Day1‐12

 涼香も慌てて歩き出す。

「ねえ、あんた好きな人いんの?」

「関係なかろ」

「私たち幼なじみなのに、全然気づかなかった」

「わからんようにしとるけえ」

「ねえ、誰なの? ……もしかして、浅川副隊長?」

 その言葉に伸一が足を止めて振り返った。そしてまた前を見つめる。

「図星……かな」

 気まずそうに彼女は聞いた。そして彼の顔を覗きこむ。

 今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「……ごめん。ちょっと調子にのった。ごめんね。今まで言わないでくれてたんでしょ? 私が浅川副隊長のこと嫌いだから。ごめんね、要らぬ気遣いさせて。ごめん」

「そういうんじゃのうて」

 必死に声を絞り出す。

「そうじゃないんじゃ……お前、ほんとに、俺のことわかっとらんし、興味ないんじゃの」

 今度は振り返ること無く、歩き出す。

「そんな、泣きそうな顔しないでよ。……待ってってば、伸一」

 涼香は慌てて彼の腕を掴んだ。しかし、伸一に勢いよく振り払われる。

「お前は、ほんとに、俺がわかっとらん」

 何が幼なじみじゃ、と呟いて歩き続ける。

 彼女は途方に暮れた様子で彼の後ろ姿を見つめていた。

「……何が、泣きそうな顔じゃ」

 一人、呟く。

「お前の方が泣きそうじゃったわ」

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