワインのような深みのある赤い剣身に値踏みされているような、薄気味悪い感覚が身体中を駆け回る。

 柄にそっと指先を這わせた。

「……お父さん、久しぶり」

 仄かな暖かさを感じた。

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