Day1‐19

 場が静まる。

 女性の戦士志願は少ないことではない。しかし、それは実績があってのこと。

 ヒロシマでは幼い頃から剣道と弓道を教え込まれる。男性の関しては規定はない。志願するだけだ。

 しかし、女性に限ってはそこで結果を残せたもののみが、スカウトという形で戦士へと昇格できるのだ。それが古きよき"ニホン"の流儀らしい。

 結果がない者は戦場では足枷になる。

 それがわからないものは、もっと足枷になる。

 だから誰もが答えは"NO"だと思っていた。

「第一線は厳しいところじゃ」

 涼香ですら、却下されるのを覚悟していた。むしろ無謀な注文をした、と。窮地に追いやるためのAI賛同派のスパイか、と。疑われても仕方がないと覚悟していた。

「女一人そこにはいるのは大変じゃろう。しかし、お前の気持ちもわからなくはない。

 そしてその執念が、いつかワシらを救うと思う」

 ソヨギが涼香の肩にゆっくりと手を置く。

「お前を一生をかけて守ってくれるものはいるか」

 ゆっくり、ゆっくり問いかけた。

 自分を一生かけて守ってくれるもの。それは。

「"オリヅル"が今まで守ってくれました。

 だから次は私が守られる番じゃない。私を守ってくれた人たちを、父と同じめに合わせないように守るのが務めです。

 そして、それがいつか私を守ります」

 涼香もゆっくりと頭を上げ姿勢を正す。そして、しっかりとその目を見つめた。

 そこが見えない海のように黒い。

 どこかで同じような目を見た気がした。

「……お主に第一線は無理じゃ」

 ソヨギが見つめ返し、そして頷いた。

「じゃけえ、第二部隊として腕を磨け。そしてそこからは自分の力でのしあがるのじゃ」

「恐れ入りながらソヨギ元帥」

 佐伯が床に膝まづきながら叫ぶ。その後ろには浅川と葵もいた。

「彼女は実践経験は皆無なうえ、剣道、弓道においては平凡であります。

 彼女を我が第一線部隊に入れるなど。ましてや医療部隊や諜報部隊ではなく、第二部隊に入れるなど。

 危険極まりないかと」

「佐伯」

 ソヨギが体を佐伯へと向ける。大きな体が震えていた。

「なにゆえ、拒む。それはもしも、この娘が入った時に自分では纏められないということかのう」

「いえ、そんなわけでは」

「お主には隊長はふさわしくないっちうことかのう?」

「それは余りにもお言葉が過ぎます、ソヨギ元帥様」

 浅川がキッと睨み付ける。

「そう怒るでない。この男のこの発言が、どこから来るのか知りたかったのじゃ。

 彼がどれほど頑張っているか、ワシはすでに知っておる。"鬼将軍"という異名があることも知っている。

 だからこそ、しりたかったのじゃ。何故、この娘を守ろうとするのかをのう」

 ソヨギは笑いながら佐伯へと歩み寄った。そして、その背中を優しく叩いた。

「彼女の意思は強い。それに剣も弓も使えないのは、父親譲りじゃろう。

 それなら奴の使っていたものがまだ保管されているはずだ。あれを渡して上げなさい」

「しかしあれは……!」

「一樹も良いと言ってくれるじゃろう」

「……かしこまりました」

 ソヨギは涼香の方へまた振り返り「そういうことじゃ」と笑った。

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