Day1‐16

 天井からよく知る姿がぶら下がっていた。

 腕を拘束され、体が海老のようを折り畳み、痛みに呻いている。その悲鳴は猿ぐつわに吸い込まれている。

「……どうして」

 走り寄ろうとして腕を思い切り引かれた。

「動揺しちゃだめね。仲間だと思われるね」

「葵」

「奴らは私達を裏切ったね。だからああやって見せしめにされてるね」

「……どういうこと」

 葵も天井から吊るされている二人も、涼香と伸一には見慣れた顔だ。彼女達も捨てられた赤ん坊だったから。伸一と涼香ほど仲良くはなかったが、年に1度は必ず会っていた。

 最後に見た彼らの姿を思い出す。

 あの時は普通に、本当に普通に笑いあっていたのに。

「……っう」

 嗚咽が漏れそうになり、息を噛み殺した。

「何があったんじゃ」

 伸一が小声で葵に問いかける。

「何って……見たらわかるね。裏切ったね」

「裏切るってなんだよ、どういうことだよ」

「だから」

 葵が声を張り上げた。皆が何かとこちらを見る。

「あいつらはAIに賛同して、あたい達を売ったね! 売国奴ね!」

 場の空気が凍った。ざわざわとした囁きが一瞬のうちに静寂に変わる。

「冗談……やめてよ。私達一緒に育ったんだよ。そんなことなかったじゃない。二人ともAIのこと憎んでたじゃない! なのに」

「やめや、涼ちゃん」

 伸一が涼香の口を強く塞ぐ。

「みんなの目を見てみ。お前まで吊るされるで。俺はこんなとこで死にたくないけえ」

 彼の言葉も耳に入らないかのようにもがく。それを必死に押さえ込みながら、葵に問いかけた。

「でもよくわかったな、あいつらがそんなことしてるなんて」

「わかるね。浅川副隊長が目をつけてたね。だから、私がスパイしてたね」

 その言葉に涼香も伸一も固まった。

「お前……友達をずっと監視してたってことか?」

「尋問もしたね。あたいは一足先に"オリヅル"の一員だったから話を聞いたね。

 あいつらは言ったね。

 AIこそが主だってね」

 涼香が膝から崩れ落ちる。慌てて伸一は抱き止めた。

「……副隊長が疑ってたのは、あいつらだけか?」

 葵が鼻で笑う。

「私もあんたも涼香も、みんな。みんな疑ってるね」

 そして言った。

「あたいはいつでもあんた達のことも見てたね」

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