Day1‐18

「君の名は何だね」

 涼香はゆっくりと唇を舐めた。

「三浦 涼香です、ソヨギ元帥」

「……三浦、と言ったかね」

「はい。父は三浦 一樹元隊長です。数年前、戦死しました」

「ああ……あの、三浦くんの娘さんか」

 ソヨギの目が優しく曇る。

「本当に、すまなかったのう」

「なぜ謝るのですか」

「あの時。もしもワシが『迎撃せよ』と言っていなかったら、彼はまだ君の隣で笑っていたかもしれん」

「過去の話です、ソヨギ元帥」

 もう一度、唇を舐めようとして、固く噛んだ。感情が込み上げそうだった。

「恨むかね?」

 ソヨギが目を伏せながら聞く。

 はい、と涼香は答えた。

 伸一が驚いて顔をあげる。元帥へ楯突くことは死を意味する。それを今、涼香はやったのだ。

 遠くにいた佐伯が驚いてこちらへ歩いてきている。腰に下げた剣に手を触れながら。

「恨んでいます。私の父を殺した誰かを」

 涼香はしっかりと、ソヨギの瞳を見つめた。そこには畏れなどなく、憤怒の炎だけが揺らめいている。

 その瞳をソヨギもしっかりと見つめ返した。

「そして君はどうする」

 ゆっくりとした口調で問いかける。

「私は」

 涼香が口ごもって俯いた。言ってもいいのだろうか。戦いたい、と。

 諜報部員でもなく、衛生兵でもなく。

 父と同じように第一線で戦いたいと。言っても殺されないだろうか。

「……大丈夫」

 ポツリと誰かが呟いた。

 その言葉に背中を押されるように、もう一度、ソヨギの目を見つめる。

「私は、父と同じ道を歩むために、今日、ここに来ました」

 ゆっくりと、噛み締めながら答える。自分に言い聞かせるように。父に届けるように。

「私は第一線への召集を志願します!」

 そう叫んで。

 涼香は深々と頭を垂れた。

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