Day1‐13
遠く離れていく伸一の背中が、いつもより小さく見える。
涼香は追えばいいのか追わない方がいいのかわからなくて立ちすくんでいた。
彼のことは自分が一番よくわかっていると思っていたし、なんでも知っていると思っていた。
生まれてすぐ捨てられ、ずっと一緒に育ってきたのだ。お互い養父母に貰われても、それでもずっと側にいた。嫌いな食べ物も好きな遊びも、口癖も。なんでも知っているつもりだった。
なのに、彼に好きな人がいることなど、涼香は一ミリも気づけなかった。伸一は教えてもくれなかった。
そんなこと当たり前なのかもしれない。それが普通なのかもしれない。
だけど、悲しかった。
「涼ちゃんのことは俺が守るけえ」
いつも伸一が言っている言葉が頭の中をぐるぐると駆け回る。
「……なにが守るだよ」
涼香は吐き捨てるように呟いた。
「信頼してないから言わないんでしょ。それでなにが守れるのよ」
足元を蹴る。爪先が床を弾いて、少し痛んだ。
「お。涼香。探したぞ」
後ろから佐伯が歩み寄って来る。
「伸一はどこいったんじゃ? トイレか」
振り返ってにこにこと笑う佐伯を睨み付けた。驚いた様子で彼は歩みを止める。
「……喧嘩でもしたか?」
この人は私に興味がないくせに、すぐにわかってしまう。涼香は悔しくて唇を噛んだ。
「涼香は本当に、伸一が大好きじゃのう」
だけど、この想いには気づいてくれないのだ。いや。
わかってて気づかないフリをしているだけかもしれない。この人はそういう人なんだから。
彼女は笑った。
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