Day1‐15

「さ。そろそろ行かんと」

 伸一は涼香の肩を叩く。

「そうだね」

「緊張しとるんか」

「そんなことない」

「涼ちゃんが短く答えるときは緊張してる時じゃ」

 笑いながら彼は涼香の手を握る。

「こんな風に話せるのも今日で最後じゃ。

 俺は前線に行く。女のお前は多分、無理じゃけえ」

「そこは頑張る」

「……てことは、やっぱり残るんじゃな?」

 寂しそうに笑って呟く。

「何度繰り返しても変わらんか」

「え?」

「いや、何度聞いても変わらんかって言おうとしたら間違えた」

「変わんないよ。わかってるでしょ」

「そうじゃの。わかってはいるんじゃけど。やっぱりの」

「もし私が前線に出たところで、伸一が死ぬわけじゃないんだから。そんな悲しい顔しないでよ」

「……でも、俺は守らないかんけえ」

 そう言って歩き出した。

「まあ、自分の運命じゃ。受け入れよう」

「そんな悲観しないで。すぐになにか起こるわけじゃない」

「そんなのわからんよ」

 声が震えていた。

「でも今は何も起こってない。何かが起こったときに耐えられるように、私たちがいるんだから」

「耐えられるかのう」

 ゆっくりとため息をつく。それから笑った。

「初日からこんなんじゃ、何も報われんのう。楽しくいこう、楽しく!」

「なにそれ、伸一だけだよ、しんみりしてたの」

「そうじゃの。もう、これからずっと笑うわ」

 そう言って満面の作り笑顔を涼香に向ける。その顔があまりにも酷くて、彼女は笑った。そしてすぐ、真顔に戻る。

 目の前に大きな扉が見えた。

「お前たちの名を言え」

 門番が問いかける。

 二人は背筋を伸ばし右手を胸に当てた。

「三浦 涼香」

「野村 伸一」

「三浦 涼香、野村 伸一。二人とも良く来た。まずは元帥から話がある。大ホールに入ってくれ」

「はい」

 二人は同時に返事をし、最高礼を一つ残してホールへと足を進める。

 そして息を呑んだ。

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